人魚姫とワルツを。−20
父は、何も分かっていないから良いのだ、と言った。
告げられた言葉は、存在を否定した。
『お前は忌み子だ。我が一族が死に絶えてしまう』
父以外の者が見えた。
其れはなんと言えば良かったのだろう。
ある日、一人のヒトが言った。
『紅い目なんて、気持ち悪いわ。私は面倒を見ないから』
祖父が時折顔を出す。
隣には赤い髪と金色の瞳のヒト。
『・・・ほぅ、紅蓮を畏れぬとは。よし、面倒を見るが良い。』
目を閉じても、眠れなかった。
その日は一日中、雨が降っていた。
不意に上げた視界に、龍がいた。
≪お前を気に入ったぞ。近う寄れ。≫
差し出された手は暖かかった。
ひくり、と喉が鳴って。
≪運命(さだめ)を知っているのか。・・・ヒトにしては賢いな≫
くく、と楽しそうに笑う。
耐えきれず、その差し出された腕に縋った。
人間のものではない衣を必至に掴み、神の身体にすがりつく。
神は飽くことなく子供を膝で寝かせ、祖父が来るのを待った。
「高淤加美神・・・その子供は」
≪あぁ、ここにいた稚児だ≫
「っ・・・・・・。ひろあき、離れなさい」
≪ほぅ、これはヒロアキというのか≫
さらさらと零れていく髪を梳く。
腕の中では、子供がまた衣を掴む指に力を入れた。
≪安倍晴明よ≫
「・・・は、」
≪私は気紛れだ。故に、神だ≫
「・・・・・・そう、でございますな」
祖父は膝を折る。
其れは相手が神という生き物だから。
「・・・じー、さま・・・?」
≪もう起きるのか?つまらぬ≫
「たかおかみのかみさま」
子供は舌っ足らずに名を呼ぶ。
≪お前は、高淤と呼ぶが良い。許そうぞ≫
「・・・・・・たかお?」
≪あぁ。特別な名だ。≫
以来、神は高淤となる。
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