人魚姫とワルツを。−21
静まりかえる。
出された朝食はすでに冷めてしまった。
少しばかり長い、昔語り。
其れはまだ幼い昌浩の心を揺さぶるのに申し分なかった。
「・・・・・・ヒロアキ、さんは」
「ん?」
「それからどうしたの?陰陽師の子供なら、術を教わったりしたんだよね?」
必死に言う昌浩。
肯定して欲しい。
けれども其れは、最近見続けているあの夢の通りだと言うことなのだ。
だから、肯定しないで欲しい。
「そのヒロアキさんには、弟がいたんだよね?」
「っ・・・、あぁ・・・」
「名前は?この手記には“弟”としか書かれてなかった」
聞きたい。
聞いちゃいけない。
でも、だから。
「・・・其れよりも、飯を食え。話すのはそれからでも遅くない」
とても長い話になってしまうから。
悲しそうに、勾陳が言う。
そのままリビングを出て行った。
他の神将も残ったことを片付けに、静かに動き出す。
皆、何処か悲しそうだ。
隣に座るあの物の怪でさえ。
「・・・俺、聞かない方が良かったのかな」
呟かれた声は、静かすぎるリビングに届く。
小さく衣擦れの音をさせて天一が傍による。
「いいえ、何れは知って頂くことでした」
「・・・天一」
「只其れが・・・、幾ばくか早くなってしまったのです」
本当は、二十歳になりましたらお話しするはずでした。
そう言って、天一は頭を下げる。
何時もなら直ぐに怒り出す朱雀も黙ったままだ。
「あ、あの・・・そんな風にしないでよ。・・・俺が元凶なんだし」
あわあわと手を顔の横で振る。
その手を後ろから捕まれて少し引かれる。
無茶な体勢。
騰蛇に文句を言おうと口を開いた所で、先を越された。
「・・・今まで、気付かなかったのか」
「え・・・、何を?」
きょとん、と見つめる昌浩。
手のひら、手の甲を見て、その目を見張る。
手のひらを中心にじわじわと血のような桜の花びらが浮き上がっていた。
「・・・ヒロアキの弟の名は、マサヒロ」
「え・・・?」
「・・・・・・お前のことだ」
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