命名、王冠




扉の先には、プクリンの後ろ姿。

ああ、なるほど。このギルドの形と同じように親方様つまりはボスはプクリンということか。


「親方様。こちら、弟子入りを希望している者です」


……


あれ? 反応、無しか?


「親方様… 親方様?」


反応が無かったので、ぺラップが何度もプクリンを呼ぶ。
するといきなり、


「やあ! 僕プクリン。このギルドの親方だよ! 此れから探検隊に成るために一緒に頑張ろうね!」


緊張感を保っていた空気がプクリン基、親方様の気さくな言葉で崩された。

なんだ、このどうしようもない徒労感と緊張感。行き場をなくして身体の中を彷徨っているぞ。多分。

ミナトは、というと。此方は私のように戸惑っているのではなくどこか安心したような表情。
予想していた親方様像に比べて、大分気さくそうなポケモンだったからその安心だろうか。やはり、かなり緊張していたらしい。


「それじゃあ、早速だけどチーム名を登録するよ♪ 君達のチーム名は?」

「……」

「え? 俺? 俺は全然考えて無かったよ」


言わずもがな、私はミナト任せだった。大体、チーム名というのは私達で決めるものだったのか。


「俺だと無理だから、ユア。御願い」

「……私に任せたことを後悔するが良い」

「うええっ!?」


この記憶の範囲内で名前をつけた記憶は無いが、ネーミングセンスはかなり怪しいぞ。


「じゃあ、“クラウン”」


思いついた名前は、王冠。
いつかミナトと私が王冠をつけるだけの度胸と力、そしてそれだけのを身につけてやろう、という意志を表した名前だ。


「くらうん?」

「王冠。いつか私が王になるという意味を込めてみた」

「クラウンか……。うん、良いね!」


だんだんと人の言葉をスルーするという技術に磨きが掛かっている気がしてならない。
まあミナトが笑ってるし、いいか。

一応言っておくが、本気で私が王になろうとか考えてたわけではない。


「決まりだね♪ じゃあ登録するよ♪

ともだち、ともだち…… たあーーーっ!!」


……たあー?

よく分からないが、一瞬だけだが地面が揺れた。こればかりは気のせいだと思いたい。


「登録完了♪ 今日から一緒にがんばろうね♪」


今のが登録機能的なやつだったのか…! 随分と画期的な機能だな。

そして私はそういうのが結構好きだ。親方様ことプクリン、どうしよう大好きだ。


「じゃあ、今日から探検隊見習いだよね! ユア、一緒に頑張ろうね!」

「……おう」


笑みを深めたミナトに、此方も笑顔で頷き返す。

……久々に笑ったら、頬の筋肉が少しつりそうになった。決めた。私、滅多なことでは笑わない。


「記念にこれをあげるよ」


私達のやり取りを見て、尚もその笑顔を崩さないプクリンがことん、と小さな箱を私達の目の前に置いた。

ミナトが恐る恐る開いてみる。


『探検隊バッジ』『不思議な地図』『トレジャーバック』が入っていた!


「うわあ! 凄いね!」

「『探検隊バッジ』は探検隊の証。
そして『不思議な地図』はとても便利な地図なんだよ。色々と活用すると思うから大切に扱うんだよ!
最後に『トレジャーバッグ』。
これはダンジョンで拾った道具を取っておけるんだよ。そして、キミ達の活躍でバッグの中身もどんどん大きくなっていくという、とっても不思議なバッグなんだよ♪」

「凄い! 凄いね、ユア!」

「……確かに。不思議という言葉では表しきれない位、不思議だ」


一体どんな構造で、どんな物質を使って作ればそんな代物ができるというのだろう。どこぞの未来の猫型ロボットのポケット並の不思議だ。

ミナトが凄い、と言っている意味は多分私が考えているような意味合いではないのだが、私はこれしか考えられない。
いや、構造を本気で教えて欲しい。


「……ありがとうございます! 俺達、此れから頑張るよ!」

「うん。でもまだ見習いだから、修行頑張ってね!」


俺達ということは私も勿論、頑張れってことだよな。


……早くも帰りたくなってきた。頑張るのが嫌なわけでは無いけれど。



 
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