滴る雨の鳴き声は


「嫌いなんですか」

去りゆく後ろ姿にそう言ってしまえば、彼は立ち止まって。
振り返りもせず、ただ言う。

「なにが言いてェ」
「嫌いなんですかって。だから怒ってるんですか」
「怒ってねーよ」
「怒ってるじゃないですか」
「黙れ」
「銀さん!」

名前を読んでも、振り返ってはくれない。
私にその顔を見せてはくれない。
いつもいつも、背を向けて。
私に向き合ってくれない。

「私が嫌いなら嫌いでいいでしょう。お願いだからこれ以上、」

貴方を好きにならせないで。
唇を噛んだって、拳を握ったって、私の精一杯の我慢に貴方は気付いてくれない。

「――嫌い、って言やァ満足なのかよ」

半身だけ身体をずらし、銀さんは頑なにこちらを見ず言う。

「……銀さん…?」

でも、でもね。ごめんなさい。
私気付いたよ。
分かっちゃった。
貴方の声、震えてる。

「なら言ってやる。お前が嫌いだ」
「銀さん、こっち向いて」
「大嫌いだ、オメーなんざ、ずっとずっと昔から、」

俺のモノにならねェお前なんざ、大嫌いだ、と。
確かに今、そう言った。

ぽた、り。
雫が零れる。
それは私の雫じゃなくて。
その雫を払いたくて、その固い背中を包みたくて。
銀さん、銀さん、と。
一歩ずつ貴方に近付く。
銀さんはそれでも一歩、私から離れようとしたけれど。
ついに駆け出した私から逃げられるはずもなく。

「銀さん、どうして」

後ろから抱きすくめてそう聞けば、銀さんは肩を震わせた。
昔から、銀さんは泣き虫なんだ。
泣き虫で、寂しがり屋で。

「お前が好きで、好きで好きでたまらなくて。好きなのにお前は、すぐ、いなくなっちまう」
「いなくならないよ」
「俺の過去を、お前は知ってるだろ。…何してんだ刑事さんよ。仕事、しろって」
「銀さん」

ようやく、こちらを向いた銀さんは、両目に涙を溜めて。
じっと私を睨み、射すくめる。

「俺を殺せ、祐季」
「ころさない」

確かに私は真選組の一部になった。
白夜叉の彼を捕らえれば、私の役職は上がるかもしれない。
その代償として、彼は紅い花を散らせることになるのだけれど。
でも、その為になった訳じゃない。

「…銀さん」

お願い、私を見て。
私の言葉を聞いて?

「好き、好きだよ、大好き。私は貴方の敵だけど、貴方が私を嫌わないでいてくれるのなら、私は貴方を愛し続ける」
「…俺のモノに」
「なる。なりたいの」

一雫、貴方の目から零れた涙を、ゆっくり指で拭い取る。
私の指先は冷え、銀さんは僅かに目を細めた。

「…それなら」

俺の弱くなっちまった心を、捕らえてくれよ。
掠れた声で囁く音が、私の身体を痺れさせる。
ぽた、ぽたり。
降り始めた雨に紛れ、どちらともない涙を拭いながら、
私達はお互いの心臓の音を、確かに聞いた。


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