目を覚ませば見覚えのある部屋。ああ、またここかと病室を眺めていたら、今度はベッドの脇に座っている人に目が行った。
「♪♪ちゃん」
 心配そうに見つめていたのはぐったりしていたあの大家さんだった。
「ッ!」
「あ! 急に動いたら怪我に触る」
 突っ張った背中に痛みが走った。チリチリと焼けるような痛みに堪えて大家さんを見れば、彼は元気そうにしていてホッとする。ああも、ぐったりするのをみれば心臓に悪い。
「大丈夫でしたか?」
 やっと出た言葉に、大家さんは何故か辛そうに顔を歪めた。もしかしたら、どこか悪いのだろうか。
「私は大丈夫だよ。頭を打ったようでて念のため検査するよう言われてはいるが……♪♪ちゃんに何て言えばいいか」
 言葉に詰まり震える大家さんにさすがに驚いた。もしかして、私が怪我したのが心苦しいとか? まあ、私もまさかこんなに怪我していたとはつゆ知らず、DIOほどではないがハイになっていたため周りを余り見ていなかった自分の責任である。
「私と息子を命懸けで救ってくれて本当にッ!有難い……けれど、♪♪ちゃんに大怪我を負わせたことにどう詫びればいいか……」
 まじで床に頭をこすり付けられ、周りを見回す。なんか、変に見られないか心配。一応、カーテンで仕切ってはいるが会話はダダ漏れだ。
「あの〜、顔上げて下さいよ。別にそんな気にしないで、その、なんていうか……。大家さんにこちらが結構助けてもらっていたし」
「いや! 女の子に傷を負わせてしまったことは重大なことなんだ!」
「えー……」
 なんだか面倒くさい方向にいっている。なんか要求すれば気が済むのだろうか。
「ああ〜とじゃー、……私、退院すれば住むとこないんで、次の住まい見付けてくれませんか?」
「なんだ、そんなこと! 私たちと一緒に住めばいいじゃないか! 私の奥さんの実家がすぐ近くなんだ。アパートの建て直しの間私たちはそこに住むことになったんだが、♪♪ちゃんもおいで!」
「いや、それはそれでこちらが気が咎めるというか申し訳ないというか……」
「じゃあ博士の家に住めばいいよ!」
 元気良く間に割ってやってきたのは、何時ぞやのコナン君である。会話聞かれていたらしい。というか、なんでここへ?
「君は……あ、沖矢君」
 奴も居られたか。
「コナン君は大家さんのアパートを燃やした犯人を推理した賢い子供ですよ。僕たちは☆☆さんのお見舞いへきました。大家さんも☆☆さんが心配だったんですね」
「ああ、さっき刑事さんが説明をしにやってきたよ。ありがとう、コナン君」
「えへへっ」
 子供好きな大家さんはコナン君の頭を撫でている。それを子供に成りきるため甘受するコナン君。
「それで、さっきの博士とは?」
「実は私も住むところに困りまして、コナン君の知り合いで広い家に棲んでいる発明家の阿笠博士さんの家に住まわせてもらうようお願いしました。まあ、博士と一緒に住んでいる博士の親戚の子に嫌がられてしまい、お隣の洋館の方に僕は住まわせてもらうことになりました」
「そうか……細井君にも話つけないと……」
「私の方はとりあえず、入院生活なんで、先に話つけないといけないのは細井さんの方だと思いますよ」
「それと、博士には♪♪さんと一緒に暮らすの許可貰ってるから」
 え? なぜ、もう話をつけているの、コナン君。
「それなら、仕方ない。♪♪ちゃんが気兼ねなく住めるところがいいからね。じゃあ、私は電話をしに戻るよ。沖矢君にも後でまた電話をするから。息子の見舞いありがとう。じゃあ♪♪ちゃん、またあとで」
 嵐のような出来事に一瞬痛みを忘れることが出来たよ、大家さんありがとう。
「久しぶり、コナン君。今のは助かったかな。ナイスタイミングだったね」
「あはははっ……。開人君のお父さん大きい声だったから聞こえてきちゃった」
 遠い目をするコナン君。君なら声が小さかろうが聞き耳はたてていただろう。でも、本当に助かったのは事実。
「沖矢さんもお見舞いに来てくれてありがとうございます」
 にっこりと笑いこれはお見舞い品ですと果物を頂いた。
「それにしても勇敢なのは素晴らしいことですが、大家さんではないですが女性ですので傷を付けるのは感心しません」
「ハァ。すみません」
 意味の分からない(意外な人物から)説教を聞きながら、何を聞き出すつもりか考えていた。

「それでね、僕、♪♪さんに聞きたいことあるんだ」
 きたと思ったが沖矢さんの前で何を聞くつもりなんだ。私はコナン君に手招きをした。
「どうしたの?」
「ちょっとこっちに」
 体が包帯巻きにされ突っ張る体じゃ身動き取れずに、なるべくコナン君を沖矢さんから離そうとした。ベッドまで上がってと言った私にコナン君は不思議がりながらも素直に応じ、私のすぐ隣まできてくれた。
「沖矢さん。コナン君と大事な話があるのですみませんが席を外してくれませんか」
「わかりした。では、僕は子供たちのところに戻ります」
 あっさりと引き下がってくれて良かった。コナン君はこの世界の主人公だ。聞かれたことは素直に話した方がいい。だけど、ただ味方サイドについただけでは前回の二の舞になるのはごめんだ。自分の身は自分で守る。主人公と親しくなり、危険を回避。生き残るためならなんだってやるつもりだ。打算的といわれようが構わない。左手を失ったように、他も失うことにならなければなんだって。
「コナン君何かメモ用紙と書く物持ってる?」
「一応……はい、これ」
「借りてもいい?」
「どうぞ」
「ありがとう」
 なるほど。探偵は万年筆を使うのか。初めて使う万年筆に戸惑いながら、汚い字だが読めないことはない。
<聞きたいことってなに?>
 筆談できて目を丸くしながらも何も言わずに答えをその下にコナン君は書いてくれた。
<どうやって火事の中二人を助けたの?>
 ビンゴだ。これは勿論主人公には話すつもりだった。誰にも知られたくないのでわざわざ筆談までやっている。
 見ててと、先ほど沖矢さんが持ってきてくれた籠を指させば、素直に見るコナン君。『ザ・ワールド』をすぐ目の前に出現させるが見えないのが反応はまったくない。そこで、『ザ・ワールド』に籠に入ったフルーツに覆われたラップをビリッと破いてもらえばコナン君は息をのんだ。籠の中に入ったバナナを一本取りバナナの皮を向いてコナン君の目の前に差し出せば恐る恐るバナナを受け取った。
「♪♪さん!? これはッ」
 慌ててコナン君の口を『ザ・ワールド』で塞げば、コナン君は石のように固まった。
<これはスタンドという能力>
<スタンドを生み出せることのできる人間しか見ることが出来ない。だから、何もないのに独りでに動いたように見えた。このスタンドであの親子を連れ出すことが出来た>
<♪♪さんの他にそのスタンドを持った人はいるの?>
<恐らくは居ない。私はこの世界の人間じゃない。だから、私にはここで生まれては生きた記録がないの>
 何枚にも渡って書いたメモ紙をただじっとみつめていたコナン君は口に手を持っていって触ろうとやっていたが、触れないことに気づいた。
<確かにこれを悪い奴らが持っていたら完全犯罪が可能になるね>
<そうだね。危険なものだよ。見ることも触ることも出来ない>
<教えてくれてありがとう>
<どういたしましてそれと、これは私からの質問>
 目線だけどうぞと促されたのでそのまま書いてみた。
<あの沖矢さん。私のことを探りにき人だから、危険な人物じゃないの?>
<沖矢さんは大丈夫だよ>
「それは、勘?」
「いや、違うよ。信頼出来る人だから」
 主人公にここまで言わしめるんだから沖矢さんは敵ではないのか。
「でも、僕に教えてよかったの?」
「あれ? 知りたかったのはコナン君でしょ」
「まあ、そうなんだけど。それならどうして最初の時は話してくれなかったの?」
「話さないんじゃなくて、話せなかったんだよ。こんなぶっ飛んだ話。それに、今回みたいに」
 最初コナン君が書いたメモの箇所を指さした。
「これを聞くまでにはおかしいところがあったからでしょ? だから、話せたんだよ」
「なるほど」
 片腕なしで女の私が気を失った男性はそれなりに重くて運べない。引き摺るにしても、引き摺った痕跡はないのは見抜いてるはずだ。況してや、木造の古いアパートは燃えやすい。一人助け出せたとしても、室内にいた開人君をピンポイントで二人目救出はさすがに無理が生じる。だからこそコナン君は不可思議な疑問が生まれた。
「色々教えてくれてありがとう! あと、退院したら博士の家に住んでね!」
「いやいやいやいや」
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