新聞の一面に近くのコンビニで起きた事件が乗っていた。アンジェロのスタンドが登場するシーンだったな。奴がとうとう現れやがった。
 私はというと未だにスタンドが発現出来ずにいるというのに、もうすぐアクア・ネックレス戦が始まってしまう。こちらに連れてこられ承太郎と行動を供にさせられている。部屋もそうだが、監視も兼ねているらしいし、このままいけば、承太郎がバトルに参加した回をそっくり私も見舞われる可能性がある。

「悪いな、先に使ってしまって」

「………」

「どうした?」

「いや、何でもないです」

 承太郎の湯上がりシーンとか、何で私が見なきゃいけないんだ。三部ですら見たこともないのに、こんな無防備曝していいのか。だめだ。混乱している。
 私もシャワー使わせてもらおう。承太郎に断りを入れてからシャワー室に向かう。さすがというべきか圧迫感もないし清潔感があるし置いてあるアメニティグッズも豊富だ。原作もマンション一戸ほどありそうな広さだったしなあ。ロイヤルスイートなんてこんな事ぐらいしか泊まれない。当時も思った事だが、承太郎はここに滞在期間中ずっとホテルにいた事になる。きっと3桁は軽く飛ぶ金額なんだよなあ……。
 ひやりとするコックを回しながら包まれるように流れるシャワーが気持ちいい。何も考えず水流を辿り頭が自然と下がる。シャワーから流れ出すお湯は流動に下へ下へ流れ落ちる。今の私の状態はアンジェロのスタンドアクア・ネックレスの格好の餌食になる。ヘッドから流れ出すお湯は蒸気を伴っている。その蒸気に姿を潜ませ鼻から体内に造作もなく侵入するだろう。後は内側から死をもたらす……水と一体化しているスタンドは驚異的力を持つスタープラチナの拳をもろともしない。物理的攻撃は無効になる。藤四郎のスタンドは消す能力だったんだろうか。もしそうなら、体内に侵入する前にどうにかして消せれば私にも勝機はある。
 いつの間にか握り締めた手を解けば血が滲んでいた。思わずため息をつく。考えてもスタンドを出さなければやられる。

 その次の日だった。
 備え付けの電話から承太郎が電話を掛けるのをソファーに座りながら見ていた。麗しいその横顔は驚きの色が現れ焦ったように言葉を投げる。

「アンジェロだな?」

 電話を終えたばかりの承太郎に問いかけると真剣な顔で頷いた。
 承太郎と一緒に仗助の家に着いたが、原作通りに仗助の祖父良平は殺害されているだろう。家には入らず、周囲を観察する。原作では仗助たちを近くの木陰で観察していた。家の周りを確認して回ったが奴は既に逃げていた後だった。
 サイレンを鳴らしながら救急車が駆けつけ辺りを騒然とさせた。家の外からその様子を眺めていた私に承太郎は近づいてきた。

「仗助の祖父は奴に殺されていた」

「……そうですか」

「奴のスタンド……仗助の話から水分に同化するタイプのようだ。体内に侵入し、内側から破壊する。巧妙なやり口のスタンドだ。次の奴の狙いは仗助だ。仗助の護衛に俺たちは就くぞ」

「わかってます……」

 そう、わかってる。だから……

「……藤四郎。お前、何をそんなに苛ついている」

「分からないんですよ……」

 腹の根底から煮えたぎった真っ黒な激情が沸いて出てくる。私の感情とは別に体が意志を持つように怒りに渦巻いている。これは一体何なのか。奇妙な感覚だった。

 承太郎と供に仗助の護衛に当たる事になった私は原作知識を使い生存を念頭に置き、二人に作戦を伝える。狙われている仗助は家で迎撃するつもりだろうし、承太郎もそれに倣うだろう。スタンドはスタンドでしか倒せない。二人には強力なスタンドを持っている。しかし、そこでスタンドを見えてはいるが使えない。スタンドに身を守るすべのない自分がいてはハンデになる。そこで、仗助を狙う凶悪犯を見つける役目。私は獲物を狩る動物の裏を取ることでスタンドバトル勃発危険区域から逃れる寸法だ。無論、雨の日を待つつもりもない。生存率を高めるためにアンジェロのスタンドの性質と雨の危険さを解き、雨の降る前に奴を仕留めることに話はついた。
 葬儀も終え、仗助の母親も家から離れさせ、遂にアンジェロ戦に突入する。
 大量に食料品を買い出して、水を作り出す加湿器やヤカンなどは運び出す。元を絶つためガス、水道を止めてもらい籠城に備えさせた。

「シャワー浴びれねえのはきついッスね」

 私の奴に対する徹底ぶりに仗助はポツリと呟いた。

「悪いな。少しの辛抱だ」

「……それは、いっすけど。藤四郎さんは……兄貴なんすよね?」

「……犯罪者のな」

 この一言で仗助はもう何も言わず閉口する。仗助の言わんとすることは分かる。これはアンジェロを倒すための戦いだ。犯罪者と言えども私は奴の弟。その弟がこの戦いに参加することに対して複雑なんだろう。祖父をその兄に殺されながらも。この世のどんなことよりもやさしいとはよく言ったものだ。家族が揉めるのも良くないとしていたし、本当に優しい奴だ。だけれど、私にその優しさはいらない。私は藤四郎じゃないんだから。
 外に出て奴が居ないのを確認して私は一人ホテルに戻ろうとした。
 並木道を歩き駅まで歩こうとしたら、向こうからこちらに歩く人物。顔をちらりと見た瞬間、言い知れぬ熱さに体を焼かれた。
 咄嗟にそいつに飛びかかっていた。

「て、テメエ! 何しやがる!」

 突然の襲撃に対処出来ず、私のパンチをもろにくらい被っていた帽子が落ちたその顔を見て驚愕した。仗助をつけ狙う変態アンジェロ。
 こちらが攻撃の手を緩めた隙に逆に掴み取られてしまった。
 私は何をしてるんだ!? 自分がした行動が信じられない。こいつはスタンドを持っている!

「いきなり殴りつけてきやがってテメェ〜〜覚悟は出来てんだろうなぁ〜? ……ん?」

 アンジェロは襟を掴み上げ顔を近付かせてきた。いやらしい顔だ。そして、こいつに似ていると思うとやるせない。

「なんだぁ? 俺に似ているな」

 無理やり顔を向けさせられ、不躾に見てくるこいつに詰った。

「お前の弟だよ」

「ああ〜? オトウトだぁ?」

 なるほど、そうか。こいつは12で逮捕されているし、知らないのかも知れない。年齢は詳しくないが恐らく刑務所が長く家族とは疎遠だったのかも。

「あいつら、俺が苦しんでる間に子供作ってやがったのか〜〜!?」

 重い拳だった。頭が揺れ気持ち悪い。痛みと気持ち悪さで生理的に涙が出た。喋りながら一発殴られ、物陰に連れ込まれた。

「あの仗助をヤル前に、テメエをぶち殺してやるぜ! その前に、なかなか似ている顔している奴に会えることもないしなぁ〜。殺す前に、お前を犯してやる」

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