「え? スキー?」
「ううむ、急で申し訳ないんじゃが、実は風邪を引いてしまってのぅ。子供たちも楽しみにしておったし、一緒に引率者として同行してくれんかのぅ」
 朝から電話が鳴り急用かと電話を取れば、一緒にスキーに行かないかという内容だった。苦しそうに電話の向こうで咳をする博士。こんな時期に風邪でしかもスキーなんて体の具合が悪化しそう。
 子供たち。そう、かの有名な少年探偵団ですよ。つまり、事件に遭えと……いや、しかし。日頃から大変お世話になっている博士の頼みとあれば、さすがの私も覚悟決めますとも。
「それは構いません、けれどスキーウェアなんて持ってませんが」
「スキー場でレンタルもあるから、そのレンタル代はわしが持とう」
「なら、博士はゆっくりやすんで下さい。代わりに私が連れて行きますよ」
「すまんの〜、♪♪君。本当に助かるよ」
 兎に角急いで準備し、私は直ぐに家を出た。
 インターホンを鳴らせばマスクをして大きい鼻の頭を赤くした博士が出てきた。完全に風邪を引いているという感じだ。
「辛そうですね」
「う、うぅ…面目ない」
「いえいえ、薬は飲んだんですか?」
「ああ、飲んだよ」
「とりあえずスポーツドリンクと栄養剤と買ったんで飲んで下さい」
「おぉ〜、すまんのぅ」
 哀ちゃんがお粥を作って食べさせてくれたそうで、小学一年生にしては出来る女の子らしい。その事に関心していると、別にそれくらいどうってことじゃないわと、素っ気なく言われた。
 まだ最初の頃と比べれば苦手意識は薄れたように思えるが、まだその程度。凄い警戒心の塊のような子供である。
「……私料理苦手だから、尊敬するわァ」
 私の左の腕から下をみて、そこからふいっと顔を逸らされた。多分、今の勘違いされたに違いない。私は左手がないが自由に動かせる手足がある。それを持ってしてもぶきっちょというかフライパンは焦がすしまな板を壊すわで元々料理が出来ない。決して左手がないせいではない。
 そうこうするうちにインターホンが鳴り博士の言っていた子供プラスコナン君がやって来た。それぞれ初めての顔合わせだった子供たちは私の左手がないことに良いリアクションをみせてくれた。コナンはそっと私に近付くと口元に手を沿わせる仕草を見せたので屈めば内緒話をするように声を潜めて聞いてきた。
「♪♪さん、スキーなんて出来るの?」
「……いや、初スキーだよ」
 華麗なずっこけを見せてくれた。今の顔に声をあてるならオイオイって感じだ。
「大丈夫だよ、子供たちは私のこの手を見て逆に面倒みるって言ってくれているし」

 スキー場にはバスで行くらしく、博士は今回の引率代として多めに握らせてくれた。
 乗り合わせたバスは中々人が多く後ろ側の座席しか相手なかった。歩ちゃんという女の子が私を座席までエスコートしてくれて隣にポンッと座った。とても、その、可愛い。思わず右手で頭を撫でた。嫌がる素振りをせず、寧ろ嬉しそうに照れ笑いを見せてくれた。荒んだ心が洗われるようだ。
 乗り込んできたパツキンの外国人と若い眼鏡の男はどうやらコナン君とそれから子供たちの知り合いらしくそれぞれ声を掛け合い斜め前の座席に二人が座った。この停留所で乗り込んだ乗客で全ての椅子が埋まった。
 チラリと後ろに目をやれば目つきの悪い男と目が合い直ぐさま前を向いた。後ろに人が居るとそわそわしてしまう。落ち着かないな。中々出発しないなと何気なく見れば最後に乗ってきたのが何故かスキーウェアを着ていた二人組がモタモタしていた。子供たちもスキーウェアに不思議がっている。そこで、ここで嫌な予感がした。博士の頼みとして引率としてこの場に居るが、ここはコナンの世界。そして、不審な二人組。そしてバス……まさか、バスジャックとかないよね。あははは。
「てめーらは人質だ! このバスは俺たちが乗っ取った!」
 思わずコナンに目をやる。
 まじかよ。

 ――パンッ!
 犯人の一人が銃を上に向けて発砲した。オイオイ! やめろ! やたらめったら発砲しないでほしい。銃火器なんてデリケートなもの素人がバカスカ打たないでくれ! 破片や動作不良で暴発して当たったらどうする!?
 慌ててコナンに目をやればコナンもこちらを見てくれたので手を握り前に押し出し、ザ・ワールドで銃を取り上げも犯人を伸してもいい。ジェスチャーすれば険しい顔で首を振った。犯人の目的を知りたいのか待ったを掛けた。
 捕まった矢島邦男の解放って、誰だよソイツ。このバスジャックを起こした犯人グループの仲間なのは分かるがそれまでだ。コナンは直ぐに分かったのか意味深な表情を浮かべていた。さすが、主人公である。
 乗客の携帯電話を犯人は回収して回り、私も素直にそれに応じた。しかし、コナンは携帯電話とは別に外と連絡が繋がる何かで連絡を取ろうとして犯人に掴み上げられ焦った。コナンは直ぐに解放されたが、子供に暴行を働くは直ぐ発砲するは相当キメてる。
 それに比べて、子供たちはひっそりとこの危険な状況に泣き言を発さず耐えている姿に憤る思いだ。
 前に移動する際派手に転がった。あのパツキンの外国人がすっころばしたらしく犯人に詰め寄りその際拳銃に手を添えてあるのが見え、その行動に度肝を抜かれた。エキセントリックな片言日本語も目を引くが、今のはない。この人も頭オカシイ。
 混沌とした中、コナンは果敢にも通路に置かれた犯人の荷物を検分しようとしてその行動が随時バレてしまいその銃口がコナンに向いた瞬間、堪らずザ・ワールドを発動させた。ザ・ワールドが発現してから、密かに時止めが出来るか試していた結果、DIOと同じく時を止められることがわかった。ジョセフの血を奪われる前のきっかり5秒。
 時止めで素早く銃口を潰す。本当は拳銃その物を取り上げたかったけれど、突然無くなると騒然となるためこれが気付かれないギリギリの範囲だろう。
 辺りを見渡せばこちらに駆け寄ろうと立ち上がった先生と呼ばれた知り合いの男があった。まさか、この撃たれるか否かの緊迫した中、彼はコナンを守ろうと動こうとしているのか。
 そして、5秒後。
 


「止めてください!! ただの子供のイタズラじゃないですか!!」
 その先生は向けられた銃口を前にして身を挺してコナンを守った。もう一人の犯人が窘め事なきを得たが、あれに当たるとことだって……不穏すぎる言葉を落とした。おい、これ、爆弾だろう。
 まさかというか、コナンの世界、一応現代の日本が舞台だろう。銃器や爆発物ぽんぽん出すぎる。
 主人公であるコナンは死なないだろう。しかし、私は死ぬこともある。主要メンバー以外は命の保証はない。もう、こうも向こうの出方を窺う場合じゃない。
 もう限界だというときだった。
 腰を上げようとした途端視界が暗くなる。突然の暗闇に勢いが殺がれ中途半端な中腰のまま動けなくなった。
 すると犯人のほうが動きをみせた。バスの走る速度を落とすよう命令を下すと今度はコナンを庇った侠気溢れるあの先生という彼と後ろに座った目付きの悪い男二人を指定して犯人の着ているスキーウェアを代わりに着れと言い出し、これまた後ろでガムを食っちゃべる女を人質に取りだした。トンネルを抜けた後スピードを上げて後ろの追跡を振り切った後、バスから降りて逃走を図るらしい。
 小声で私を呼ぶのはコナンだ。
「トンネルを抜けた後、バスを止められる?」
 博士の研究でザ・ワールドのスタンドパワーの強さを知っているからこんな頼みが出てくるのだろう。無論、最凶のスタンドだ。私はコナンに任せてと返した。そして、子供たちに指示をだし、トンネルを抜けた。一気にスピードを出すバスに終ぞザ・ワールドを発動する。
「何かに捕まって!!」
『ザ・ワールド!! 時よ止まれ!!』
 きっかり5秒。バスのタイヤをパンクさせバスの後ろにザ・ワールドをスタンバイさせた。
 体に掛かった衝撃は相当なものだった。さすがにハイスピードな上に重量のあるバスを力任せに止めるというのは一般人にはきつかった。
 ザ・ワールドを脚を地面にぶっさしながらスピードを抑える。やはり、スタンドを操るのが吸血鬼との違いか、妙な音が体から響いた。見事に子供たちは爆発物を体で押さえ込むという荒技を見せ、コナン世界の住人との差を思い知らされた。
 車体をひっくり返さずになんとか急停車出来た。
 ザ・ワールドの頑張りで思いの外衝撃を最小限に抑え乗っていた乗客に怪我はなさそうだったが、前方はそうではなかった。立っていた5名は折り畳むように転がっていている。
 これで犯人は時期に捕まるとコナンはほっとした様子だった。だが、爆弾のスイッチが今の衝撃で作動したとガム女が悲鳴を上げた。なんだと……?!
 車内は大パニックになり最早犯人人質関係なくわれ先に外へと駆け出す。私も逃げ出したかったけれど、バスを止めた衝撃は体に堪えていてスムーズに動かすことが出来ない。
 ザ・ワールドを使って脱出をと思えば何故か隣の座席に座ったままの哀ちゃんがいた。
「何してるの? このままじゃ爆発に巻き込まれるわ。速く逃げなさい」
 何言ってんだこの子。
 その台詞、そっくりそのままブーメランだ。
 思わず私は時を止めた。
 車体の上を殴り飛ばし、爆発物と自分をザ・ワールドに持たせそこから脱した。右側に面した山に向かって駆け出し終いに時は動き出した。
「……損な役回りだな」
 今更だけど。
 力を込めて爆発物を投げ飛ばした。数秒後に汚い花火が上がった。もうヘトヘトだし、これは警察の事情聴取でスキーはなくなったな。
 無事に爆発物処理をした後、バスまで戻りしれっと避難場所に何食わぬ顔で戻ればコナンは慌てて駆け寄ってきた。
「♪♪さん! 大丈夫だった!?」
「声もう少し抑えて。……私は問題ないよ。それと、哀ちゃんは?」
「あ、ああ……。灰原なら具合悪そうだったから病院に連れてってもらった」
「そう、なら良かった」
「いや! そうじゃねーって! 灰原と♪♪さんが降りてきてねえって知って慌ててバスに行ってみれば爆弾と♪♪が居ないし」
 興奮するコナンを何とか鎮め、回りを見てみればあの怪しいパツキン先生とコナンを守った眼鏡の先生……それから、あの目付きの悪い風邪を引いた男が注目していた。コナンは頭が良いのに冷静さをかけると周りが見えなくなる質らしい。
「もう無茶はダメだ。♪♪さんは生身の人間だろ」
「うん。そうだね。もう、しないよ」
 コナンにあのパツキンには気をつけてと注意を促せば乾いた声で笑った後頷くが、これは何かあったな。



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