「あ、♪♪さん」

 康一が呼びかけたのは通り掛かった♪♪である。康一の声で周りにいた仗助と億泰も目を向ける。そこには康一の親の知り合いであった♪♪だった。カチリとしたツーピースを身につけいかにも真面目を体現している。♪♪は康一が二人の不良と連む姿に驚きつつ三人に向かって挨拶をする。康一は♪♪を簡単に二人に紹介した。

「こんにちは」

 億泰はまさか自分にも挨拶をするとは思わず――明らかに不良と自他ともに認めているので無視されると思っていた――億泰は怖ず怖ず仗助は普段と変わりなくと返事をした。
 両手で持ちにくそうに抱える鞄を康一は気付いた。

「♪♪さん、ソレ。鞄どうしたんですか?」

 指を差した鞄に♪♪は少し前に出すようにして眉尻を下げた。

「これ途中で持ち手が壊れて……かれこれ十年使ってたから」

 革張りのジェリーバッグの持ち手が完全に引き千切れていた。その様子を見ていた仗助は徐に♪♪の前に出た。

「♪♪さん、チラッとその鞄見せてもらっていいっスか? もしかしたら直せるかもしれないんで」

「……え?」

 訝しがりながらも♪♪は仗助に鞄を渡した。

「あ〜、これ一回直したことありますよ。良かったっス。すぐ直しますから」

仗助のスタンドクレイジー・Dが一瞬で鞄を直してみせた。その様を♪♪が目を見開き固まった。元から千切れていたことさえなかったように綺麗に元通りになっている。鞄を見て今度は仗助を見て礼を言う♪♪に康一は不思議に思った。なぜ、♪♪は仗助をいや右腕を凝視しているのかと。

「仗助に直してもらって良かったなァ!」

 億泰は固まる様子を知らずにまるで自分のことのように喜ぶ。三人に気付かれないよう少しずつ後ずさる♪♪。そんな四人の所へ白いコートの男が歩いてきた。

「おまえたち今帰りか」

「あ! 承太郎さん!」

 仗助が承太郎に話しかけ、それに続いて億泰と康一もそれぞれ挨拶する。

「ここで何かしていたのか?」

「ああ、康一の知り合いの鞄をちょっと直してたんスよ」

 そこでものすごく離れた位置までいた話題の渦中だった♪♪を康一は発見した。

「あれ? ♪♪さんいつの間にあんな所……」

 そこで仗助、億泰、康一は天変地異もしくは雷が当たり体が感電したような出来事が起こった。
 康一が言い終わる前に♪♪の名前を聞いた承太郎が反応し、人を殺しそうなほどの眼力で♪♪に目を向けると♪♪は肩が跳ねた。その瞬時、まるで親の敵というほどの迫力で♪♪に向かって承太郎は駆け出し、♪♪は殺されそうと思うほど緊迫した表情でパンプスをものともせず全速力で承太郎から逃げた。男女の差はあれど陸上部も真っ青なスピードの♪♪であったが、足の長さ分で承太郎が♪♪に追いつき、承太郎のスタンドスタープラチナを出して♪♪を捕まえた!

「♪♪ッ!!!」

「ギャアアアァアッ!」

 女性とは思えぬ野太い悲鳴が上がった。向き合うようにして♪♪の両肩を掴む承太郎の目は血走っている。次の瞬間承太郎は♪♪を抱きしめた。

「会いたかったッ」

「ギャアアアァア〜〜!」

 冷静沈着。大人の男性のイメージだった承太郎がまさかここまで女性に猛烈なアプローチをかますとは想像を絶する。熱い抱擁をする一方逃げだそうと死に物狂いで暴れている。


―――


 三人が何とか宥めてあの場を納めたが困難を極めた。承太郎から逃げ出したい♪♪と絶対に離さないとする承太郎の二人の間をとって場所を移動させ、今カフェ・ドゥ・マゴで重々しい雰囲気で席についてある。
 目を♪♪に固定してある承太郎に、これでもかと下を向く♪♪。これまでの功労者であった康一が先に口を開く。

「ふ、二人は……知り合いなんですか?」

 そこで、漸く♪♪から視線を外す承太郎が答えた。

「♪♪と俺は幼なじみだ」

「すっげー承太郎さん惚れてるみてーけど逆に♪♪さんは嫌ってるっぽいよな?」

「お、おい! 億泰ッ」

 皆分かっていたことなのだが承太郎に対して憚れる内容を敢えて言った億泰は凄い勇者だろう。信頼していた承太郎のギャップに狼狽えていた仗助は言ってはならない一言に漸く我に返る。膠着状態が続いていたがこの発言で一気に進展する。

「いや違うね。死ぬほど嫌い」

 今まで黙りだった♪♪は億泰の言葉をわざわざ訂正してきた。見るからに落ち込む承太郎に慌てて仗助が助け船を出す。

「ど、どうしてっスか? 承太郎さんめちゃくちゃカッコイイじゃないっスか」

 仗助の言うことは正しかった。女性の誰もが見惚れる美丈夫の硬派な男。その男に言い寄られ靡かない女はいないのだが。仗助の物言いは承太郎を進められているように感じた♪♪は両腕を摩るほど寒気がした。

「ウ、うう」

 あまりの毛嫌い加減に承太郎の想いは受け入れられないだろうとこの場に居る三人は思った。

「あの、♪♪さん。どうして、承太郎さんのこと、その……嫌ってるんですか」

「はっきり言う……。強姦されそうになったからだ」

三人の間にブリザードが降り注ぐ。

「こいつはッ!嫌よ嫌よも好きの内勘違い野郎だッ!」

 康一はここまで興奮してまくし立てる♪♪を見たことがなかった。これほどまでに嫌なのだろう。康一の言葉に承太郎が♪♪を見つけてしまったという罪悪感が先ほどよりも鮮明に浮き彫りになる。現に、承太郎は反論することなく黙っているのが証拠だ。♪♪の言うとおり、本当に承太郎は無理やり♪♪に迫ったのだろう。

「……承太郎さん。今の話マジっスか」

 項垂れるように頷いた承太郎にさすがの仗助も軽蔑してしまう。嫌よ嫌よも好きの内と言うのはちょっと違うのだが箍が外れ♪♪を強引に迫ったのは間違いようのない事実のため反論しなかった。

「♪♪……」

 承太郎の悲痛の呟きですら鳥肌ものの♪♪が可哀想に思い、またしても億泰が放った。

「無理なモンは無理っすよ。承太郎さん、すっぱりと諦めましょ〜や」

 果たして、これで承太郎が諦めるのか甚だ疑問だが、決着はした。三人の中で。

「じゃあ、私はこれで」

 席を外そうとした♪♪にすかさず承太郎も立ち上がる。

「俺が送ろう」

 三人同時に待ったがかかる。

「おまえたち……」

「承太郎ォさーん。見逃せられないっス」

 承太郎の腕を掴んだのは仗助だ。飲んでもいないコーヒー代の千円札を置いて、今まで一度も承太郎の顔を見ることなく♪♪は出ていった。

「ところで、康一君は♪♪を知っていたようだがどういう関係なんだ?」

 康一は冷たい目を寄越しプライバシーの侵害にあたるので♪♪さんのことに関して僕はしゃべりませんと断言した。


―――


 





完全ギャグになったのはwhy? もうこの承太郎目も当てられないほど残念な人に……。ホントは君はかっこいいこと知ってるんだぜ。この夢主かなりの潔癖性故こんなになっちゃったのかなぁ。普通に考えて、美男子に迫られたらたとえ好意にしていない相手でも意識しちゃうものですよね。
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