振り返りは反省と感想




なんやかんやで、ミナトがプクリンと話しているのを横目で聞きながら欠伸をかみ殺していたら、何時の間にかぺラップが私達の部屋を案内してくれることになっていた。

おお、ある意味ミステリー。そんなに会話が進んでいたのか。



親方様の部屋を出て、そのままテクテクと進んで行った先にあったのは、意外と快適そうな部屋。

って、あれ? 部屋一つなのか? 男女共同?


「えっと、ぺラップ。俺とユアって同じ部屋なのかな?」

「ああ。そのつもりだよ! 第一、一人一部屋ずつなんて見習いなのに贅沢すぎるよっ!」

「そうじゃなくて……」


それじゃあ、っと言いたい事だけを告げて部屋を出て行くぺラップ。

空しくも、呼び止めようとしたミナトの手は虚空を彷徨うこととなった。


「ミナト、腹を括れ」

「ええ! それユアが言うの!? 俺は多分平気だと思うけど、ユア大丈夫!?」

「あんまり気にしない」

「あー。うん。ユアがそういうポケモンだって事は、よく分かってたよ」


何故か私の顔を見て、深く溜息を吐かれた。失礼な奴だな。


そして、公正なるジャンケンの結果。今夜寝る布団? いや、藁と言うべきなのか? まあ兎に角、寝る場所が決まった。


「わあー。予想以上にふっかふかだよ! これ、結構寝心地良いよ!」

「……」

「え? もうユアは寝る体制? 早い! 早すぎるよ!」






眠れるはずが、無い。


ベッドに寝っ転がって数分。隣のミナトは、もう既に動きがなくなって大人しくなっている。

けど、私はどうしたことか、目がさえて眠れない。

私はどうしてポケモンになったんだろう。これからどうなるんだろう。


そんな、様々な想いが頭の中を駆け巡って目を閉じても、頭が寝かせてくれなかった。


「ねえ、ユア。起きてる?」


隣から聞こえてきた声。寝ていたと思ったら、まだ起きていたらしい。


「起きてる」

「あのね、改めて言うと照れくさいんだけどね。
俺1人だったら絶対にこのギルドには入れなかったよ。ユアのおかげだよ。ありがとう!」


そう言って小さく喉を鳴らしたような音が聞こえたから、多分笑っているのだろう。
ミナトが今どんな表情をしているのかが容易に想像が出来た。


「ねえユア」


笑い声が止んだと思ったら聞こえてきた真剣な声音。
これは、先ほどのように流して聞くべきでは無いと判断して、耳を傾ける体制を整える。


「俺はさ、やっぱり弱い。この先絶対一人では解決できないことがあると思うんだ。だから、その……」


言葉を濁すミナトに、なんとなくだがその先を察して口を開く。


「確かに、お前は腑抜けだな。見ていて苛々したことが無かったとは言えない」

「……自分で言ったこととはいえ、やっぱりちょっとショックだな…」

「だからと言って、少なくとも私はお前のことを弱いとは思っていないよ」

「……ユア、ありがとう。でも、弱いのはやっぱり事実だよ」

「大体、弱い強いと言うのは一体何を基準にして言っているのだ。レベルか? 権力か? その程度のもので、強弱はつかないだろ。

これは私の持論だし、根性論だから参考程度で聞いてくれ。

自分の信念(ココロザシ)を持てている人間は、決して弱くは無いんだ。
私からすると、ミナトはしっかりと信念を持てているから決して強いわけではないが、弱くない」


久方ぶりにこれだけ長い言葉を喋ったから、少し疲れた。基本的に誰かと話すことは苦手だ。

それでも、こんな私でも、飽きもせずに話しかけてくれる奴は、存在した。おぼろげな記憶だがそれは確かに存在していた。

誰だかは思い出せない。どんなヒトだったかは分からない。

けど、存在はしていたんだ。


「ユア」


はっとする。

何時の間にか考え込んでいたらしい。ミナトの声をきっかけに意識を元へ戻す。


「色々とありがとう」

「この程度、気にするな」

「それと一つだけ」

「………?」

「これから、よろしく」


「……此方こそ」




ギルドで過ごす最初の夜。
それは時間を惜しむかのようにゆっくりとゆっくりと更けていった。

 
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