思いがけない禁止語句




「……は? 擬人化?」


洞窟を入る事になり、あまりに私がこの世界について無知だったため、ミナトに簡単なレクチャーを受ける事に。

そして、気になる単語があったので、思わず聞き返した。


「あ、やっぱり知らないんだ。俺らは擬人化、要は人の姿に成ることができるんだよ!」

「……何故?」

「えっと、それは、……よくわからない、です。ごめんなさい」


しゅんとしてミズゴロウの耳?のようなものが垂れ下がっているのを見て、自分の中に残っていた若干の良心が痛んだ。


「いや、其処まで興味はない」


無駄な事は、考えない。

ニンゲンがポケモンに成ったんだ。それぐらい出来ても何だ問題はない。……はずだ。


「しかし、擬人化とは、どうすれば……」

「難しい事はないよ、ただ人の姿になりたいって思えばいいんだ。あー、じゃあ俺が先ずやって見せるね」


そう言うなり、ミナトは眼を閉じた。

すると私より小さかったミナトの体はぐんぐんと大きくなり、青い癖のあるオレンジ混じりの髪とオレンジ色の長いマフラーのようなものが特徴的な青年になった。


「これが、俺の擬人化した姿!」

「……おお」

「え? それは驚いてるの?」

「要領は、心得た」


要は、願えば良いんだよな。

軽く瞳を閉じ、強く、願う。


「……あれ?」


ミナトの不思議そうな声に瞼を上げると、見下ろされていたはずのミナトの瞳と同じ高さに。

あ、ミナト。私と同じ位の背だったのか。

ニンゲン時と同じ慎重だと考えると、ミナト、少し小さくないか?
男子の平均身長は知らないが、どうなんだろう。


滔々とくだらないことを考えつつ、自身に異常は無いかと自分の身体を見回す。

先ず色は普通の肌色。手も足も、ニンゲンのそれだ。
ただ、髪の長さこそ変わらないようだったけれど、色はオレンジ気味の赤へと染まっていた。
瞳の色は、自分では見えないから分からない。
視界そのものは大して変動していないように考えられるから、恐らく問題はないだろう。



―――――ポケモンも、ニンゲンになれるなら……、



一瞬だけ、沸いてきたよく分からない考え。沸いた理由も分からない。突発的に降って湧いた考え。

思い出したいような、思い出したくないような気がして、慌てたように首を横に振ってこの考えをかき消した。


「うん。何ら違和感ないな。……ミナト?」


何故かは分からないが、固まっているミナト。目の前で手を振ってみる。


「……うおっ!」


反応あり。


「どうした? 固まっていたが」

「えっとその、……ユアって、女の子だったんだ、ね」


一瞬予想外の言葉が返ってきたので、目を瞬かせる。


コイツは、気付いてなかったのか?


「あ、その、ごめん! その、言い訳になるけど、ユアって凄くカッコいいし、男前って言うか……」

「……もういい。言いたい事は、伝わった」


要約すると、女らしくない、と言う事だな。あまり気にしない事にする。


「あのー、怒って……?」

「ん? 怒っていないぞ。さあ、進もうか」





―海岸の洞窟―




洞窟に入ってから、ミナトは意外なユアの凄さを強制的に知った。知ってしまった。主に恐怖的な意味で。
うわあ、と若干引いたような表情のミナトは冷や汗が出てしまっている。

総合的に見て、ユアは凄く強かった。道具についてよく知っているし、出て来る敵の弱点も熟知していた。

加えて、飛びぬけた身体能力の高さ。


「うごっ」

「がっ」


先ほどから、ユアの攻撃を喰らった哀れな敵ポケモンの悲鳴が絶えない。

あ、凄くきれいに決まった上段蹴り。
今のところ一切技を使っていない。素手、素足の攻撃なのにあそこまで攻撃力が高いものなのか。

なにかの憂さ晴らしのように黙々と彼らに攻撃を繰り出すユアは、正直かなり怖い。


「あの、やっぱり、怒ってる……?」

「ミナト」

「はいっ!」


聞えた低い声。思わずミナトは肩を竦め、勢いよく返事をする。


「貴方は近くにいる敵を、なぎ倒せ」

「いえっさー!」


逆らう、と言う文字はミナトの頭からは綺麗に消えてしまっていた。
またも前方から聞えたポケモンの悲鳴に思わず耳を塞ぎたくなったミナトであった。


「それにしても、ユアは強いね」


落ち着いてきたのか、ずんずんと進んでいった歩を緩め、ミナトと並び歩き出す。


「そうでもない、だろう」


困ったように、けれど無表情のまま返答。


「そういう、ミナトも中々だ」


自分のことを弱虫だと言っていたが、それは過小評価なのかもしれない。
ユアにそう思わせるには十分な働きを先ほどからミナトは見せてくれていた。


「いや、俺はまあ戦ったことが無いわけじゃないから……。ユアはニンゲンだったんだろ? だったら凄く強いよ、やっぱり」

「……では、人間だった頃の記憶が、身体に染み付いてるのだろうな」


そう言って少し寂しそうにユアは小さく笑った。

ミナトはまだユアと出会って長い時間を過ごしてはいない。寧ろ、短いくらいだ。

れど、ミナトの計り知れない辛い経験をユアはしてきた、確証はまったくなかったが、なんとなく、本当になんとなく。ミナトはそんな気がした。


 
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