今吉と花宮
ふと今吉の部屋で適当に雑誌を捲りながら、今吉の後ろ姿をぼんやりと眺める。
漠然とした意識下で、ひとつ気づく。
「(ああ俺はこの人の傍にいて一番幸せなわけじゃないんだな)」
今更、実に今更だ。
自分がこの男が心底愛しているだとか、無ければ生きていけないだとか、そんなことは有り得ないだなんて百も承知だ。そんな俺たちは気持ちが悪いとさえ思う。
ただ、今一緒にいるのは事実としてある。
奇妙な感覚と、自己完結した確信があった。
今吉の傍にいること自体は腹立たしいことに幸せだ。しかしそれを上回る幸せをくれる人はいる。
でも俺は今吉を取るということ。
そもそも離れてくことをこの男は許そうとしないだろう。自分自身でもできないと思う。
長年に積もって固まった汚れのように、執着はもう取れない。
しょうがないこと。でもそれでいい。
今自分は幸せだから、この人の傍を離れて振り払ってまでして、その上回る幸せは欲しくはない。
ならばすることはひとつだけ、
手を離さなければいいだけのことだ。
「まこっちゃーーーん」
「・・・あにすんだ妖怪」
ふとこちらを向いた今吉が、ひょいと鼻をつまんだ。
自動的に鼻声になる。
「なんか小難しいこと考えとらん?目ェ座ってんで」
「・・・・別になんもないですよ」
ああこいつホント妖怪だ気味悪ィ、なんて思ったらそれすら見透かされそうだ。
誰にも理解してもらえないはなし。