ピンポーンとインターホンが鳴り、訪問者をスコープで覗けば見知らぬ男が佇んでいた。この世界で私を訪問してくる人物はゼロに等しい。悲しいが、ジョジョと違い戸籍も何もない所からのスタートなので悲しくはないがとりあえず、チェーンを外さずにドアを開けた。

「はい?」
「こんにちは。初めまして、今日から隣に住むことになった沖矢昴です。ご挨拶にと思いまして、突然失礼します」

 今時珍しく引っ越しの挨拶をしにくるのか。確かに、大家さんは新しく住人が増えるって言っていたし、空き部屋だった隣が何だが騒がしかった。

「こちら、つまらない物ですが、良ければ召し上がってください」

 手提げ袋をドアの前で差し出してくるのでこのままでは渡してくる彼に失礼にあたらないよう一旦扉を閉め、チェーンを外してドアを全開にする。

「すみません、わざわざありがとうございます」

 受け取る私の左腕の方を注視していた。両手で差し出してくるのでこちらも両方の腕を差し出す形で受け取る。左手は肘の先からないので袖が余り垂れ下がっている。普段からその部分を見せたくないので羽織り物や長袖を着用している。私がその視線に気が付いたことに沖矢さんは慌てて弁解する。

「ジロジロと不躾ですみません。その、ついッ」
「……あー、いえ、大丈夫です」
「お隣ということですし、何か困ったことがあれば遠慮無く言って下さい。以外と暇な大学院生なんです。お名前を聞いても?」

 この辺りから私は不信に感じた。言葉少なの私は明らかに会話を終了させたいと思っているのに、名前を聞いてくるこの感じ。今までこの世界にきて人の善意に感謝しながら過ごしてきたが事件が生まれるこの世界のことは忘れることなく警戒はしていた。

「☆☆♪♪です。有難く頂きますね」

 にっこりと笑ってやれば、向こうはあっさりと引き下がった。暫く玄関先で用心していたが、人の気配がないことにホッと息を吐いてすっかり緊張していたらしいことに気が付いた。コナンはジョジョと違い原作を読んでいないためよくわからない。最初の黒づくめの男たちと小さくなった工藤新一とのサスペンスバトルのような話だった。沖矢昴が原作に出てくるの主要人物なのかはわからないがコナンって以外に思わせ振りな演出だったからな。強ち間違いなさそうな気がする。原作には関わりたくない……が、ここでやたらめったな態度は逆に怪しまれる。なるべく普通にだ。よし。沖矢さんから貰った包みを確認。割とここいらで有名な洋菓子店だ。(ここだけの話だが、地名やら建物は現代世界と同じように存在して名前はオマージュされているから覚えるために図書館で調べたりはしたのである程度ここの世界観を学んでいる)食べ物に毒を盛るなんていくら事件が多いからといって私にする意味もないだろうから、これは有難く頂いて問題ない。



───



 亡霊である赤井秀一は存在を嗅ぎつけられてはならない。徹底的に他人に成りきると共に、相手がどんな人物か把握することも怠らない。身を隠すアパートの住人を調べ、ある人物が奇妙なまでの経歴がわかった。大怪我で発見され緊急搬送されるまで生きた痕跡を一片の欠片もなく消していて、突然降って湧いた人物。探りを入れるため☆☆♪♪の部屋を訪れた。昼間なら学生や社会人なら留守にする時間帯。彼女は家に居た。扉はチェーンを付けたままその開いた隙間からこちらを覗いた人物はまだ幼い顔立ちの女の子。年は17と合致する容姿だ。日本国内は治安は良い方で独り暮らしな女性の警戒心よりかは何か別の用心をとっているように見受けられた。菓子折を差し出せば、断ることもその数センチの間から落ちる受け取るでもなく、わざわざチェーンを外して受け取ってくれた。開かれた先は大きな布が下がり中の様子は窺えない。彼女のその左袖は本来あるべき左手はなく垂れ下がっていた。調べていたとおり、左手を失っているようであった。視線に気が付いた彼女は眉を顰める。謝罪の言葉を口にし、許す言葉を言う彼女は心情はありありと不快感が表れていた。顔に出るタイプなのかそれをわざと偽っているのか。更に踏み止まろうとしたが、有無を言わさない笑顔にこれ以上は会話を続けることは無理だと判断しその場を立ち去った。直接会ってみて別段怪しい素振りはなかった。だが、常人ではない何かを隠し持っていると赤井秀一の勘が告げた。

 庭の手入れと称し暇な大学院生を利用しアパートの住人の観察をしていた赤井秀一はこの一環で大体把握できた。朝から元気に飛び出してきたのはこのアパートの大家の息子である杉浦開人は小学校に行くようだ。

「おはよう、開人君」
「あっ、お兄ちゃん。おはよう!」
「気をつけて行くんだよ?」
「えへへっはーい!」

 彼は元気いっぱいの遊び盛りで少しそそっかしい。水撒きをしていたホースに足を取られあわや転倒しかけた子供だ。その後、すぐに出てきたのはアパートの住人の一人、細井竜平だ。彼は大工の仕事に出るようで挨拶をすればおうと素っ気ないが返事はきちんと返してくれる。
 一通り撒き終えれば朝日に照らされた草花はきらきらと光り喜んでいるように見える。丁度、出社する家主が出てきて沖矢に声をかけてきた。
「いやぁ〜。沖矢君が庭の手入れをしてくれて助かるよ。見栄えが良くなって」
「僕は暇を持て余していますし、全然苦ではありませんよ」
「そうかい? こういうの点で分かんないものだから。庭なんてほったらかしだったんだが」
「そうだったんですか。せっかく広い庭なのでもったいなくて」
「ハハハッ! これから帰ってきて綺麗な庭先見るのが楽しみになったよ! ありがとうね」

 



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