背中越しのピエロ 後編


「…おい。メンドクセーから出て来い」

じゃねぇと入るぞ、と普段中を見せるのも嫌がる祐季の様子を思い出しながら言う。
そして何度かバンバンと叩くが、祐季は物音一つ立てない。

「居留守してんじゃねーよ、山崎にずっと篭ってるって聞いてんだ」

ちなみにこれは嘘だ。これくらい言わなきゃあこいつは出てこない。
―しかし俺の予想は外れ、祐季は全く反応を見せなかった。これだけ切り札を出しても何も言わないとは相当なようだ。

だが。俺には未だに良く分からない。俺が1位を取ったから、何だ?何をあいつはそんなに拗ねることがある?

知らない奴に、上っ面だけの俺を評価されたところで、俺には響かない。
俺のことを本当によく知ってんのは、お前だろ。俺は俺のよく知るお前に、評価してもらいてェ。叶うなら、――高く。

「……あんなんより、お前に好かれてる方がよっぽど嬉しいに決まってんだろ」

小声になってしまったが、恥を忍んで本音を呟く。

「…オラ。だから出て来いバカ」

その台詞と共にバッと襖を開けると―――


「………えっ」


いねェェェェ!?

祐季の部屋には誰の姿もなかった。
う、うおおおおお!?俺今とんでもなく恥ずかしい奴じゃねーか!?

「ちょ、ちょっと待て、ってことは――」

別に祐季はそこまで拗ねてた訳ではなく。何の反応も無いのは当然だ、だって祐季はそこにいないのだから。

「マジでかァァァァ…!!」

先刻とは比べ物にならない羞恥心が俺を襲う。ひとしきり悶絶した後、それからようやく気づき、慌てて今の一連の流れが誰にも露呈していないのを確認すべく辺りを見渡すと――

―ぴっ
『あんなんより、お前に好かれてる方がよっぽど嬉しいに決まってんだろ』
「…っ…!…ククッ、…!」

携帯片手に必死に笑いを堪える祐季の姿があった。

なッ…よりによってお前かよォォォォ!?

「祐季テメェェェェェ!い、いつからそこに居やがった!居るなら言えよ!っつーか何録音してんだァァァァ!」
「ブハッ、あ、あぁバレた、ブフッ、アッハハハハハハハハ!副長はっずかしーーー!」
「うるせェェェェェェ!」

大声を張り上げ、今までのことを無かったようにしようとするが、そうもいかず。
それは仕方ないとしても、だがあの録音の音源だけは何としても消さないと、かなりマズいことになるのは目に見えている。特に総悟の手に渡った日には最悪だ、俺は実家に篭るかもしれない。

「頼むからその音源だけは!あいつにはくれてやるな!」
「あいつって隊長?」
「総悟以上に厄介な奴がどこにいんだよ!」
「坂田の銀時さんとか」
「あ゙あ゙あ゙、あの天パにも流すな頼む」
「どうしよっかな〜」

楽しげに携帯を目の前にブラつかせ、ニヤニヤとする祐季。
クソ、こんな奴にあんなこっ恥ずかしい台詞言うんじゃなかった…!

「んー、じゃあこうしよ。交換条件」
「交換条件?」

反射的に眉をひそめるが、今はなりふり構っている場合ではない。俺のプライドを守るため、ここを折れる訳にはいかないのだ。

「言ってみろ」

それでも既に苦い顔をしながら促すと、祐季は先ほどまでの笑みの色を変え、照れたようにはにかんだ。

「…さっきの台詞、私に向けてもう一回言って?」







「仲直りしたんですね」

上機嫌で屯所内をうろつく祐季の姿を見て、山崎が良かったですねえと声をかけてきた。
何が良かったですねえだ。結局俺のプライドはズタボロだ。

「はぁ、……酷ェ目に遭った」

とはいえ、最悪の事態は免れた。今日のことは一切誰にも知られることはないだろう。
それに、とニコニコと笑う祐季を見て、少し思う。

まぁ。
あいつが嬉しそうな様子を眺める気分は、悪くない。






「ちなみに俺の順位は12位です」
「お前地味が売りな癖に、近藤さんに怒られるぞ」



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