聞こえてきたのは、私の心拍数を計る音。繋がれた点滴に、身動きが取れないように、拘束具のようにベルトをベッドに繋がれていた。
 そう、生きている。
「ッ……」
 発しようとした時の違和感は呼吸器を付けられていたようだ。
 いつの間にかやって来た看護師が目覚めている私に気付き大慌てで医師を呼び連れてきた。ボールペンを目で追ってくれといったり、爪先を押したりと意識確認をされた。
「名前を教えて下さい」
「☆☆♪♪」
 随分と動かしてない口は少し縺れ水も飲んでいないためかなり聞き辛い声を目の前の医師は的確に聞き取った。
「年はいくつですか」
 すぐには答えをられなかった。改めて聞かれれば、私は突然ジョショの世界に飛ばされ学校に通っていた。年齢は承太郎と同い年だから――。
「十七」
「ということは、高校生ですね。学校はどこてますか」
「……」
 あの時、なんとなく学校に通っていて学校名までちゃんと把握していなかった。
「……わかりません」
 言い辛いがそう答えると医師は少し難しい顔をしたが、すぐにニコリと笑ってまた質問した。
「では、今の西暦は?」
「1988年」
 なんか違和感はあった。目に見える人物も目に映る物もだ。それに、ここは日本で、私はエジプトのカイロに居た。あの死ぬ大怪我を遠く離れた日本の病院にいるのがおかしい。私の答えにその場に控えた医師看護師含め空気が変わったことを感じた。私はとんでもない間違いが起こしたのかもしれない。
 その違和感の状態はすぐに知る事となる。
 承太郎たちがどこにいるのかもわからず、一人ここで入院を強いられていた。もしかして、あの後、全員全滅したんじゃないかとも考えたが、それじゃあ私が日本に居る理由がつかない。
 しかも、完全面会謝絶らしく、病室は病院関係者以外見ないし、日がな一日、ベッドに転がりただ何もなく過ぎてゆく。テレビもないので、暇を通り越して苦痛だった。
 聞くところによると、土手っ腹に穴が開き、内蔵も押し潰れ、出血性ショックと敗血症で死んでもおかしくなかったとのことだった。あの時、死ぬと思っていたからまずこうして生きていることが信じられない。
 約二ヶ月後、私に事件の話を聞きたいと警察の方が見えられると医師から聞いた時、疑問が浮かんだ。
 今まで旅をしてきて、現地の医療機関にお世話になった。そこも、分かるが、何故事情聴取を? まず日本ならSPW財団の人たちが動き日本警察に曝されないよう配慮するんじゃないだろうか。スタンドバトルの怪我ですなんて正直に言っても頭が……と言われるレベルの話だ。
 医師の控えた病室に次々と入ってきた人物たち。
 今どきコスプレですかといいたくなる如何にも刑事ですといった人や凄い美人のお姉さんにスーツ姿の男性。それから場違いな子供一人。真っ青なジャケットに半ズボン。真っ赤な蝶ネクタイの眼鏡。
 利発そうな子供が目をそらすことなくじっと見つめている。コスプレじゃないなら、私はとんでもない間違いを本当に犯していた。
 真実はいつもひとつ。
 ジョショの世界と思い込んでいた私は実際にはコナンの世界に今度は死にかけのままトリップしてしまった……。
「あの、その子は?」
 私の言葉を代弁するかのように担当医師が警部に聞いた。
「ああ、それは、彼が彼女を発見した本人でして、彼女の容態をひどく気にしていたんでね」
「お姉さん!」
 食い気味に間を割ってやってきた彼の表情は厳しく、懸念と疑念が混ざった緊迫した空気を纏っていた。
「体は痛む? 僕、お姉さんを見付けたときひどい状態だったんだよ」
「……」
 あまりにも急な展開に言葉が出ない。その様子に様子を窺う医師を見ながら妙に動悸をする心臓誤魔化す。
「体は……痛いけど、生きてるよ。見付けてくれてありがとう。……君がいなけりゃ死んでたよ」
 何とか言えた言葉にコナンは息をのむ素振りをした。やめてくれ、それは心臓に悪い。
 それぞれ名乗り、あの日の詳しい話と自分の身元などを聞かれた。どれが正しいことなのか、判らなかった。今、選択肢を間違えれば、本当に死ぬかもしれない。コナンはきっと、彼らと一緒に医師から最初の意識確認の話を聞いている。西暦のズレを彼が疑問に思わないわけがない。このまま、全て分からないと言えば、余計に怪しまれる……。磨り減る神経に、私はあの時から投げやりになって失敗して、左手を失い、更には死にかけた。いや、本当は一度死んでいたかもしれない。
 けれど、頭脳明晰の主人公に曝されている時点でもう私に選択肢は残されていない。
 結局、知らぬ存ぜぬで、警察の人との事情聴取を終わらせた。難しい顔のまま帰って行ったが、コナンは子供特有の駄々をこねこの場に残った。
 医師は子供に強くは出られず、この点滴が終わるまでには帰るんだよと入室時間を許し、出て行った。
「僕ね、お医者さんから錯乱した時のこと聞いたんだ」
「……」
 コナンはベッドに貼り付けされたベルトを指さした。
「その時、♪♪お姉さん凄い怪我を負っているにもかかわらず、ベッドから這い出て逃げようとしたんだって。看護師が四人で押さえつけて慌てて先生が麻酔で眠らせたって言ってたけど、それも覚えてなぁい?」
「……覚えてる」
「じゃあ、その時喋ってたディオって何?」
「……一世紀以上前のイギリス人」
「え? 一世紀以上前?」
 これしか、方法はない。主人公の疑念を晴らさなければ私は簡単にこの世界に殺される。
 私は承太郎たちとの旅を起因から最後の様子を目の前の主人公に伝えた。私は嘘はついていたい。嘘をついたとしても彼の疑念を大きくするだけだと知っていた。それに、妄言事と言われ、彼の疑念を消してもいい。
 混乱した彼に畳み掛けるようにずっと喋った。
「……だから、♪♪さんの身元調査が進まなかったんだ」
「そう、だこら。ここに犯人は居ないし、私の存在もない。警察には申し訳ないけど骨折り損だよ」
「じゃあ、♪♪さんにもスタンドはあるんだね?」
 コナンの口からそんな言葉が飛び出してくるとは思わなかった。勿論、立てかけるスタンドじゃない。あの、精神エネルギーのことだ。
「もし、本当なら、♪♪さんもそのスタンド使いなんでしょ?」
「……」
 私の後ろに出現したこのゴツイフォルムはコナンの首をヒョイと掴んだ。
 目を丸くして、コナンはうわ! と大声が出て、頻りに首を触るがスタンドは触れない。
「うそだろ!?」
 素で驚くコナンの首を離してやれば、素早く飛び退いた。
 周りを見回して種を探すが見つかるはずもない。
「……」
「……」
 無言で見つめられてもこれ以上どうすることも私には出来ない。
「どうにか、目視できないの?」
「無理だよ。スタンドはスタンド使い以外には見えない」
「……はぁあ〜」
 盛大なため息とともにコナンは懐からボールペンを取り出した。
「これを、そのスタンドで持たせてみて」
 どうにも、スタンドの種を明かせたいように催促するコナンに再び出現させ掌に転がすボールペンを摘まんだ。コナンには宙に浮いたように見えるだろう。それを、睨み付けていた。
 いくつもの指示をスタンドに飛ばした後、看護師が点滴の交換にきて、まだ居残りたそうにしたが約束事だと引き摺られるように連れ出されていた。
 よくわからない闘志を燃やされたがこれはこれでよかったのか一時悩んだ。

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