【梓萌と紫苑と翔】



「梓萌、あれ取ってくれない?」

「んー。はいどうぞー」

「ありがとう」

「いーえ」

「………」

「紫苑、あと入れるだけだよー」

「了解。野菜切り終わったら入れるわね。じゃああとこれ」

「オッケー。あとはやるからそれ御願いするねー」

「分かったわ」


「……何ていうかさあ。二人とも阿吽の呼吸なんだね」


とある休日の昼下がり。やらないときは思いっきりやらないを信条とする灰一行は、なんとはなしにだらだらとした時間を過ごしていた。

あまりのだらけ具合に暇になった翔は昼ごはんの用意をしている紫苑と梓萌を手伝いに来たわけだが、いつも通りの息の合った紫苑と梓萌の会話を聞き思わず翔の口から今のような言葉が零れた。

そして、感心するように深く溜め息を吐いた。



「いっつも思ってたけど以心伝心とか、一心同体って感じだよね。そんな風に言われた事ってない?」

「あったかしら?」

「んー……。何回か灰に良い笑顔で言われたことあった気がするよー」

「やっぱり」


梓萌の肯定に、翔は謎解きの答えを当てた幼子のように無邪気に笑った。
そしてまた同じようにその双眸を悪戯をしようと企む子供のように光らせ、からかうように笑顔は崩さないまま梓萌に囁いた。


「もしかして梓萌と紫苑って付き合ってたり、する?」

「ううん。そんな関係じゃないよ」


翔の期待に反して梓萌は顔を赤らめることも声を荒げることもなく、何時もと変わらない至って涼しげな顔でさらりと翔の言葉を否定した。

からかうことを目的としていた翔としては、そんな淡々とした梓萌の反応は予想外でつまらない。


若干不満そうな表情をしている翔に、今まで二人のやり取りを傍観していた紫苑はからりと笑いかけた。


「期待に沿えなくてごめんね。けど、私と梓萌はそういう関係じゃないのよ」

「でも、初めからいる蒼とかに比べても息が合ってるのに……」


二人からのやんわりと、しかししっかりとした否定に翔は不満そうに唇を尖らせた。
その顔にありありと書かれている不満の二文字を読み取り、梓萌は調理していた手を一旦止める。


「紫苑とはまだちっさい頃から一緒だからねー。それに俺が紫苑と組む事も多かったし、息が合うのも不思議じゃないよー?」

「蒼は私達の理解の範疇を超える行動をするから、私達から息を合わせるのは難しいのよ」

「ん。まあ蒼ちゃんに関しては深く理解できるよ」


それならばこの関係にも納得出来る、か?

少し、どころかかなり疑問の残るところだがこういうものは当人同士の問題であり、外野がとやかく言うのは問題がある。それでも、なんというか。


「そういうのすごくいいよね。僕も欲しいよ」


今度はからかうつもりは毛頭なく、凄く素直な感想として至って普通に言葉が翔の口から出た。
梓萌の方もそれが分かったのか、一瞬きょとんとして直ぐに楽しそうな笑みを浮かべた。


「うん。まあ紫苑はあげられないけど、ね」


からかうつもりで話しかけたのに、最終的には自分の方が一杯食わされた気がする。
面食らったような表情で梓萌を見ていた翔だったが紫苑と梓萌、二人の微笑んでいる姿を見て諦めたように肩を竦めた。


「……それは残念だな」


にこりといつもの笑顔が彼の顔に戻っていた。





±
当然のように頼りあう関係は、えらく綺麗なものに見えた


 
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