ヨノジュプ 「ヨノワール」 「なんだ?」 話しかけられるのも、久々のような気がする。 最近ジュプトルは暇さえ見つけては書庫へ篭っていることが多い。 「俺は過去を変える」 強い意志を持って、一言。告げられた。 たった一言だったが、俺の思考を止めるには十分な破壊力を持った一言だった。 「……過去を変える、だと?」 何を冗談のようなことを言っているのかと、思わずジュプトルをまじまじと見つめ返した。 けれど、それくらいで揺らぐほど軽い意志ではないようで、奴の表情になんの変化もなく同じように俺を見返しただけだった。 「正気か?」 「ああ」 「……過去を変えればどうなるか、知らないわけじゃないだろ?」 コイツが知らないはずが無い。 元来読書家でかなりの量の本を読んでいるジュプトルと幼い頃、共に読んだ絵本。 それは、過去を変える事の弊害や起こりうる可能性が描かれていた絵本だった。 たかが絵本、されど絵本。 書かれている文字は子供向けで、非常に簡単な言葉で書かれているものだったが、記されている事はどれも事実だった。 俺でさえ、細部を覚えている。とても印象深かった本だ。そんな作品を、コイツが覚えていないはずが無い。 「知った上での、この発言だ」 「死ぬ気か?」 「変える事でそうなるのであれば、俺は別に構わない」 決意は揺るがない。意志は曲がらない。強い瞳の光は濁らない。 自分がこうと決めた事は、一切曲げない。信念は貫き通す。 ジュプトルはそういう奴だと、分かっていた。だから、今のは唯の確認だった。 「そうか……」 「だから、ヨノワール。お前も、」 「俺は、断らせてもらうよ」 言葉を遮るように己の意志を差し込む。 これはある意味当然のような判断だと、俺は思っている。 誰だって、簡単に死にたくは無い。 「なんとなく、予想はついてた」 苦笑するように言葉を返してくるジュプトル。 予想してたなら、どうしてそんな事を言ってきたのだろうか。 不満そうに思っていたのが表情に出ていたらしく、あまり饒舌ではないジュプトルが再度口を開いた。 「一応の、ケジメだ。俺と、お前のしっかりとした境界線を作り出すための」 キョウカイセン 口の中で唱えると、不思議な事に音にはならなかった。 俺と、コイツの間の線引き。交わらないために引かれる線。 「お前とは此処で別れるとしようか。おそらく、次に会う時は敵だろうが」 「……そうだろうな」 口元に見せた綺麗な笑みに視線を奪われた。ジュプトルは普段から仏頂面で、笑みを見せる事なんて、滅多に無い事だったから。 この笑みは、俺との決別の笑み。己の意志を貫き通すという信念を乗せた笑み。 そして俺のことを一瞥し、一度視線があったかと思えば直ぐに逸らされた。 そしてやつはもう迷いもしなかった。 俺に背を向け足音高々俺とは違う未来に向って走り出した。 伸ばしかけた手を引っ込めて、俺も進む。 あいつとは、全く逆の未来に向って。 大切でした 誰より、何より、君のことが 引き返すことは、もう出来ない。あいつも俺も、戻れない。 |