Not dating-2
「どういう意味だと思う?」
いつもの面子をランチに誘ってケーキタイムに突入しつつ、ぴっとフォークを突き立ててそう聞けば、 一部始終を聞き終えた相手は苦笑いを浮かべた。 面子といってもそいつ1人だけなのだが。
「帆風ちゃんはまず女の子の友達を作ったほうがいいと思う」 「そんなこと聞いてないじゃん」 「なんで俺にそんなこと相談するかなー……」 「いいからいいから」
ねっ、とケーキをすくって口元に運ぶと、生意気にもこの山崎退はイヤイヤとそれを拒否した。
「あーあ。どうせ俺はこんな役回りですよ」 「何の話?」 「そりゃ、女の子にご飯誘われたらちょっとは期待するじゃん。でも俺いっつもこんな!わかる?ねえ!どうやったらモテるの!?」 「えっ何突然なんで私が相談受けてるの」
突如ヒートアップした山崎をたしなめつつ、今度こそ聞き逃さぬようしっかりと目線を捉えた。
「落ち着いて山崎。あのさ、私と山崎ってツーカーの仲じゃん」 「仲良い、って言いなよ……」 「普段から冗談言い合ってどつき合ってる仲じゃん。 それでもこーやってランチしたことはないし、今日が初めてだし、てかこれデートなの?同僚とご飯行くのってデート?」
尋ねると山崎は、至極当然のようにあっさりと頷いた。
「いい歳した男女が2人で出掛けるなら、一般的にデートと呼ぶと思うけど」 「これも?」 「ランチデート。少なくとも俺は一般的考えとして、帆風ちゃんとどうこうを一通り考えた上で来てるよ。逆に言えば、帆風ちゃんもその一通りを考えた上だと思ってるよ」 「うっ…」
いつまでも子供の考えではいけない、と突き刺されたようだった。 ぐっとそれを飲み込み、それなら、それならと、最初の件をもう1度尋ねる。
「……土方さんも、そうなのかな。土方さんも、私とのどうこうを、その、考えた上で、誘ってくれたのかな。土方さんって、もしかして私のこと」 「それは人それぞれじゃない?」 「ハァーーー」
期待しきったところでこれだ。くっそーデイリーヤマザキめ。
でも山崎の意見は大変に参考になった。 今後山崎から誘われた時は十分に考慮した上丁寧にお断りするとしよう。
「ごめんね山崎。そんなつもり更々なかった。今後も絶対にない。二度と誘わない」 「いやちょっとそこまで言われると本気でへこむからやめて」
挙句奢らせてしまうという様々な面で山崎に負担をかけるだけのランチは、そうやって解散となった。 至極申し訳ないけどまあそういう日もあるよね。
そのまま仕事に向かうという山崎と別れ、帰り道にありがとうとメールを打ち、少し考えた後 もう二度と誘わないけどと念押しして、また言われたことを考えてみる。
単純ながら期待値は上がってしまっていて、ちょっと浮かれ気味であるが、その反面怖くもあった。 だって好かれるようなことなんて、なにも。そもそも私は目につかない場所にいたのに。
とはいえ、山崎の言葉通り、人それぞれである。
やはりこの胸のうちを晴らすには、土方さんと向かい合う他ないようだ。
それが一番、難しいのだけれど。
心構えとして決心したものの、土方さんとあれから会う機会がほとんどなかった。
形式上のみの隊士である私は、実質のところ女中のようなもので、 他の隊士と話すことはあれど、副隊長様ともなると姿を見かければ良い方だった。
「山崎からみて私と土方さんってどう思う?」 「ここ屯所だけど……いいの?そんなこと言って」 「大丈夫大丈夫、誰も聞いてないよ」
時折こっそりと山崎を引っ捕まえては、そんな下らない恋バナを持ちかけ、大抵あしらわれていた。心の友と思っているのにひどい。
「どうって……特に何も」 「えーなんでなんで、監察じゃん!もっと気付くことないの?」 「え、あれから何かあったの?」 「無いけど……」
俺も別に心が読める訳じゃないし、第一そんなに興味もないし…と呟く山崎の頬に軽いタッチをかまし、私ははぁとため息をつく。
まあでも、頬をさするこの山崎に非は無い。 避けてこそいないものの、近付こうともしていないのは私だ。
強行突破、するか。
そう決心したその日の夜、機会はまたも唐突に訪れた。
というか、土方十四郎その人が、私の部屋に訪れたのであった。
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