物語・10
 サタナースが箱を開けてオーイと話かけている。その様子をベンジャミンと二人で黙って見守っていると、物凄い低温の唸り声が箱から聞こえた。なんだ今の声。魔物みたいだと横にいる友人と目をぱちくり見合せる。え、もしかしてゼノン王子の声?
 ベンジャミンが箱に視線を戻した。

『お前……二度と使うなと言ったよな』

 顔を見なくてもたいそう不機嫌だと分かる声と言葉が、箱の奥底から響いた。やっぱり王子の声だった。その発言からサタナースに対して何回か注意したことがうかがえる。王子も大変奔放な友人を持ったものだ。私が彼の友人関係を知る限り、その態度とは裏腹にサタナースという男とは親しい友人の上位に入る程の仲であると認識している。喧嘩するほど仲が良いなんて言葉をまさに体現したような二人である。
 一方でロックマンとサタナースはと言えば王子とは真反対の関係というか、悪友という大変たちの悪い関係を築いている。

 王子の声から、この怒りの矛先をどうしてくれようかと悩んでいるのが雰囲気で分かる。機会があったら報復するのを手伝ってあげなければ。
 けれど幾度となくおとずれるサタナースという災厄に慣れきっているゼノン王子のことだから、きっとまた怒りながらも許すのだろう。
 王子が慈悲深くて良かったなサタナース。

「今は緊急事態なんだからいいだろ」
『緊急事態?』
「あの人形見つかったぜ」
『……本当か?』
「それで俺達に関わるかもしれない過去へ行った女がいる。上に取り上げられる前にお前ら力貸してくれないか」
『今、軍事演習中なんだが』

 なんと模擬戦闘中だった。
 そんな大事な時にすみません王子。

「そんなもんより俺らの未来だ!」

 サタナースは一から説明し始める。
 王子だって突然言われて頭の中がこんがらがっているに違いない。しかも軍事演習中。私だって急に言われて理解したわけじゃないから、この場にいない王子なんてさらに理解などできていないだろうに。
 王子が目の前にいるわけじゃないのに、サタナースは話しながら身ぶり手振りでこれこれこうでと動いている。

 とりあえず一通り説明が終わったのか、ゼェゼェ息を吐きながら慣れないことはするもんじゃねぇなと額を拭っていた。

『なるほどな。なら団長に承諾をもらい次第、アルウェスとそっちに向かう』
「おう、待ってるぞ」

 これで準備万端だと箱から顔を離したサタナースは、私に向かって親指を立てた。今更だけれど、行動力という面では私達の中で最強にずば抜けているのかもしれない。あと本人はひけらかさないが、魔法も並以上に上手い。着実にだけど破魔士としての階級も、もうすぐクェーツからキングス級に昇格できるくらいだ。
 ニコニコとそんなサタナースを見つめているベンジャミンを見ていると、私達からじゃ中々見えない部分も含めて彼のことが好きなのだろうと感じた。

『アルウェス!!』

 箱から王子の声が強く響いた。
 何事かと三人で再び箱へ目をやる。

「黒焦げ、どうした?」

 三拍子置いてからサタナースが箱へ話しかけた。

『アルウェスが倒れたっ』
「は?」
『脳に激痛が……治癒班、こっちへ来い!』

 この時私達三人は確信した。
 誰かが声を発したわけじゃない。話し合ってもいない。
 ただ、小人のおじさんが言ったことをそれぞれ思い出したのだ。


――どこまで関わるかが問題じゃな。


 ベンジャミンが眉をひそめて私を見つめる。

『アルウェスの代わりにニケを連れていく。待ってろ』

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