物語・14
 魔法学校の校長と言えば、教師という職の中で最も名高い役職である。私からしてみれば、学校の中で一番偉くて、強くて、高齢で、となんでも一番の人というのが印象に強い。入学式での第一印象は白髪の可愛いお爺ちゃんという感じで、あまり厳格な雰囲気を持たない人だったような気がする。五学年の対抗戦で女子の一位になって、校長室へ呼ばれてお褒めの言葉を頂いた時には、校長と私はほぼ同じ身長だった。同じくして呼ばれたロックマンも、校長の背は見上げるどころか見下げていたくらいに身長を抜かしていた。

 校長先生はいつも黒いローブを着ていて、背丈にわざと合わせていないのか単に面倒臭いのか、見かけるたびにズルズルとローブの裾を引きずって歩いていた。
 綺麗な白髪は、周りから「白の魔法使い」と呼ばれるほど真っ白である。髪が長くてちっちゃくて髭も長い先生は、正直お爺ちゃんなのかお婆ちゃんなのか見分けがつかない。(髭があるのでそこで判断している)

 校舎周りの草取りが日課で、魔法で駆除できるのにも関わらず毎日手でむしり取っていたのを思い出す。外で遊んでいる生徒を良く眺めており、だからと言って話しかけに来るわけではない。草取りをしながら遠目に見てくる校長先生に生徒が手を振っても、笑顔で返してくれるのみで、こちらから話しかけに行かない限りは基本見守っている。
 ボードン先生が言うには、楽しい所を邪魔しちゃ悪いから行かないんだと、ということらしい。

 そんな我らが校長先生だが、入学の儀の前だというのにこんなところで掃除をしていたとは知らなかった。
 地面に散らばっている落ち葉をせっせと履きだしている。

「ブー校長ー!」

 校長室に呼び出しを喰らった数なら学校一だったサタナースは、呼び慣れた様子で「ブー校長」などと叫ぶ。ブー校長とは、サタナースが命名した校長先生のあだ名みたいなものである。ソフォクレス・ブーブドが先生の名前なので、どこからあだ名を取ったのかは一目瞭然だ。またそんな風に呼び出したサタナースのせいで、以後校長先生は生徒達からブー校長と呼ばれる運命になる。
 なんてことは、まだこの目の前にいる過去の校長先生は知らないだろう。

「ぶう?」

 校長先生は素っ頓狂な声を出して、校門の前にいる私達と目が合った。
 箒を片手に、こちらへと近づいて来てくれる。

「今日入学のみんなかね? ……ありゃ? そこにいるのはゼノン殿下かな?」

 子供姿の私達を見て、校長先生は今日入学の儀に出る子達が校門の外にいることに不思議がる。

「失礼します、入学の儀に遅れてしまって」
「ん? しかしのう、変じゃなぁ……。殿下は今新入生代表で挨拶をしておるのだが、気のせいかな?」
「……」

 あ。忘れてた。

「そうじゃん! お前確かに偉そうに挨拶してたわ!」

 大広間の舞台の上にあがり、挨拶をしていた一年生の頃のゼノン王子を思い出す。まさか王子様と同じ年に学校へ入るとは思わなかったので凝視してしまった覚えがある。それに同じ教室になるなんて想像もしていなかった。

 校長のにっこり顔に王子は諦めた表情をして、指パッチンをする。

「殿下だめですっ」

 解かれた魔法にニケとベンジャミンが悲鳴を上げた。
 変身解いちゃったわ! と焦るのも無理はない。作戦なんてないようなものだったが、確実に失敗したのは否めないのだから。

「校長先生、話を聞いていただきたい」

 こうなれば正攻法で行くしかないと踏んだのだろう。
 変身を解いて大人の姿になった王子は、子どもの私達をかばうように前に立った。サタナースはそれが気に入らないのか、フンとわざわざゼノン王子の前に出る。
 こいつ何を張り合っとるんだ。

 私達が四の五の訴えるより、ドーラン王国の王子様が直々に話したほうが信憑性もあるだろうし、何より本物の王子様である。危険を冒してまで王子に化けようなんて人間は早々いないというのもあるので、より説得力としては強いだろう。

「これまた大きくなったのう〜」

 校長は大きくなった王子を見ても、最初と変わらぬ口調で自然と受け入れていた。

「俺が未来から来たゼノン・ドーランだと言ったら、先生は信じてくださるだろうか?」 

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