「ぼくはきみがすきだ」
こんなにも棘のある一輪の薔薇が美しいのはきっと彼の手のなかにあるからだ、とわたしはふとそんなことをおもった。つい先日、通常の人間の2倍はあるお腹がチャームポイントらしい髭のはやした中年の男性がわたしに交際を申し込もうと大きな薔薇の花束を腕に抱えていたが綺麗という言葉などこれっぽっちも浮かぶことはなかった。だから純粋に目の前にいる美青年をすごいと心の底から尊敬をした。きっとこの美青年の隣にたつ女性でさえも綺麗に美しく輝くのだろう。女の子にとっては理想の王子様だ。
「もしものはなしよ」
「他の女性がきみを憎もうとぼくが守るさ」
「…もしも、あなたの手を取らなかったら?」
けれどもわたしはちがう。踊り娘のように美しくは踊れないし貴族の娘のフリをしろといわれてもできなければこの腰にひかえる刀を捨てろ、なんてまっぴら御免なのだから。わたしの言葉が感に障ったのか、キャベンディッシュはまるで先程の優しい王子様とは程遠く、血相を変えてわたしの右手を強引に握った。
「こたえはひとつさ。あの麦わらのルフィのようにまずは君の手配書を手に入れて刃物で切り刻んだあと燃やして、それでもぼくの気がすまなかったらきみの船長である麦わらのルフィの首でももらおうかな」
「…じゃあこたえはノーよ」
わたしの右手の甲にくちづけを落とそうとする男の頬を咄嗟に平手打ちをして、わたしは彼に背をむけた。
「さようなら」
@Cavendish/0520