如雨露



その変化に気付いたのは、果たして俺の他にいたのだろうか。

俺達が付き合って以来、山崎はこちらに関心を向けなくなった。
V字のマヨネーズ野郎はそんな繊細な神経の持ち主ではない。

となれば、やはり俺くらいで。

「祐季」

ゆらゆら能天気に揺れるポニーテールに言葉を投げる。
だがそいつは何やら考え事をしているようで、聞こえていないようだった。

「祐季」

それとも聞こえぬふりをしているのだろうか。いや、こいつはそんな器用な女ではない。だからやはりこれは、本気で。

聞こえちゃいねェんだ。

「祐季」
「、総悟。どうしたの?」

3度目でようやくポニーテールは向きを変えた。
なびく尻尾の先が鼻先をかすめ、懐かしい匂いを残す。

「オメェ最近おかしいですぜ」
「? そう?」

自覚なし、か。そりゃそうだ、表面上何も変わっていない。
でも変わった。

こいつから声をかけられる回数が明らかに減った。絡むテンションも落ち着いた。
メールも電話も、業務連絡以外ほぼ無くなった。照れて伏せることがなくなった。構って構ってと言うことがなくなった。

「何かありやした?」
「えー?特には何も…」
「悪いことでも、良いことでも」
「良いこと……」

しばし思案し、ふと何かを思いつき、かぶりを振ってから 何もないよ、と答えた。

思わず頬を引っ張る。

何もないよ、じゃねェや。今しっかり思い当たってんじゃねーか。
俺にゃ言えねェことですかィ。そうですかィ。

ぐ、と自然と奥歯を食い縛る。

「正直に言いなせェ。オメェ、―――」








久しぶりに泣いた。だけど総悟はきっともっと辛かったんだろうな。
それでも私に、尋ねて。

私が悪いんだ、きっとそうだ。じゃなきゃこんなに、総悟が傷つくはずがない。
私、無意識だったんだ。まさか、こんなこと。

総悟のこと、大好きなのに。

「山崎。知ってた?」
「何をですか?」
「私のこと」
「え?いや…、それは祐季さん自身が一番ご存知なんじゃないですか?」

半分呆れながら答える山崎。
そうだよね、ごめんね、意味不明なこと聞いちゃって。

だけどもうさ、どうしたらいい?
尋ねたってことは、総悟は手遅れだと思ったってことで、きっと私はそこにいて。
ねぇ、それなら、どうしたらいいんだろう。

総悟に頭を下げることすら出来ない。だって、私、私。

「何があったのか知らないですけど、祐季さん」
「ん…?」
「泣かないで下さい、俺が隊長に怒られます」
「あぁ…。うん、ごめんね」
「いえ」

短く返す山崎は、やっぱり戸惑っているようで。
じとりと湿った空気を取り払えないまま、曖昧に笑みを作った。

雨って、どうやったら止むんだろう。
自分で傾けた如雨露は、中身が空っぽになるまで土に水を注ぎ続けるんだろうか。
濡らして、やがては水溜りになって。

地が固まるまで、どれくらいの太陽と時間が必要だろう?
私は太陽を、手に入れてるのかな?
そんな揶揄を心の中で転がしながら、私は静かに目を閉じた。


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