【ジークとカティア】



胸倉を掴むようにして、強引に、力任せに体を丸ごと引き寄せる。
そうすると当然のように此方にやってきた顔に、そのまま自分の唇をぐっと押しつける。

触れたのは、普段は女らしさなんて欠片も匂わせない風貌だというのにやっぱり女なんだとわかるくらいに柔らかい唇。

なんて、思うだけで絶対口に出さないけど。


下手すると僕なんかより男らしいうえに一見すると男にみえてしまうほど飾り気がないけど、僕にとってはその辺の女なんかよりは綺麗に見えてしまう目の前の相手に押し付けていた唇を離して小さく息を吐いた。


目の前の彼女は何か言葉にしようとしているのに言葉にできないのか、真っ赤な顔で口を間抜けそうに開いていた。


「いっ、きなり、何をっ……!」

「え? 特に意味はないよ?」

「なっ!」


ソファに寄りかかって組み敷いた相手に、あっけらかん小馬鹿にしたように笑いながら言い放ってやると、今度は怒りからか今度は耳まで赤さを増す。

あまりに赤くなっていくもんだから、ちょっと面白くなってきてもう一度覆いかぶさろうとすると、今度はそれを制止するように僕の唇に人差し指を押しつけて顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけるように宣言してきた。


「二度目はないからな!」


そういって、さっさと後ずさろうとするカティアの腰に腕を回して引き寄せる。


「ねえ、カティー」

「っ、なんだよ! さっさとはな、」

「カティア、好きだよ」

「……っ、俺は、嫌いだ!」

「ん。じゃあ僕も嫌い」

「……なんだ、それ」

「はは、そんな寂しそうな顔しないでよ。可愛いなー」


柔らかい笑みを浮かべながら呟いた言葉は、カティアの思考回路を停止させるには十分な威力をもっていたようで、ぴたりと動きが止まった。

面白いなあ、なんて思いながら、自分を落ち着かせるように長く息を吐く彼女をそのまま眺める。

割とこの状況を楽しんでいる僕の心境が読めたのか、キッと僕を睨みつけながら言葉を吐き出すカティア。


「はっ、冗談だろ! かわいいのはあんたの方だ」

「何、それ? 褒めてんの?」

「もちろん」

「それは、ドウモアリガトウ」


にっこり。

苦し紛れに吐き出された言葉は、僕を苛立たせるには十分の効力をもっていた。
分かりやすく微笑みかけてやれば流石のカティアも地雷に触れたとわかったのか、腕の拘束から逃げ出そうと小さく身を捩りだす。


「ねえ、そんなかわいい僕に押し倒されたりしたら、いったいどんな気分になるんだろうね?」

「は? そんなん、最悪に決まってんだ、ろ、って、ちょっ!」


カティアが言ったと同時に、腕を引いてやって視界が回転。
そうしたら、僕の視界にはカティアの艶やかな黒髪と対照的に顔を真っ赤にした彼女の姿。


「っ、さいっあくだ!」

「……ねえ、カティア」

「なんだよ! もう、いいから、さっさと、」


「さいっこうだよ」






顔を真っ赤にしたその顔から言葉が放たれる前に、唇は塞いであげる


 
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