日々ストレイシープ


  

『使えないならガンナー使うなよゴミwww』
 まただ。今日も私が原因で試合に負けて、私が過去にタイムラインでミッションとして呟いたものに凸ってくる先程の味方の鋭すぎるこの言葉。もう慣れてはいるのだ、毎日のように戦犯してはチャットでも責められて、でも本当に私のせいで負けてしまっているから私は黙ってそれを受け止めるのみなんだ。
『なあ何か言えよ、謝れないの?w相手の養分にしかならない無能メグメグwww』
『なんであの時C行かないでドアで1陣飛んできたタンクに構いっぱなしだったわけ?残り時間10秒で最大まで拡げ切ったAを取ることは出来ないの知らねえ初心者ですか?そのS4は飾りかよwwwwww』
『バフかかったマルリリ相手に俺1人でかなうわけないじゃんカス。味方タンクがリスポ地点に来た時点で前線戻れよ、マップ見ろゴミ』
 今回の人はなかなかにしつこくて、私がミスった何もかもを全て書き出してくる。もうわかった、わかってるんだよ私だって! 全部事実だから何も言えないってことに気がついて欲しい。謝ったら謝ったでまたぐちぐち言われるのが怖いから何も反応出来ないんだ、私が悪かったよ、わかってるよ。もう来ないでよ…!
『お前に使われるヒーローが可哀想、コンパス向いてないよ』
 この言葉で我慢していた涙がぶわっと溢れてきた。味方に対する罪悪感と、いつも一緒に戦ってくれるメグメグとサーティーンに辛い目に合わせてしまっていること。私が指示するよりも自分で動いた方が遥かに立ち回りが上手なはずなのに、アリーナという場所に出てしまえば、私の出した命令でしか動けない。そのせいでいつも流れてくるチャットに顔を歪めながら戦ってくれていることも知ってる。きっと二人とも、こんなヘタクソな私のことなんて大嫌いなはずなのに今まで文句の1つも言わないで、一緒に頑張ろうねって言ってくれる優しいヒーロー。二人にはなんの悪いところはないのに、辛い目に合わせてしまっている。
 もう、この人の言うとおりアンインストールした方がいいんじゃないか。
「あー勝った勝った今回も俺は絶好調…って相棒!? どうしたんだよ!!」
「さ、っさーてぃーん…うっ」
「どうしたどうした、何でそんなに泣いてんだ……ん?」
 サーティーンは私の頭を撫でながら端末を覗き込んできた。そこには先程のタイムラインの様子と凸ってきた人のコメントが映っていて、コレが原因か、と呟き端末の電源を切った。
「んなコメントは見なくていいんだよ、暇人が襲って来たと思っとけ! な!」
「でも私いつも、二人に辛い目にあわせて…もう嫌だよ…っ」
「あーっ! サーティーンがハビー泣かせてるー!! 何してるの!?」
 そこに先程一緒に戦ってくれたメグメグが現れ、状況を知らない彼女はサーティーンが私を泣かせているように思ったらしい。ガトリンを置いてきた身軽なメグメグは走りながら私の方に向かってきて、勢いよく抱きついてきた。
「どうしたの名前、とりあえずこの筋肉質なガンナーもどきをバラバラにすればいい?」
「おいテメェ」
「だーってサーティーンが何かしたからこんなに泣いてるんじゃないの!?」
「ちっげぇよ! 俺が名前を泣かせるはずないだろーが。あの約束は破ったりなんかしねぇ」
「……本当なのハビー?」
「ん、…私が泣いてるのは、サーティーンのせいじゃないよ」
 それより約束ってなに?、と聞こうとしたところで抱きついてたメグメグから端末を奪われ、TLをするするとスクロールしている。私はそこにコメントされている内容を思い出して、恥ずかしさと申し訳なさでまた涙が溢れてきた。見ないでほしかった、事実しか書かれていないそのコメントを見てメグメグが同感するかもしれない。あんなプレイだ、いい加減メグメグも私のプレイスタイルに口出してくるに違いない。サーティーンだってこうして頭を撫でてくれているけど、本音はさっさと私なんかよりも腕の立つプレイヤーにめぐり会いたいと思っているんだろう。
 でも、そんなこと考えていてもやっぱり離れて欲しくない。ずっとずっと一緒に戦ってくれた二人に拒絶されるなんて、そんなの嫌だ。こんなヘタクソなプレイヤーでもいつも励ましてくれて、ボロボロな指示でも今回はここが良かったよ!っていい所を見つけてくれる優しい二人。甘えていることはわかってる、でもその甘えに縋っていないと一人でやっていけないんだ。
「……見ないで」
「え? 何か言ったハビー…」
「見ないで!! 嫌だよもうこんなこと言われるの、事実だから余計に深く傷付けられる! 二人は優しいから何も言わないけど、本音では呆れてるんでしょう!? もう、もう嫌だよ……っ弱い自分が、こんなにも憎い…!!」
 メグメグから端末を奪い取るようにして、自分の手でぎゅっと握りしめた。私の叫びを聞いたメグメグとサーティーンは一瞬驚いた表情をしていたが、すぐに真面目な顔になってこう言う。
「ハビー、お風呂入ろう」
「……えっ?」
「風呂上がったら俺とアイス買いに行くぞ」
「は?」
「そしたらベッドでメグメグとサーティーンが一緒に寝てあげる」
「ちょっと…?」

***

 メグメグとサーティーンの言った通り私はメグメグとお風呂に入り、サーティーンとアイスを買いに行き、そして今は二人に挟まれるようにしてベッドに転がっている。
 まずはお風呂。メグメグが用意したという泡風呂にちょっとだけテンションが上がり、その様子を見て気分が良くなったらしいメグメグは「ハビーの身体全部洗ってあげるからね♥」と私の全身を泡まみれにされくすぐったさと楽しさに笑ってしまった。それを見たメグメグはすごく楽しそうだった。
 お次はアイスを買いに行った。サーティーンが珍しく自分のお財布を持っているからどうしたの、と聞くと今日はアイスを奢ってくれるらしい。いつも私のお金で何かしら強請ってくるサーティーンだから珍しいこともあるもんだ、と思いながら遠慮して安いアイスを手に取ると、好きなものを選べと言われる。「今日くらいワガママになってみろ」と言われたので、どきどきしながら高くて美味しそうなアイスを手に取った。サーティーンは満足気な顔で、また私の頭を撫でてくれた。
 現在、メグメグとサーティーンと一緒に横になっているわけだけど、私は真上の天井を見ているのに対し、横にいる二人はずっと私の顔を見ている。正直落ち着かないので、声をかけようと口を開くと、私より先にサーティーンが言葉を発した。
「相棒、もうあんなこと言わないでくれよ。俺もメグメグも、呆れてなんてねえからな」
 サーティーンが呟く。そんな優しい声で言わないでよ、また涙が流れちゃうじゃん。
「何があったってメグメグたちはハビーのヒーローだよ」
 メグメグが私の手を包ながら、優しい笑顔でそう言ってくれた。ああ、ダメだな私。この二人に助けられてばかりで、いつも情けないところ見せて。でも、そんな私の姿を見ても離れていかないこのヒーローたちにこれからもずっとずっと一緒に頑張っていきたい、甘えていきたいと思ってしまうのはいけないことなのかな? 例えそうだとしても、私はきっといつまでも甘えてしまうと思う。このヒーローたちが私を見捨てるその時まで。
「二人ともありがとう。本当に、本当に大好きだよ」
 だから、これからも甘えさせてね。

***

 メグメグとサーティーンが交わした、名前が知らない約束。それは周りがいくら名前を泣かせても、自分たちは絶対に名前のことを悲しませたりしないということ。
 確かに名前のプレイスタイルはお世辞にも上手とは言えない。今いるS4というランクだってほぼ味方任せのキャリーで上がってきてしまって、デキレだって無課金だからそこまで無い。
 だけど名前は名前なりに、一生懸命戦っていることを、メグメグとサーティーンはどのヒーローよりも知っている。指示を飛ばすのも悩んで悩み抜いて、自分が最善だと思ったものを必死で伝えている。それが例え間違っていても、それは試合後に「伝える」だけでなく、次に繋げるために「教える」ことが出来ればそれでいいのだ。
 名前が毎日のように飛んでくる煽りに心を痛めてるのを見るだけで二人の表情は歪み、しかし自分たちは何も出来ないから、せめて名前のそばにずっと居てあげられることしか出来ない。本当は煽ってきたプレイヤーをズッタズタのボロボロにしてやりたいが、それも無理な話だ。
 だから、その傷を埋めるくらいに自分たちで名前を笑顔にしてあげたい。だって、自分たちだって名前のことが大好きだから。
 これはメグメグとサーティーンとの間で交わされた、誰も知らない小さな約束。


  

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