スイング2
「ご飯誘って貰ったってことは、返事を貰えるって期待していいんですかね」
我ながら何処か他人事のように呟くと、折原さんは一瞬ナイフを持ったまま固まり、
「う、うん」
と、ぎこちなくステーキを切り分ける。
―なんか意外。 ―折原さんって、もっと女慣れしてるのかと…。
たかが私からの告白で、ここまで動揺するとは。 普段の嫌味っぽさは影を潜め、まるで初めて告白された学生のように慌てている。
―可愛いけど。
そんなことを考えていると、折原さんは不意に決心を固めたようにこちらを見た。 私もフォークの手を止め、折原さんを見つめる。
「…あの、さ」 「はい」 「…本当だったら、すぐ返事しなきゃいけないのに…変に時間空けて御免ね?俺、あの…ほら、……びっくりしてさ。それで…」 「大丈夫です」 「……そっか」
会話のきっかけを失ったように口を閉ざしかけ、折原さんはまた迷った後、
「…それで、さ」 「はい」 「……なんで白井さんそんなに落ち着いてるのさ」 「折原さんが慌ててるからです」 「……俺、そんなに慌ててる?」 「だいぶ」 「……」
こういうの、不慣れなんだよね、と苦笑いする。 それから『って俺が言いたいのはそれじゃなくて』というような顔をして、
「…白井さん」 「はい」 「…一度しか言わない…というか言えないから、ちょっと、聞いてくれる?」 「聞いてますよ」 「…あの、ね」 「はい」 「俺、さ」 「はい」 「…白井さんが、…好き、なんだ」
……え。
目を丸くすると、付け足すようにぽつりぽつりと話す折原さん。
「…俺、てっきり嫌われてると思ってて…。いきなり告白されて、信じられなくて、…しかも俺、…こんなんだし、…こういうとこ知られたら愛想尽かされるかなとか色々考えてる内に、気付けば定時で…」 「ま、待って下さい、折原さん、私が好きだなんて素振り全く…」 「…うん。片想いはいつものことだし、そこは何か割り切れるけど。…でも、想われてるって思ったら、なんか恥ずかしくなって……って言わせないでくれない!?」 「喋りだしたのは折原さんの方ですよ」
冷静に言葉を返し、私は整理するために少し考えた。
私は折原さんが好きで。 折原さんは私が好きで。 折原さんは私に嫌われてると思ってて。 だから折原さんはあんな意地悪な態度を取ってたけれど。 意識すると、こんなヘタレちゃう、ってこと?
―何この人。可愛いなぁ。
「白井さん…」
『やっぱり嫌われたかも』というような目線を受け、私は気持ちを伝える事の大切さを実感した。
―伝えないと、この人は落ち込んでしまう。 勝手に勘違いして、諦めてしまう。
私はニコリと笑った。
「じゃあ、私達両想いだったんですね」 「う、うん…。そういうことに、なるね」
―楽しい。 ―折原さんともっと話したい。私の言葉一つ一つに、何て返事をしてくれるのか、どんな行動をしてくれるのか…楽しみで仕方ない。
「じゃあ折原さん。よかったら、私と―」 「ま、待って」
口を開いた私を制し、一生懸命な瞳を私の視線にぴったりと合わせ、
「俺が、言うよ」
物凄く恥ずかしがりながら、折原さんは言った。
「―好きです。俺と、付き合って下さい」 「はい」
―普段見せることのない、可愛い笑顔で。
fin
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