私はシグナルに気付けない


「休憩ありがとうございましたー。てあれ、どうしたんですか先輩。いやに疲れた顔して」
「変な客が来ただけだよ」
「それは災難な。ゆっくり休んで下さい」
「いい後輩だ」

しかし最後まで変な客だった。たった1冊ジャンプを買いに来ただけ。
なのに会計を終えてから店内を見回し、裏も覗こうとしていた、きっと年下の男の子。

なんか趣味の悪い洋装だったけど。

ふわあと欠伸をして時計を見ると12時55分。

「おいコラ山崎、なにさらっと休憩10分延ばしてんだ」
「ちがっピークだったから2人でやってたんじゃないですか!」
「だとしてもザキの休憩は30分だコノヤロー。誰がまとめて入れるか」
「この間みたいに5分ずつで休憩入れてくのやめて下さいよ!?」
「うるさい後輩」

最近入ってきた山崎は、後輩のくせして肝が座っているというか、NEET先輩たる私にも物怖じしない。
おかげで仕事は楽しくなった。店長は相変わらず怖いままだけど。

つーか店長ほとんど表出てこないし。特に最近はめっきり。

「休憩いただきまーす」

タイムカードを入れて裏に入ると、店長はチラッと私と店内を見て、すっと目を細めてまたパソコン画面へと戻した。
うーん。店長全然話してくれないから困る。

「あ、店長」

チラ見。

「あの。今朝の現金チェックも合わなかったですよ」
「…何時の」
「7時です。私が入ってすぐやったんですけど、その前のって合ってました?」
「…ああ。なんとかしとく」
「はい」

別に私は店の採算が合わなかろうとどうでもいいけど、でもこういうの怠ったら減給されそうだし。
場合によっては昇給するかもだし。そんな打算で不祥事を報告する毎日。

ここの店舗は週2くらいのペースで1〜3千円減っている。しかも何年も前から。
店長はその度になんとかすると言っているけど正直なんともなってない。

ま、どーでもいいか。店が潰れなければそれで。

結局廃棄になった肉まんにかぶりつきつつ、先刻の俺様中学生(仮)を思い出す。
今になって思えば。

かっこよかったなー、なんてことを。


back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -