猫の1日‐1
【 は じ ま り 】
はじまりは簡単だった。
朝起きて、手渡された一粒の金平糖。
コロコロなめて、ソレは始まる。
「……ニィ」
鏡の中に、人間の姿をした猫。
否、猫の部位の生えた人間。
「…ミャァ」
声は、出ない。
クロい耳と、クロいしっぽ。
良く見ると小さく八重歯がとがっていた。
じぃ、とにらめっこ。
不意にチリン、と鈴の音。
それは黒いヒモの物で。
「おーい、結衣、朝だよー」
「……ニァー」
「オウ、リクオ。俺からの誕生日プレゼント」
「………は?」
じぃ、と見つめる先には。
茶と黒の混ざる髪と。
メガネを掛けた、着物姿の少年。
「……結衣?」
「ミャァ」
「ちょ、鴆くん何してんの」
「んだよ、一日猫になってんだ、何しても良いゼ」
ゴン、と音がして。
「まったく…。おいで、結衣」
「ニィー」
猫の一日は、はじまった。
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