触れる。指先が柔らかく宙をかいた。承太郎は怪訝な顔をする。
「なぜだ」
「当たり前じゃない、幽霊だもの」
ぼくは笑った。幽霊だもの。触られたら、たまんない。
「残念、だな」
「残念、だね」
ふわりと浮遊すると、承太郎は確かに目で追うから、シックスセンスみたいに本当は見えていない、わけではなさそうだ。
「触れたかった?」
ぼくは意地悪に訊く。こんなときの承太郎は、本当に素直だ。
「触れたかった」
承太郎はあっけなくしなだれて、壁にもたれ掛かっている。
「君の、その、髪に、肌に、熱に、触れたかった」
ぼくも同じくらいにしなだれていった。暑いねつ、緩やかな衝動。
抱き合って、瞼にキスをして、指を絡めて、眠りたかった。
「死んだのか」
「ああ、死んだんだ」
ぼくは体の真ん中が燃えそうに暑く疼いた。マグマが溢れるみたいな、奇妙な熱。
「ああ、それで、俺は、生きているのか」
承太郎が腕を伸ばした。ぼくの体を透けて、腕が宙を切る。
「生きているのか」
承太郎。ぼくの言葉は、承太郎の鼓膜にしっかりと絡みついた。
「生きて、強く。どうか、気高く」
ゆっくりと、体が空に引かれた気がした。行きたくないけど、もう行かなくちゃ。
承太郎の顔が、ゆっくりと遠ざかる。留めるように腕を伸ばした承太郎。ぼくは穏やかな気持ちだった。
「生まれ変わったら、また君に会えたらいいな」
豆粒みたいになった承太郎をみて、ぼくは叫んだ。声はゆるく、宇宙に響く。
ぼくの人生、変えたのは、君なんだ。
2010/5/17