ジュプ主



夢を見た。
それも、お世辞にもいい夢とは言えないものを。


いつもいつも熟睡とまではいかなくとも、それなりに快適に眠れているはずなのに。
これを見せた原因があるなら、文句の一つも二つも言ってやりたい。


それは、私の手の届かない所に消えていく夢。

私の一番大切で唯一無二の彼が。彼の温もりが。彼の声が、光が、瞳が、手が、彼の全てが私から離れていく夢だった。





「――ア、――ユア!」


意識がふわりと浮かんだ。ゆっくりと目を開く。
目の前が予想に反して明るくなかったことに驚いたが、それ以上にその原因に驚いた。

私の視界に一杯に彼が溢れていたからだ。

思わず、目を見開いてしまった。


驚きで体がショック状態のように動かない私に、彼は何故か安心したように微笑んで私から離れた。
若干寂しかったのは心の中だけで留めておこう。


「っと、起きたようだな」

「……ジュプトルか」

「他に誰に見えんだよ? まだ寝ぼけてんのか?」


頭がくらくらする。

視界も定まらないまま、彼へと視線を移す。


ああ、よかった。彼は、今、いる。大丈夫。消えていない。


安心したら何時の間にか張っていた緊張の糸がぷつんと切れてしまったようで、とめどなく涙が零れてきた。

遠目に心配していたジュプトルが、途端にぎょっとした顔になって慌てたように此方に歩み寄ってくる。


「おい、どうした。さっきからなんか変だぞ。変な夢でも見たか?」


変な夢。

私にとって、これ以上ない悪夢。


「……お前が、私を置き去りにして何処かに行ってしまう夢、だったな」


消えてしまうのは、もう嫌だ。離れていくのは、もう十分だ。

大切なものを手放すのは、もう経験したくない。


あれを悪夢と言わず、どう呼べばいいのだろう。


私の言葉にきょとんとしているジュプトル。
この沈黙に、少し恥ずかしくなってきたのでかかっていたタオルを顔から被る。


「馬鹿だな」


随分と優しい声音に誘われて、小さく顔を出す。
ジュプトルが伸ばした手が声と同じように優しく私の頭を撫でた。


「俺が、お前を置いて消えていくわけないだろ」


ジュプトルの言葉は、単純に大切なパートナーを失う気はない、という意味であって他意はないのだろう。
それでも、すごく有難かった。小さく頷いて、私は再度顔をタオルに埋めた。


「約束してやる。ずっと、一緒にいるよ」


重ねた彼の言葉。
私は、頷いた。今度は力強く、何度も何度も。






そうして、また浮かぶ意識。

目を開き、天井を仰ぐ。先ほど見た色とは違う、見慣れた色をした天井。そうか、また夢だったのか。随分と、長い、長い夢だった。


今、気づいた。あれは、嘘になってしまったんだんだ、と。


だからこそ、私はまたあんな夢を見てしまったんだろう。寝起きで回らない頭を抱えながら、考えに耽る。



私が今生きている世界。約束したはずの彼の姿は隣には、なかった。






破ったのは貴方であり、私であり、


 
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