ミルクティーの水面に溶ける
「なーんか、この時間帯って面白くないわー」
「どーして?いいじゃないか、こんなに良く晴れた午後」
「だって眠くなっちゃうし、テレビはつまらない番組しか流れてないし」
おまけに高校生である主を迎えに行くまで後数時間あるし。昼寝するには短すぎるし。
…なんて曖昧な時間。
「曖昧なのが嫌い、か。なまえちゃんらしいね」
「そーお?自覚無いわー」
まぁ昔から何事もハッキリさせたい性質(たち)だったけどさ。勝負事とか。
そんな言葉を漏らしながら手元のティーカップに手を付ける。ラウンジにあるテレビも今はあんまり面白くない番組しかやってない。一応付けてはいるけれど、私も夏目も、それからちょっと向こうのテーブルに座ってる野ばらも、誰も興味を示していない。
しいて言うならば司会者の声がBGM代わりだろうか。私には子守唄に聞こえるけれども。
「あー…暇ぁーー」
「そーいやなまえちゃん。副業のバイトはどうしたの?」
「辞めた。君には是非夜にも来て欲しいーとかなんたら言われて、断るのがめんどかったからね」
「夜は出歩けないもんねー」
「うんー」
紅茶の苦さが少し気になって、私は卓上の砂糖に手を伸ばした。角砂糖を摘んで、ひとつ、ふたつ。カップに落とす。ミルクティーの水面に波紋が生まれた。
ついでにミルクも追加すれば、…うん、なんかぬるくなったけど丁度よくなったかも。
「…なまえちゃん」
「お?」
「角砂糖、何個目かな〜?」
「えっと、…七個?」
糖分取り過ぎだよ、と夏目に笑われる。と言うか半ば心配されてる。将来的な問題で。
あれか、糖尿病とか?まあどうでもいいや。
「よくないでしょ」
「別にダイジョーブだよ。糖分は私の全ての源だし」
「…まったく、なまえちゃんって……」
「む、何よお」
「いや、面白いなって思っただけだよ」
ずずず、と残りのミルクティーを一気に飲み干せば、…あらま、底に溶けずに残った砂糖が溜まっていた。勿体無いのでスプーンで掬って口に運ぶ。ざらりとした甘い砂が、舌の上で溶ける。
私を見、くつくつと笑う夏目を尻目に、私は更なる甘味を求めて席を立った。
眠気はいつの間にか、消えていた。