入学早々 [ 2/7 ]

空に木霊する乾いた破裂音

それと共に走り出す選手達

そう、選手達はこの数秒に全てをかけているんだ





「インターハイ優勝やったな!」

「そうっスね、けどなんかもう「当たり前」なんっスけどね」

「は?」

「もう勝つことに嬉しくないんです」



一位の選手、――私の教え子はそう言った。







***



「笹川(ささがわ)、今なんて言った?」

「あー?だから、この学校に陸上部はないって」



気だるそうに煙草を吸いながら笹川は言う



「お前ちょっといい感じの奴らあつめて作れ、顧問くらいはしてやる」

「お前本当に教師かよ」

「教師だよ、女子高校生のミニスカで朝から頑張れる高校教師だよ俺は

「何を頑張るんだよ馬鹿野郎」


肺に吸いこんだ煙を一気に吐く



「ま、なんとかなるだろ。それよりもはじめ。後1分で遅刻」



はじめが顔を真っ青にして時計を見れば、――8時29分
無造作に置いてあった鞄を掴めば、そのままドアへと向かう



「放課後覚えてろよお前の机の中のエロ本のモデルの顔全部私にしてやる!!」

「それ自分も貶してるって分かってんのか?」



うるさい!と一喝してから物理準備室を出る
全速力で走れば間に合うかもしれないが、生憎遅刻というだけで出す事はプライドが許せない

八割の本気を出して私廊下を走っていると、後ろから自分とは違う足音が聞こえた
おそらく同じ境遇の生徒なのだろうと後ろを振り向く



(って背高ッ!?足長ッ!なのになんであんなに遅いの!?)



男なのに長髪で、目つきは非常に鋭い。しかも背が高い。そんな奴が汗をかきながら走っていた
よくよく見れば高いのは背だけではないことがわかる



(筋肉の付き方が陸上向き…中学で陸上してたのか?でもにしては筋肉はついてない)



稀に「陸上向き」と呼ばれる体があると聞いたことがある
足の内側、肩。陸上には欠かせない筋肉が人より付きやすい体系
それこそ鍛えれば「陸上の神童」とも言える存在

けれどはじめはそんな逸材を見たことがなかった




「君も遅刻!?」



息を切らしてながら、自分に話しかけてきた



「まぁな!ってか君名前なんてーの?何処住み?彼女いる?身長いくつ?体重は?

俺ナンパされてる!?最後なんか変なの付いてたけど!」



少し困ったような顔をしながら、「橘(たちばな)!」と自分の名前を言う



「そう!橘君!君陸上部に入らない?」

「なんで!?ってか、ここ確か陸上部ないんじゃ「あるし、つか作るし、私部長になるし」え!?」



正直初めから部活をつくるなど無理だと思っていたはじめだったが、目の前にいる逸材を逃がすわけもなく。――彼は不幸にも巻きこまれていく。

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