56やあ、皆
「やあ、皆。連れてきたよ、新しい子」
そんな風に紹介されながら部屋へと案内されたので、正直恐ろしすぎて泣くかと思ったが、しかし私を迎えてくれたのは、
「いらっしゃい」 「大変だったね、でも、人生もそんなに悪くないんだよ」 「ここで療養すれば、貴女もきっと生きる楽しさが見つかるよ」
そう言って充実したように笑う、過去の被害者達だった。
その後、私は素性を明かしてロスに事情聴取した。 ロスは抵抗することなく、ただ残念そうにそっか、と頷いた。出頭する気もあるらしい。
「でも御免、もう少し時間が欲しい」 「どうして?」 「君と同じタイミングで来た子達に、まだ何もしてあげられてない」 「は?」
ここは、自殺したい人間を更生させる場所らしい。 月に一度、掲示板で募って、数人連れてきては、有難いお説教の後、一ヶ月間ここで自給自足の健やかな生活を送らせる。 そうして一ヶ月後、生きる意味や価値に気付けた子を帰していく。 ここはそういう場なのだと、ロスも、それから被害者の子達もそう言った。
「掲示板に書き込むのは、若い子が多い。若い子っていうのは、自分の狭い世界の中で完結してしまって、すぐに絶望してしまうんだ。勢いがあるからね。でもだからこそ、凝り固まった大人より更生させやすい。簡単だ、生きるってのがどういうことなのか教えてあげればいいんだ。好きな人と過ごすとか、友達と仲良くすることだけが生きる事じゃない」
自殺希望でない私もそんなお説教を受け、そして電波も届かないというので私としてはロスに頼る他なく、半ば強制的に承諾した。
「てことはユキちゃん、家族の人とか心配してるな」 「多分凄く。ねぇ、やっぱり帰して貰いたいんだけど」 「んー、やだ」 「やだって子供か」 「じゃあこうしよう。ユキちゃんの代わりを作る」 「作る!?」
こいつそんなことも出来るの!?クローンとか!?
「ああごめん、言い方が悪かったな。代わりの子を連れてくる」 「えっと、どういう」 「地球人は知らないだろうけど。簡単に言えば平行世界があって、俺らはその間を行き来出来る種族なんだ。まぁつまりは、この世界に来たがってる身寄りの無いお嬢ちゃんにそっくりで名前も同じ女の子を、お嬢ちゃんの元いた場所に送るってこと」 「………」
一気に言われて何も理解出来てないんだが。
「ユキちゃんが着てる服も持ち物も全部その子にあげよう。うん、そうすれば上手くいけば一ヶ月くらいイケるでしょ」 「…つまり影武者?」 「いい例えだね。そんな感じ」 「…待って、それでも全然分かってない。一体ええと、何が」 「あー、じゃあいいや。今の聞かなかったことで。どうせお嬢ちゃんには今のとこ直接関係ないし。後で俺が勝手にやっとく」 「えっちょっ、でも!」 「さっ、ユキちゃん。折角だからユキちゃんも健全な精神を作ろうぜ☆」 「何だこいつゥゥゥ!!」
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