下ごころ恋ごころ
あのバカ男が倒れたらしい。
全く、他人が大好きで仕方ないからって自分の体調くらい気遣えよ!もっと自分を大切にしろ!!
…的なことをソイツの部屋にまで足を運んで言ってやれば、何故か引きつった笑みが返って来た。
「………あ、うん…ごめん……」
本当に反省してるのか分からない。
…あれから数週間経った今日。またあの馬鹿男が寝込んだ。
もう馬鹿としか言いようが無い。アイツは馬鹿だ。超お人好しな馬鹿だ。
「夏目!」
「なまえ、ちゃん……!?」
無断で部屋に押し入れば、ベッドの上で寝込んでいるソイツは面白いくらい驚いた顔をしていた。
髪は肩に垂らされていて、顔には熱が集まっているはずなのに、酷く青白い。
…見ていて苛々するな。
「苛つくなら来なきゃいいじゃない」
「私もそう思うが、それよりもお前がいつまで経っても体調管理が出来ないことのほうが苛つくんだよ。ほら、コレ」
「…これ、なまえちゃんが?」
「これでも料理は得意なんだよ」
ベッドの上で体を起こした夏目に渡したのは雑炊。
胃にも優しいし、中途半端な体調不良の時にお粥は味気なく感じるから、今のコイツには丁度いいだろう。味見したけれど、我ながら上出来だった。
…のに、夏目は何度も私と手元の雑炊を見てくる。そんなに意外だったのか。
「…毒なんて入れてないぞ」
「あ、いや…疑ってはないよ」
「じゃあどうしてそんな腑に落ちないって顔をしてるんだ」
「…なまえちゃんに、」
「ん?」
うっかり惚れそうになっちゃった。あはは。
…だそうだ。
「あーそうー…って、はぁあ!?」
いきなり何を言い出すんだこいつ!!?
「いや〜だってさ、ボクが倒れる度に世話焼いてくれるし、それに今回の料理」
「ち、ちがう!」
「これって期待しても」
「よくない!」
さっきから意味の分からんことを吐く夏目(なんかすっごく楽しそうだ)に私はどんな対応をすればいいのか分からない。
ただ、分かるのは。自分の顔に異常なほど熱が集まってきていることくらい。
「なまえちゃん顔真っ赤」
「うるさいっ!とにかくそれ食って今日は早く寝ろ!それじゃあ精々元気でな!!」
それだけ言って早々に部屋を出る。
私の一連の行動に下心なんてものは無い。…はずだ。