why!!
 


「やあ、承太郎!雪かきだなんて精がでるね!」


 ぼくは、彼の家の前でスコップを片手に見事に積もった雪をなぎ払う承太郎に対してそう叫んだ。承太郎は、微かに鼻を赤らめながら、おう、と一声もらして再び目の前の雪を片付け始めた。彼の元までたどり着いたぼくは、トレンチコートのポケットに手のひらを突っ込んだまま雪を払う彼の姿を眺めていたが、承太郎が、この寒い中額に浮き出た汗をぬぐったことを合図に再び距離を縮めて彼の隣に立った。

「随分とよく積もったものだね」

 もう三月になるのに。都内では珍しいこの積雪量は、すでにニュースで異常気象だと騒がれていた。

「ああ、屋根がつぶれちまうぜ」

 承太郎が、まだ半分以上残っている屋根の上の雪を見上げていった。彼の足元にたまった雪は全てあそこから落とされたのだろうか。裕に三十センチは積もっている。ほんとうに珍しい。まるで御伽噺の世界に迷い込んだような銀世界だった。

「休憩にするんだろ?ぼくがお餅を持ってきてあげた」
「おう、サンキュー」

 ぼくが正月に大量に購入してしまった餅の残りだとは知らずに、承太郎はそれを受け取るとさっさと家の中に引っ込んでいった。ぼくもその後を追いかけるようにした。

「ねえ、砂糖とおしょうゆたっぷりの甘い餅にしようよ」
「餅って言ったら磯辺だろうが」

 ぼくらは言って笑った。袋にこんなにたくさんあるのだから、一度じゃ食べきれないだろう。
 それでも、いつかなくなるそれを思うと、三月に雪が降ることなんかより、そんなふうに一緒にいられる友達が、ぼくに出来たことのほうが、よっぽど異常だと思った。

「まるでファンタジーやメルヘンだ」

 ぼくは彼の背中に向かって、聞こえないくらいの声で呟いた。

end

(2009/10/27改正)
ずっと前の拍手お礼小説でした。






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