ジュプ主前提主+パ



太陽が水平線へと消えてしまう直前の姿と言うのは、俺の知っているどの景色と比べても一番綺麗なものだと思っている。

そして、その景色は綺麗と同時に儚さも含んでいるように感じたのだった。



慣れた動作でサメハダ岩の、穴になっている部分で外に足を伸ばし、海を眺めているユア。もしバランスを崩しでもしたら、一発でお陀仏だと言える。

危ないなー、と思いながらも確かにユアが其処に存在していることに安心して、声を掛ける。


「此処に居たんだね」

「……ミナト、か」


俺のほうには振り返らない。視線は変わらず海の方を向いている。俺の声だけを聞いて人物を判別したらしい。

確認するように俺の名を呼ぶ声は俺であることに何処か安心したようにも聞えた。
けど、声の主が俺であることに寂しさも少しだが、確かに含まれていた。


「ねえ、隣良いかな?」

「……」


無言で横にずれて人一人分のスペースを空けてくれるユア。
分かりづらい彼女の気遣いに、思わず苦笑が零れてしまう。無表情で、更には寡黙だと人にあらぬ誤解を与えてしまう。

気をつけてもらわないと。俺も最初、男の子かと思ったんだから。彼女があまり多くのことを語らないことは元より承知している。

ふわりと笑顔を浮かべ、そのスペースにユアと同じように足を伸ばして腰掛ける。


「うわ、これ予想以上に足が風になびいて怖いね!」

「……慣れれば、どうとも」


思わない。

そう言うかのように、ユアは首を緩く振る。無論視線は海から外されていない。


「景色、綺麗だね」

「……」


俺の言葉に今度は無言で首肯するユア。これも先ほど同じく首を緩い動作で上下に振るだけ。

彼女の視線の先には、俺が大好きな光景。丁度、太陽が水平線へと沈んでいく光景だった。あたり一面が暖かな赤色に包まれている。

美しくも、何処か脆いような儚さを含んだ光景。


「ねえ、ユア。俺が頼りないのは知ってるよ」

「……何だ?」


唐突に話し出した俺に、訝しげな視線を浴びせる。漸く視線を俺に向けてくれた。

もう太陽は海の向こう側へと姿を消していて、今度は辺りが暗い闇の色へと変わりつつあった。


「俺は頼りないけどね。ユアの話を聞く事はできるんだよ?」

「別に頼りないと考えたことは、ない」


先ほどの否定の力に比べて強く首を横に振るユア。語調も若干強い。
ありがたいしやはり嬉しいけど、ユアがそう言ってくれる事も、なんとなく分かってた。


此処から、俺は少しずるいかもしれない。けど、俺は、君に壊れてほしくないんだ。

今からする事を赦してくれなくてもいいよ。怒ってくれて構わないよ。ユアだから無いとは思うけど、嫌われても良いよ。


「俺は、今此処に居るよ」

「……見れば、分かる」


俺から離れ、どんどん下へ下へと下がっていくユアの視線。比例するように、語調もどんどん弱くなっている。


「俺もギルドの皆も、ユアのことが大好きなんだ。だから、一人で抱え込まないで」

「……そんなつもりは、」

「ない。って、断言できるの?」

「……」


やはりか。零れる苦笑。

明らかに“何か”を抱え込んでいるのはもう随分と長く一緒にいた俺からしたら、簡単に分かると言うのに。


「ユア。俺らはね、ユアだけが傷を背負い込んで欲しくないんだよ。大切だから」

「……」

「―――きっと、ジュプトルも、ユアの事は大切だと思っているから、俺に全て任せたんだ」

「……!」



完全に下へと向いていた顔を、俺の方へ向けるユア。此方を見上げる彼女の瞳の力は依然弱い。始めて見せる、反応と呼べるだけの反応を見せてくれた。

そのことに心のうちだけで安心しながら、口を開く。


「ユアには笑っていて欲しいんだ。だから、辛いなら俺に吐き出して。ユアが笑えないんなら、俺がジュプトルに怒られちゃうよ。

だけど、今は、今だけは、泣いても良いんだよ」


我ながら、彼の名前を使うのはずるいと思った。けど力のもたない俺にはその手段しか残っていなくて。

弱いながらも確かに光が残っていた意志のある瞳が揺らぐ。


「……後ろ向け」


命令口調で言っているにしては微かに語尾が震えている。言葉の強さは変わらず冷静だけど何時もとは確実に違う声音に、俺は大人しく従った。


「今だけ、だから」

「うん」

「ちゃんと、笑えるように、なるから」

「うん」

「だから、」

「いいよ、泣いて。少なくとも俺は今、ユアの隣とは言えなくとも、絶対離れたりしないから」


背中の布が引っ張られる。その先から、かすかに伝わる震え。海が近いから聞える細波。その合間合間に小さく聞えてくる泣き声。


純粋に、バカだなあって思った。こういう時には思いっきり泣けば良いのに。

けど、限界まで泣き声を押し殺して泣くユアはいつものユアらしくて。厳禁だけど、少しだけ安心したんだ。



既に完全に沈んでしまった太陽。

何時の間にか上がっていた月をぼんやりと眺めて、きっとユアが今一番会いたいであろう彼のことを思い出した。



(ツガイ)



ジュプトルの抜けた穴は、すごく大きい。

やっぱり、俺じゃあお前の分の穴は埋められないんだよ?
だから早く、姿を見せてよ。俺の大切なパートナーのユアが、壊れてしまう前に、早く。


俺のパートナーは、ジュプトルの大切なパートナー、なんだから。


 
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