物語・22
 次の授業は一人一人自己紹介ということで、先生や他の生徒らと触れ合う授業だった。
 そういえばそんなことしてた気がする。自己紹介を終えたあとは確か校内を探険するとかで、先生が案内をしてくれるのではなく地図を渡されて皆自由行動をしていた記憶がある。

 サタナースと私の自己紹介の時だけ少し笑い声が聞こえたが、教壇に立つボードン先生がその生徒達をじーっと見つめて威圧感を出していたので笑い声はすぐにやんでいた。その横で棒立ちで突っ立っている私は先生の横顔を見て、両手に持つ名簿をぎゅっと抱きしめる。
 昔は気づかなかったけれど、先生には色々と助けてもらっていたらしい。

『座ってるな』

 その私の隣では、魔法で姿を隠しているゼノン王子がトレイズの姿を確認していた。

「……あの、良いんですか?」
『良い。視卮でお前が見ることはない』

 声量をおさえてやりとりをする。
 視卮とは雷型の魔法使いだけが使える魔法で、ようは他人から乗っ取りを受けた人間に誰が憑いているのか視ることが出来たり、魔物が取り憑いている場合でも同じく、さらにはまわりの生霊死霊が一時的に視えるようになる魔法だった。精神的に厳しくなる、病んでしまう人もいるのであまり自分から進んでやる雷型の人はいないのだが、私が見られるように施すのではなく、王子自身が見てくれるということでここに来てくれていた。

 その魔法を使うとトレイズに憑いているものだけじゃなく、全てのものが見えてしまうので王子自身に頼むことは絶対にしたくなかったのだが、私に使うことはどうしてもできないと言われたので、根負けして王子に見てもらうことになったのだった。

 凄く凄く紳士だけれど、けっこう頑固者な我が国の王子様である。

 ゼノン王子がいた教室の先生には、体調が悪いので治癒室で休んでいるのだとベンジャミンが伝えておいてくれている。

「トレイズ・ドレンマンです。よろしくお願いいたします。」

 伏せ目がちの目蓋を瞬かせて、トレイズが自己紹介を始めた。
 机の内側で、艶のある白金の髪を揺らしてお辞儀をしている。眉上に揃えられた癖のある前髪を撫でつけては恥ずかしそうにしていた。

「アルウェス様のお隣なんて羨ましいですわ」
「でもしばらくの間でしょうから、わたくしが隣に座れる可能性もありましてよ」
「いえいえないないないですわマリス様」
「貴女笑いましたわね?!?」

 自己紹介が終わって着席したトレイズを見て女子達が羨ましがっている。そんなに羨ましいかねと思うものの、トレイズが隣に座って焦っている自分が言えたことではないだろうと内心恥ずかしくなる。
 いや別に、隣の席が羨ましいとかじゃなくて、私はただ今の関係性が変わってしまうことが怖いだけで。思い出とか色々。
 けれど今私はあの位置を守ろうとしているのだから、結局はあいつの隣じゃなければ嫌だということなのだろう。当時の私がぜんぜんそんなことを思ってなかったとしても。

 トレイズの隣にいる小さい私は、彼女のことをよく知らないせいか何やらこそこそと話かけていた。いったい何を話しているんだろう。トレイズも嫌な顔ひとつせずに私へ耳を傾けている様子だった。口元に手を当てて、たおやかに笑っている。
 普通に交流している様子のトレイズだが、何を考えているのかさっぱり分からない。あまり人を疑いたくない性分なのだが(ロックマンは別)、私との交流よりロックマンとの距離を埋めるほうが先決なはずなのに……外堀から埋めていくという感じなのだろうか。
 悶々としながら見ていると、横にいるロックマンがトレイズに話しかけて、それを見ている小さい私が額に縦ジワを寄せていかにも不機嫌な表情をしだした。
 あ、いま舌打ちした。

「自己紹介が終わったら、次は校内探検だ。各自地図を頼りに、色んな所を見てくるといい」

『変だな』

 先生が地図を配りだしたのと同時に、王子が私の肩に手をかける。

「?」
『確かに憑いているはずなんだが、姿が見えない。脳のあたりが黒いのは確認できたが』
「??」
『憑いているのは本当にトレイズなのか?』

 いったいどういうことなのか。
 トレイズが憑いていたとしたら彼女の姿が重なって視えるはずなのに、頭の部分が黒いということしか確認できないという。でも確かに時の番人はトレイズの名前を出していたらしいので、今までの経緯を見て聞いてみても本人には違いないはず。

「そういえばさっき…」


――肌に感じることがあるんです――

――魔物とか、そういうものが近づくと鳥肌が立つように――

――憑いているのかなと思って――

 あのロックマンの言葉には、聞き逃してはいけない何かがあるのかもしれない。

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