【カナタとユア】
ユアが人間。二人で歯車を探す旅をしている時のお話。




時間ばかりが経って、周りの世界の色が少しだけ薄くなったような気がする。
暗いばかりのこの世界で唯一の光のようにも感じる焚き火の明かりと火の粉が舞う音だけが静かな空間で存在感を放っていた。

背中の熱は動かない。寝たのだろうと思ってたら、ふと思いついたように声をかけられた。


「……カナタは、何故私なんかと一緒にいてくれるんだ?」


世界は暗く、希望などないのではないと明言するように静かだった。
小さな呟きのような声さえしっかりと音を拾えた。

少しでも寒さを凌ぐようにと寄り添う背中越しの熱がどこか遠いもののように考えていたところで丁度かけられた声に、少し驚く。

見た目には出さないように心がけても背中が触れているのだ。
少しの振動で自分の動揺に似た心境を読み取られたのだろう、小さく笑う声が漏れ出た。

居心地悪く感じながら見上げた空は相変わらずの一色で染め上げられている。
それを見つめながら、今言われた言葉を噛み砕いてみる。

何故、俺が、お前と、いるのか、か。


「……さあな」

「……適当だな」


今度こそ耐えきれなかったのか、あははと声に出して笑い出す。なんとも素直に感情を表現する奴だなあと何度か思ったことがある。
それは長所でもあり、短所でもあるように感じた。

どこか掴み所の無い雲のような印象を持つことも多いが、芯はしっかりしていて心が強い、不思議な奴。序に、人間。
いつの間にか自分の日常にするりと潜り込んでいて、今では共に闘う大切な仲間。そういう存在になったのは確かそれほど昔の話ではないと記憶している。

最初は行き場がなければ記憶もない彼女にほだされたというか、なんというか。
まさか隣にいることが当たり前のように感じる存在になるとは当時は考えもしなかった。


ゆらゆらと、幻想的にも見える炎が揺れる。
元々草タイプということもあり炎を扱うことを苦手としていたのだが、ユアと行動するようになってからは幾分かそうした意識も薄れてきた。


「逆に聞くが、お前は何で俺といるんだ?」

「……んー」


時刻を表すなら、真夜中。
ゆらゆれと揺れる炎を眺めていると、あまりに周りが静かすぎて自分がどこにいるのか、どこに向かっているのか、ほんの少しだけ不安になる。
偶に襲われる焦燥感は、いつまでたっても消えることはなく常に胸の内で燻っている。

いつの間にか息を潜めていたことに気づき、大きく息を吐き出す。背中に感じる熱に安堵する自分には、気付かないようにする。

こうも無音が続くと、二人して世界に切り取られたのかと錯覚しそうになる。


「……行くところがなかった、というのはもちろんある」

「……」

「助けてもらった恩を返したいと思ったのも本当だ」

「……ああ」

「カナタの考えに共感したのは事実だが、」


単純に、その生き方に尊敬した、というのもある。


聞かれたくなかったのか、本当に小さく紡がれた言葉は音のない空間で響き、確かに耳に届いた。


「お前は、変わっているな」

「あ、断定するな。私は結構普通の考え方してるぞ」


言葉こそ喧嘩腰のようだが、口調そのものはどこか楽しげだ。


本当に、変な人間だ。

俺の生き方なんて、この時代に生きる人間からしたら自殺行為と同じようなものだというのに。
理解されないのは、当たり前だったというのに。


「私は、カナタの生き方に尊敬した。というか、している。犠牲、という言葉は適切ではないのかもしれないな。自己犠牲とはまた違う。自分の正義を貫く生き方」


静かな空間で、ぽとりぽとりと落とされる音は優しい響きをもって俺の心の中のどこかわからない、深い場所に落ちていく。
不快さは、無かった。落ちたものは、自然にゆっくりと積み重なっていく。

あたたかい。

そう、素直に感じた。


「間違っているとか、そういうのは第三者が決めることだろ。私はカナタの考えは正しいと思った。だから、私はお前についていくし、助けたい、共に闘いたいと思っているんだ。
……長くしゃべると、何言ってるか分からなくなってきた。悪い、忘れろ」

「眠気もあるんじゃないか? もう寝とけ。明日動けなくなるぞ」

「そうするよ」


背後でごそごそと動く気配を感じるが、寝やすい場所を探し当てたのか、直ぐにそうした動きも止まった


共に闘いたい。


その言葉はするりと自分の中で溶けていった。


「……俺が、お前といるのは一緒に闘っていきたいと思っているからだ」

「……それ、最初の質問の答えか?」

「ああ」

「そうか」


そうして暫くすると、再び静かになる空間。しかし最初と違ってどこか温かさを伴った空間になったように感じた。

温かさの原因は決して目の前の焚き火だけではないことは、確かに分かっていた。






限りある幸福を感じていました




改めまして、桜灯さんお誕生日おめでとうございます! リクエストに適しているのかは相当怪しいのですが受取っていただけるとありがたいです。
ふわふわとした温かさとほんのりとシリアスっぽい空気を察していただければ幸いです(笑)←
まだ素直に笑えていたときのユアとカナタのお話。背中を預けるのは信頼の証。二人とも無意識に背中を預け合ってます。
行動を起こしているからこそ、二人とも最終的に消えてしまうことは理解している。だからこそお互い抱えている想いには蓋をしちゃってます。
あとどうでもいい設定ですがサバイバル状態で地面に頭をついて寝るのは敵の足音をいち早く察知できるっていう利点はあるけど起き上がる際の難点があるんで、ユアが寝るだけのときは背中を借りてます。

桜灯様に限り書きなおし受け付けてます。
これからも仲良くしていただければありがたいです(*^^)

 
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