ジュプ主



「笑ってみろ。気休め程度かもしれないが、少し楽になる」


無造作に私の頭をかき回しながら、吐かれた言葉。
一見すると、凄くぶっきらぼうで温かいとは言いづらい口調と声音。だけど、その中に彼の分かりづらい優しさは確実に含まれていた。


思わず縋り付きたくような、綺麗な低い声だった。何もかも擲って、飛びつきたくなるような優しい声だった。


そうは思っても普段は何かしらの皮肉を返したりするのだが、何故だか今はそんな簡単な事すらする気になれなかった。


「礼を言うよ、ジュプトル」


呟くように言葉を紡いで私は自分より背の高いジュプトルを見上げた。

なんとなく、自然と頬が緩んだ気がした。もしかしたら、今の私は笑えているのかもしれない。よく分からないけどそんな気がしていた。


「……笑えたみたいだな」


すっ、と視線を逸らされる。

一瞬、何かジュプトルの気に触ることをしてしまったのかと思い焦ったが、その横顔を見ると、どうも怒っているわけではない。どうやら、彼が照れているのだと悟る。

そうか。自分は、笑えているのか。作り物の笑顔ではなく本物の笑顔で。心から。

そのことがくすぐったくて。でも凄く嬉しくて、温かくて。更に笑みが深まった気がした。


「ジュプトルは、凄いな」

「……何がだ。いきなりどうした」

「何がって」


意外と他人を見ている所とか。私は、そういうものは優しい心の持ち主でないと出来ない事だと思う。
他人に気遣うことができて他人の気持ちを理解することができて初めて出来る事だと、思うのだ。とても自分では出来ない芸当だ。

常に仏頂面で、目付きも決してよくは無い。口調もどこかぶっきらぼう。
そんなジュプトルの外見と口調からでは分からない事だが。

素直に言ったら、ジュプトルは普段滅多な事では動かないその黄色い双眸を細めた。
眩しげに此方を見る。そんなジュプトルの表情に、何故だか心臓が跳ね上がった。


「ねえ、ジュプトル」

「なんだよ」


話しかけると、視線はあっさりと私から外された。


「ジュプトルはさ、名前は欲しいとか、思った事有るか?」

「……名前?」

「ああ。私はずっとジュプトルと呼んでるだろ? よく考えたらそれって種族名だからさ」

「お前がつけてくれるのであれば、欲しい」


そんな風にジュプトルに言われると少し照れる。
名前について話したのはこれが初めてだけど、長い間頭の中で考えていた事だったから直ぐに言葉にできた。


「では、カナタはどうだ?」

「カナタ?」

「意味はいろいろある。
彼方と書いて明るい方向へ突き進むって意味だったり。奏でるに大きいと書いて奏大の自分の夢や希望を成し遂げられて様々な意味で大きくなれるって意味だったり」


明るい方向、夢、希望。どれも私達のこれから進もうとしている事だ。
ジュプトルには私達の、私の夢であり希望である事を持っていて欲しいと、そう強く思ってこの名前を考えた。


「……ありがとう」


私の込めた意味を受け取ったようでカナタ、と繰り返し口の中で唱えているジュプトル ―――カナタ。


「それじゃ、行くぞ。ユア」

「了解、カナタ」






こんな私でも何度でもその名前を隣で呼び続けたい


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