眼鏡な犠牲者確保 [ 5/7 ]
1−5の教室の扉の前に立ち、しばらくはじめはそのままでいた。教室の中からは人を殴る音や机に何かがぶつかる音が頻繁に聞こえる。それと同じく聞こえるのは一人の生徒に対する暴言
毎日のように放課後どこかの教室で行われるという事は聞いてはいたが、まさか自分の教室で堂々と繰り広げられているとははじめも思わなかった
やがて大きくため息を吐いて、はじめは扉を開ける
「―――ア"?誰だ?」
五人の男たちが固まっている中で、一番身長の高い男がこちらを見る。そしてその集団の真ん中には傷だらけの間宮が居た。間宮ははじめに気付くと目を広げる
「まみりんのお友達でーす。もう勘弁してやってくれませんかねー?」
「椎名ッ…!」
逃げろ、そう目が訴えている。しかしはじめは間宮に笑顔を向けるだけでそのまま立ち止まっていた。対する男たちは下品に笑っている
「んだよ、間宮にも友達なんていたのかァ?」
一人の男が間宮の髪を掴み上げる。苦しそうに顔を一瞬歪めた間宮だが、すぐに睨む表情に変わった。男は不機嫌になるが、はじめはそれを見て笑ってしまう
「間宮がなんでお前らに屈しないか分かる?」
「はぁ?」
「自分よりお前らの方が劣ってるって分かってるからだよ。ガキんちょをなだめてるのと一緒」
そのままはじめは間宮の傍に近づく。最終的には間宮を後ろに隠し、自分が盾になるように立てば、にやつきながら男を見上げる
「いじめの原因聞いたよ。お前の好きな女の子が間宮が好きだったからだってね。まぁ、それもあるだろうけど、成績優秀で顔もまぁまぁで、おまけに身長もある。自分にはないよなぁ?間宮が羨ましかったんだよなぁ?…で、ガキんちょなお前らはいじめでしか間宮の上に立てなかったんだよなぁ?同情するぜ本当、
馬鹿には」
「っ、このアマッ!!!」男が殴りかかって来るが、――その手は男の後ろの、より大きな手により阻止された。はじめの後ろには橘が息を切らして男の手を握っている
「ちょ、本当ッ、女の子に駄目だろッ、!」
「え、何気橘君紳士?
いやーんイケメン(きゅん)」
「お前良くこの場面でボケれるな!!!」突如現れたドス黒いオーラで睨む不良(に見える)に男たちは怯え始める。やがて舌打ちをして男たちはその場を立ち去った
髪を掴まれた所為で中立ちになっていた間宮がため息と共に床に座る。はじめはポケットからハンカチを取り出し間宮の口元を拭う。最初は抵抗していた間宮だが、次第に顔を赤くしてそのままされるままになった
「………なんで俺が、」
「俺がいじめられてるって知ってるかって?入学式のときに偶然みちったんだよ」
はじめは拭うのを続けたまま笑った
「私も大の男数人を相手に出来るわけじゃないから、先生でも呼ぼうかなーとか思ってたんだけどさ。…お前凄い男共睨んでるんだもん。おまけにふざけんなだと死ねだと言ってるし。いじめられたのがあれが最初かと思ったら、お前の同中に来たら中一からだって?すごいよね、三年間もあいつらに抗ってきたんだから」
「…。」
「そういう奴は嫌いじゃないから、あいつらに威張れる位の陸上選手にしてあげる」
間宮は一瞬目を見開くが、すぐにそれを戻して、眼鏡を一度右手で上にあげる
「…気に入ったから、陸上に入れと?」
「うん、その精神力に惚れちゃったのさ」
拭い終わったハンカチを間宮に押しつけると、はじめはそのまま立ち上がる
「さぁて、保健室でも行くか。橘君まみりん担いでー」
「180p級の男一人担げと!?」橘とはじめが騒がしく言い合っていると、間宮が震えだし、最終的に吹き出した。それからしばらく二人の唖然を無視して笑いこけている。そして笑いが収まれば大きく息を吸って、――はじめを見上げる
「俺は、陸上に関しては初心者なんだが、それでもいいか?」
はじめは一瞬目を開ける
が、すぐに笑顔へと変わった
「私がそんな事でお前を手放すとでも?」
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