私は今、東都米花市米花町にあるアパートに住んでいる。米花町とはあのコナンの世界の住所であることで一気に事件発生率が上がる危ない町である。本当ならもっと田舎でゆっくり暮らしたかったのだ、運ばれた先が総合米花病室のこともあり、近くの裁判所で新しい戸籍を取得し、とんとん拍子にことが運んだのも民生委員の方々のお蔭だ。また住居になったアパートの大家は私の事情を知って良くしてもらっていて、この世界の優しさに心が染みた。最初コナンの姿を見たとき漫画の主人公かとあの承太郎にされた仕打ちに被って見てしまったが私を発見し救急車を呼んでくれた本人だった。私の命の恩人である。最早、崇めたい存在だ。あの時私はDIOとの最後の戦いに巻き込まれ、原作を打ち明けたためか、花京院の代わりに私がDIOのスタンド世界『ザ・ワールド』の時止めからの腹パンを食らって死の狭間を彷徨っている間に何故がコナンの世界へ来ていたらしい。あの後、DIOがどうなったのかはわからないが寧ろあの世界から逃れてホッとした。偶々かはわからないが、カイロの外国よりかは現代日本の首都の方が医療施設整っているだろうし、生存率も上がったはずだ。あのまま、カイロで倒れていたら多分死んでいたに違いない……。
 思い返しても恐ろしい。あの時、ジョセフと二人来た道を引き返した時、まさかDIOがジョセフを追って来るなんて思いもしなかった。咄嗟にジョセフに迫ったDIOとの間に割り入れた私は当たり前だが強力なスタンドにさっき出現したばかりの使い熟せないスタンドじゃ話にもならない。一発で死にかけたのだ。今でもあの時受けた傷はとてもじゃないが人には見せられないくらいに酷い有様だ。ヴァニラ・アイスのスタンド『クリーム』にも左手は持っていかれてしまった。何故あの世界に飛ばされ、こんな状態になったのか納得いかない。けれど、もう、漫画の世界とは思わなくなった。肢体不自由となり、左手は戻ってこない。腹部の傷跡は消えない。これは揺るがない現実。だから、コナンの世界とはいえ、これが今の現実世界だ。体が傷つけば血が出る。そんな当たり前の世界。

 お世話になっている大家さんの息子さんの杉浦開人君が学校から帰ってきた。利発的な小学一年である。私に気付いた開人君は小さい体を懸命に動かしすぐ近くまで駆け寄ってくれた。

「お姉ちゃん!ただいま!」

 この屈託のない満面の笑み。可愛いじゃないか。内心デレデレであるが、おくびにも出さないでお帰りなさいと微笑むに留まる私。

「今日ね! ヤイバのテレビがあるから急いで帰ってきたんだ」

 可愛い報告をしてくる開人君は気持ちが急くのか足早にアパートの敷地内に入ろうとして段差に足を引っ掛けた。あっと、声が漏れた。勢いそのまま固いコンクリートの上を頭から落ちる開人君に手を伸ばすが間に合わない!
 すんでの所で開人君の後ろの背を掴んで止めたのは――忘れもしないあの私の腹に一撃くれたDIOのスタンド『ザ・ワールド』だった。驚愕の余り声すらでない。『ザ・ワールド』は開人君を掴んだままスーとこちらに近づき私の中へ消えていった! 開人君は私の右手に収まってしまった。

「凄い! 凄い! お姉ちゃんまるでクレーン車みたい!」
「……クレーン車? 兎に角、注意しないとあぶないよ」
「うん! お姉ちゃんありがとう!」

 お礼もそこそこに開人君は自分の住んでいる部屋まで駆けていった。
 今のは間違いなくDIOのスタンド『ザ・ワールド』だった。まさか、近くにDIOが? と辺りを見渡すが勿論今は昼間であるし、辺りは普段通り閑静な住宅地であり、そもそも、『ザ・ワールド』は私の中に消えていった。
 その場を逃げるようにして自分の部屋に戻ってみて、ゆっくりと深呼吸をした。落ち着け。息を吐いて心の中で唱えてみた。
 ――『ザ・ワールド』!!

 シュウウンッ!

 無機質なボディの黄色いスタンドが此方をじっと見つめ返す。何でDIOのスタンドが私のスタンドみたいに出てくるの? そもそも、私のあの靄みたいな赤いヤツは? いや、まずコナンの世界でもスタンドって出るんだ〜〜〜。

「いや、意味わからん」

 混乱を極めていた。


 
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