quatre僕達の世界


「ありがとうございました」

深々と頭を下げ、2人にお礼を言う。

ロスさんは一言、お疲れ様、と微笑み私達を見送った。

折角の有給ということで、そのまま2人で外食をすることに。

「美味しいですね」
「たりめーだろィ。気に入りの店でさァ」

沖田さんは終始あまり喋らなかった。
まあ元々饒舌ではないけど、考えがちになる私を気遣ってか、一歩前を歩き、リードしてくれる。
無言の優しさに甘えながら、ゆっくり帰路についた。



「入るぜィ」

珍しいことに、湯浴みを終えてから沖田さんは私の部屋にやって来た。

慌ててお茶を淹れ、渡すと、布団の上で胡座をかいてなんと私を呼び寄せた。

思わず目が点になる。

…いやね。今日はこんな感じでさ。一日さ。
浸りながら過ごしてきた訳じゃん?
沖田さん一日中静かで、憎まれ口一言も利かなくて、優しかった訳よ。
私も静かで、こう、いつもでは考えられないくらい穏やかな一日だった訳なの。

でもね?でもね??
もう戻ってきたし、もういいよね?

もう喜んでも、いいよね???

「〜〜っっ沖田さんっっ!!!」
「っでェ!?」

ばふんっ!と布団が舞うほどに抱き着く。
流石の沖田さんも予想外だったらしく、そのままごろんと部屋を転がった。

ほんと私転がるの好きな。
思いを打ち明けた時のことを思い出して、ニヤニヤとしてしまう。

「…ったくオメェは…。落ち着いて話もできねェや」

倒れたままの体勢で、沖田さんは呆れたように笑って私を引き寄せる。

自分の顔の真正面まで持ってきて、ようやく本題に入った。
ちなみに私はここぞとばかりに沖田さんの寝巻きを掴んでいた。

「いい親御さんでしたねィ」
「はい。実の親ではないですけど、2人とも優しくて…暖かい家庭に恵まれました」

元々一人暮らしをしていたので、幸い両親は私の不在をそこまで問題視していなかったようだった。
こっちは進むのが遅いのか、それともロスさんの計らいか…トリップしてから1週間ほどしか経っていないようで、
私は住んでいたアパートの解約や、会社へのフォローをお願いし、


――「あのね。私、この人と生きるって決めたの」
――「沖田さんっていうの。とても、大切なひと」

――「今まで本当にありがとう。幸せでした。勝手に遠くへ行くと決めて、親孝行もせずに…本当にごめんなさい」


両親はゆっくりと頷き、最後には沖田さんに頭を下げていた。

よろしくと頼まれた時の沖田さんの顔は見えなかったけれど。

はいと答えた声はとても頼もしかった。

「あんだけグズってた割にあっさり帰ってきやしたからねェ。…吹っ切れたんです?」
「…そうですね。挨拶も出来て、まあ半ば結婚するみたいなこと言ってきましたし…気になってたことは済みました。
途中は本当に、飲み込まれそうで…どうなるかと思いましたけど、…沖田さんがいてくれたから」

沖田さんがいつだって隣に居てくれて。
だから私は、遠い遠いこの世界へと、迷いなく帰って来れた。

「そんならもう、遠慮はいらねーなァ」
「遠慮なんてしてたんですか?」
「うるせェや」

笑って唇を塞ぎ、それからぎゅっと抱きしめる。

ああほんと、好き。
普段どれだけドS発揮されてても、構わなくなっちゃうくらい、私にしか見せないこの優しい笑顔がたまらなく好き。

貴方となら、迷わず生きていける。
私と世界を繋げてくれる、貴方となら。

「沖田さん沖田さん」
「なんでィ」
「好きです大好きです」
「聞き飽きやした」
「それだけ毎日思ってるってことです」
「そうですかィ」
「沖田さんは、沖田さんはどうなんです」
「あー?…今日だけですぜ」
「いつも言ってくださいよ!」
「調子乗るだろィ。…祐季」
「はい」

目線を合わせて。

同じ景色を見て。

同じ場所で、生きていきましょう。


ね、沖田さん。



「――大好きでさァ」



fin




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