いつも甘やかしてしまうというのはわかっていた。
俺がいなくなったらどうなるのか、一度試してみたいものだという好奇心もあった。
けれど、そんなことしたらツナは間違いなく何もできなくなるだろう。
それが、中学までのツナだった。
それからはずっと俺が傍に居てあいつの面倒を見ていたからそういうことは少なくなってきていたのだ。
あいつを悲しませるようなことにならなければそれでいいと思っていた。


知りえた情報をメールにして雲雀の元へと送った。
これで、粗方の情報は集められたと思うとリボーンは安堵していた。もう一日様子を見てひきあげるか、といつものように考えていた。
けれど、違ったのは、その場所に敵が忍び寄っていたことだ。
リボーンは背後を取られていたのに気付かず、振り返った時には首に注射針の痛みに顔をしかめた。

「お前…は」
「よくも入りこんでくれたな、ネズミ」

ククッと笑った顔がやけに頭に残っていた。
それからは地獄だった。
捕えられたリボーンは、腕や足を縛りつけられどこの回しものだ、と自白剤といわれる薬物を打ちこまれた。
途方もない時間に思え、何度か口にしてしまいそうになる後悔と、連絡の取れなくなったことにツナがどうなっているのか気になる先のことも、リボーンはいろんなものを背負い過ぎたのかと自嘲気味に思っていた。
意識も朦朧とする中で、確かにツナの声を聞いた。
焦ったような声、それに鳴き声のような悲鳴。
ボスとしてまだまだなにも成長できてないと感じながら、リボーンの意識は深く沈んでいった。



目覚めると、白い天井だった。

「お、目が覚めたか」
「シャマル」
「大変だったんだぞ、血だらけで運ばれてくるわ、死にそうだわ、けどまぁ無事でよかった」

声をかけられてそちらを見るとシャマルがいた。
ため息をつきながらいろんなところを触ってここはどうだと、確認してくる。

「あいつは大丈夫だったのか」
「あいつ?あいつら、じゃないのか。骸とか雲雀とかは全員無事だ」
「…そうか」

あいつらの心配するなんて珍しいな、とそんなことを言いながらシャマルは笑った。
俺はそこで違和感を覚える。
あいつら、確かに俺の頭の中にはあいつらしかいない。
山本、獄寺、ランボ、雲雀、骸、了平…でも、他に誰かを忘れている気がする。
けれど、守護者は全部で六人のはずだ。
誰も忘れてはいない…。

「なんだ?」
「いや、俺は誰かを忘れている気がするんだ」
「記憶喪失か?とりあえず、守護者をあげてみろ。あと、部下の名前もとりあえず聞いてみるか?」

シャマルの心配に俺は思い出せる限りの人の名前をあげてみた。
けれど、俺の記憶力に支障はなく気のせいだと言われてしまったのだ。
気のせい…なら、俺は誰を忘れてしまったというのだろうか。
忘れていると思うのに。誰のことなのかわからない。
自分の手を見て、傷を負っているらしい背中は見れず痛みに顔をしかめた。

「俺はどうして背中に怪我してるんだ…?」
「は?お前が捕えられて監禁されてたからだろ」

色々あって記憶が飛んでるのか?とシャマルは首を傾げている。
確かに、鎖で繋がれた記憶はある。
手首に残るそれも、きっとその名残なのだとわかるのだが…俺の背中についたこれは…なにか別の理由でついたということしか思い出せなかった。
それが、唯一引っかかることで、けれどなにもわかりはしないのだ。

「骸に聞いてみるか」
「呼ぶか?」
「ああ、頼む」

シャマルが内線で呼びだしているらしい。
暫くすると、面倒くさそうな骸が現れた。いかにも、迷惑だという顔をしている。

「悪いな」
「まったくですよ、僕はこれからフランのところに行かなければならないんですから手短に頼みますよ」
「俺が背中に怪我したことは、覚えてるか?」

骸の言葉にも気にすることなくそう聞いてやると、そんなのアルコバレーノがヘマしたからだろうと見たままの答えが返ってきた。
俺が知りたいのはそれではないのだ。
もっと、なにか…その俺の引っかかりを解消できるようななにか決定的な理由があるはずなのに…。

「何を言っているのかわかりませんが、僕が来た時にはその傷はありましたよ。そのせいで出血多量、僕の服が赤く染まり、生死の境をさまよったというのに…」
「あーあー、もう埒があかねぇ。リボーンお前は暫く此処から出るな。その傷じゃ仕事もできないだろ」
「それがいいですよ、最近ずっと休みなしで働いていたのですからたまにはやすんだらどうですか」
「……」
「忘れてるってのも、寝てたら思い出すかも知れないしな」

シャマルが無理やり会話を切るが、俺は全く何も言い返せずにそのままベッドに寝かせられることとなった。
胸のこの引っかかりはいつ取れるのだろうか。
傷を負ったから記憶が混同しているのか…?
でも、ありもしない記憶を作ることがあるのだろうか。
しかも、なにも思い出せない。いや、それが証拠なのかもしれない。
何か大切なことを忘れている気がするのに思い出せない。
もやもやとしたものは俺の中に巣くっていて、だんだんと思考すらも奪われていくようだ。

「悪かったな、二人とも」
「いえ、しっかり休んでください」
「俺もなるべく近くにいるから何かあったら呼べよ」

そう言って、二人は部屋をでていった。
俺は一人きりになって、何かが足りないと思う感情に蓋をするようにベッドに横になると目を閉じた。
今はただ、本当に記憶が混乱しているだけかもしれない。
寝て起きたらまた、何か変わっている。
そう自分に言い聞かせて俺は眠ることにしたのだった。


*****


ピッピッとなる電子音、あらゆる管に繋がれた状態でリボーンは眠っていた。
アレから三日が経とうとしている。
リボーンの身体は順調に回復しているらしいが、まだ時間はかかりそうだ。
そして、意識が戻ってこない。
俺は仕事が終わるとずっとリボーンのベッドまで行き椅子に座って目覚めるのを待っていた。

「おい、いい加減にしろ。そんなところで待ってても、部屋で待ってても変わらねぇだろ」
「わかってるよ」

シャマルが声をかけてくるが、俺はリボーンを待つのを止めなかった。
まったく、とため息をついてシャマルは奥の部屋にいってしまう。
リボーンはこん睡状態のまま戻ってこない、なにが悪かったのか…こればっかりは怪我とかそういう類ではないと言われた。
なにが悪いでもない、むしろ命が助かっただけでもすごいことだとシャマルは自分の腕を自慢して見せた。
ただ、リボーンの瞳は開かれることなく…俺は事後処理に追われていたのだ。
毎日のように書類が溜まっていく、それを片づけるだけで時間がかかりそれを助けるように隼人が俺に手を差し伸べてくれた。
雲雀さんも骸も、今は顔を合わせることもなくなっていた。
あれ以来、雲雀さんはなにか言葉を飲み込むように俺の前に現れなくなり骸は俺がいないときにリボーンの様子をたまに見に来ているらしい。
俺が勝手な行動に走ってしまったために悪化させてしまった今回の事件は、俺に重くのしかかってくる。

「俺が、悪かったんだ…ごめん、リボーン」

声に出せば答えてくれるのかといつも呟き続けた。
けれど、俺の握っているリボーンの手が握り返されたこともなければ波形にもなにも変化は訪れない。
薬も打たれていたとわかって、しかもそれを打たれてもリボーンは俺達のことを口にすることはなかったのだ。
リボーンはこんなにも強いのに、どうして俺はボスをやっているのだろうか。
どうして、俺はこんなに大切な人も危険にさらしてしまうようなことをするのか。
涙がぼろぼろと零れる。
自分の膝に落ちるのも構わず泣き続けた。こんなことでボスをやっていける自信がない。
これ以上、皆を守れる自信が…ない。
お前なら、こんな状況をどうやってくぐりぬけるのだろう。
俺はリボーンのベッドに身体を預けるとそのまま意識を手放した。
こうして、リボーンの隣にいればいずれ、起きてくれると信じながら。


*****


窓を土砂降りの雨が打ちつけていた。
俺は病室からそれをみながらため息をついた。寝ても覚めても、この何かを失くした感覚を忘れることはできなくて、何を思い出すこともなかった。
大切な何かを失くしているはずなのに。毎日何事もなかったかのようにたまに獄寺が見舞いに来るぐらいで変化という変化もなかった。

「やぁ、赤ん坊。気分はどう?」
「…雲雀、いい加減その呼び方は止めろって何度言ったらわかるんだ。あいつもいってた…だ、ろ?」
「ごめん、冗談だ。口だけは減らないみたいで何よりだよ」
「あいつって誰だ…?」
「は?」
「俺のこの呼び方に反対していた奴がいるだろ?」

自然とでてきた言葉に疑問を抱く。
自分でとっさに出てきたものなだけに違和感があり過ぎた。俺は誰を忘れているんだ。
誰が、いないんだ…?

「確かに反対していた人はいるけれど、多分ほとんどの人がそうなんじゃない?何をそんなに真剣になってるの?」
「俺は何を忘れている?」
「またそれ?」
「何かを忘れているはずなんだ、大切な…何かを…」
「僕は何も知らないよ、君のその記憶喪失もどきにも心当たりがない」

俺がこういうことを言うせいですっかり異常者扱いだ。
異常者といっても、阻害されていたりだとかではないのだが…。

「それはそうと、君を拉致したファミリー潰してきたから。よかったね」
「…ありがとな」
「別に…君が、安心してそこにいられる理由を作ってあげただけだよ」

ちゃんと療養しなよね、というなり部屋から出ていってしまった。
降り続く雨はやむのを知らないように、果てなく窓を濡らし続けている。
それはまるで誰かが泣いているかのようにとめどなく、俺はそれをずっと眺め続けていた。
指先に何かが触れている感覚がある。それなのに、それは見えることもなく俺は手を握ったり開いたりを繰り返した。
俺の記憶に住む正体の知れないその人間は、俺に忘れられてなにも思わないのか。
どうして、俺に会いに来ないのか。
皆がそろえば、わかるというものなのに。
そう思うが、実際にはここに守護者は全員やってきていた。
俺の様子をみにきて、心底安心していたのだ。その中で顔のわからない奴はいなかった。
だから、俺の記憶に欠落はなかったとわかっているのだ。わかっているのに。

「なんで、わからねぇんだ」

何かが確実に抜け落ちている。
それは明白な事実なのに、俺は窓を見つめて唇を噛みしめた。
この胸を締めつける痛みをそいつが起こしているのだとしたら、それはすぐにでも会いに行かなくてはならないのだ。
そいつだって、きっと苦しんでいるはずなのだから。


*****


ツキンと痛んだ胸に、俺は意識を浮上させた。

「っ…」

頬を零れ落ちた涙に、泣きながら寝ていたのかと袖で乱暴に拭った。
リボーンは変化もない。ただ、時間が止まったかのように規則的な呼吸をして眠っているだけだ。
はぁと深いため息を吐いて、立ち上がったところで病室のドアが開いた。

「部屋にいないとおもったら、ここにいたんですか」
「骸…」

呆れたように呟かれた言葉に俺は、視線を彷徨わせているとカツカツと歩いてくるなり俺の肩に手をかけた。

「君はっ、死ぬつもりですか!?」
「っ…」
「彼はまだ死んでもいない。それなのに、自責の念でボスは死にましたと伝えてほしいんですか」

骸の言葉がおもりのようにのしかかる。
俺は目を合わせることもできず、下を向いていればこの怒りも過ぎるだろうと思っていたのがいけなかったのか、肩を掴む手に力がこもる。

「どこまで自分を追いつめれば気が済むんですか」
「…それは、俺がそれ相応のことをしたからだ」
「失敗は誰にでもあるものです」
「それが治らなきゃ、同じだ」

苦しくて、呼吸がしづらい。
唐突にこみ上げてきた吐き気に、俺は骸の手を払い近くの洗面台に顔を伏せた。
なにも食べていないからか、胃液だけがそこに落ちて俺は水を流した。

「そこまで追い詰めてほしいわけじゃないんですよ。心配しているんです、素直に甘えなさい」
「俺は、もう…誰も守れない」
「君がそこまで背負うこともない。なんのために僕たちがいるんですか。今回のこの失敗は君が僕たちに正しく指示ができなかったからです、君の力不足じゃない」

骸が俺の背中を撫でながら、言葉を選んで話している。
慰められているのだと感じて、止まったはずの涙が流れた。

「一人じゃ限界がある、それは重々承知していたはずでしょう?それを君は、ただ突っ込めばいいと思っていたのだから仕方ないものですよ」
「…慰めてんの?」
「他人の慰め方なんて僕は知りませんよ」

髪を撫でられて、俺は顔をあげた。
視線を合わさず、ぶっきら棒な言葉に俺はつい緊張が緩んだ。

「骸、変な顔」
「失礼ですね。まったく、君は少し追い込まれ過ぎです。それでアルコバレーノが起きたら怒られますよ」

そうやってバカみたいに笑っていなさい、と頬を撫でられた。

「正直、しっかり仕事している君なんて気持ち悪いです」
「はっきりいうな」
「はっきりいいますよ。アルコバレーノがいないと何もできない君なんて、本当に乗っ取りやすくて…手ごたえがないですよ」
「……」

骸に身体を反転させられぱちんっと両頬を挟まれた。
まっすぐに見つめる目がなにも冗談なんかいっていないと伝えてくる。

「しっかりしてください、君はそんなに弱くないでしょう」
「む、くろ…」
「此処で寝てもいいですが、どうせなら添い寝でもどうですか」
「ばか」
「なら、自室に戻ってください。ボス」

骸からボス、なんて呼ばれたのはこれが初めてな気がする。
俺は唇を噛んで耐え、そっと病室を後にしたのだ。
明日、目覚めるかもしれない。
大丈夫だ、リボーンの怪我は回復してるんだから。
そう自分に言い聞かせて、部屋に戻った。
数日ぶりの自室での睡眠は疲れていたのか、あっという間に寝て朝起きるとすっきりとして頭が軽かった。
あんなにも思い詰めていたのが嘘のように、きっと寝ている間に記憶が整理されたんだなと安堵ともつかないため息を吐き、俺は執務室に行こうかと思ったが、思ったより早く起きていたらしく時間があった。
少しリボーンの様子を見ていこうと病室へと足を向けていた。


からりと、ドアをあければ昨日と変わりないリボーンの姿。
そんなに何度も足を運ぶものではないとわかっていても気になってしまうのだから仕方ない。
顔を覗き込んでも同じだ。
なにも変わらない、それが喜ばしくもあり悲しくもあった。
死ぬ可能性はもう無い、けれどこのままでは…。

「なぁ、甘えてごめん。俺、しっかりやるから…迷惑、かけないようにするし逃げないから…だから、起きろよ。リボーン」

規則正しい呼吸音、電子音、その何もかもが寂しく思わせる。
俺はリボーンの頭を抱きしめた。
俺はここにいる、そう思わせたくて。
だから、早く起きてくれと…願いを込めて。


*****


時計の秒針の音が自分の心臓と同じことに気づいた。
正常なのだろうが、少し気になる。
こうも同じリズムだとどうにも落ちつかない。
時間を見れば、いつもの時間だ。
あいつがちゃんと仕事をしているかチェックしに行く、時間。
アイツ…俺の中に出てくる、あいつはだれなのだろうか。
未だにわからず、そうやって名前の知らない他人の記憶があることだけが蓄積されていく。
そうして、胸を押さえた時だった。自分の胸に何かついている、そう確信したのは俺が起きてからずいぶん経ってからのこと。
慌ててそれを引っ張りだしてみると、それは指輪だった。
愛人の指輪なのかと思うが、そもそも愛人の指輪がこんなところにあるはずかない。
俺はそういうものを持たない主義だった。

「誰の…だ?」

一瞬にして血の気が引いて行く思いをした。
これが手掛かりなのだと、そう言われている気がして俺はその指輪を填まる指にはめてみる。
左手の薬指だ。
なんで、どうして…俺は、誰とこういう仲になったのだろうか。
考えれば考えるほど記憶がよみがえるようだった。だれか、俺の一番近くにいる誰か。
守護者ではない、部下でもない…勿論愛人でも…。
もっと近くに、もっと前から…もっと、もっと…。
俺をアルコバレーノではなく、リボーンさんではなく、赤ん坊でも小僧でもない…リボーンと呼ぶ奴がいた。

「つ、な…つなよし…綱吉」

自分の口から出た名前、それが俺の忘れている唯一の名前だった。
そう、ボンゴレのボスで俺のかけがえのない…この背中の傷を作ってでも守りたかった。
一気に記憶が流れ込んでくる、俺は耐えられずベッドに丸くなった。
頭が割れそうに痛い、意識が薄れていく。




「リボーン、起きろよ…ねぇ、起きてよ」

声が聞こえた。
それは、俺たとてもよく知っている声だ。
忘れてはいけなかった、奴の声だ。
俺は目を開けて、確認した。俺の目の前はスーツで遮られていつも知っている匂いがした。

「つな」

俺が声を出したら、抱きしめていた腕がびくりと震える。
恐る恐るといった感じで、顔を見せた奴は…やっぱりツナだった。
ツナは俺を見るなりじわじわと涙が溜まっていきくしゃりと歪ませ、崩壊した。

「リボーン、おきた…?っ…りぼーん」
「ああ、起きたぞ。お前があんまり呼ぶから、おちおち寝てもいられねぇ」

顔を覗き込んで、頬や顔を確認している。
口についている呼吸器は面倒なので取っ払った。
自分で呼吸出来ているのならこんなもの、もういらなかった。
夢中で唇を合わせて、確認し合う。
舌をいれたのは二度目に唇を重ねた時だった。ツナは泣きながら喘いで、正直そんなに泣くならこれ以上の好意の続行も考えものだと思ったのだが、ツナは俺の上に乗ってきてほしいと全身で訴えてきたので仕方なく掛け布を捲くった。

「入れ、あんま動けねぇから抜くだけだぞ」
「それで、いい…リボーンが、いるって…夢じゃないの、わかったらいい」

泣きっ放しでぎゅうぎゅうと身体を寄せてくる。
誰がこんなに甘やかしたのかと思って、それは自分かと内心で突っ込んでいた。
そうでもしないと、自分の身体を顧みずにこいつを抱いてしまいそうで困ったのだ。
ベッドの中で局部だけを出して扱く。
近くのタオルを手に取りそこに宛がった。

「ツナ、なんか言え」
「な、んか…って、なに?」
「なんでもいい、言え」

俺は二人分のそれを手にしながら言った。
ツナは俺に抱きついて離れようとしないし、うまく手が動かせないせいでこっちは何もいけるような状態じゃなかった。
だから、言葉で何かいってもらえたらどうにかなるかと思ったのだ。
ツナは、小さく喘ぎながら必死に頭を巡らせているようだった。

「もっと、さきっぽ…いじってぇ…」
「ばか、そうじゃねぇよ」

考えた挙句に聞かされた言葉が、愛撫の要望だとはと笑ってやりながら言われたとおりにする。
そういえば、こいつはダメツナだったと思い出してそんなときまでダメさ加減を出さなくてもいいだろうと笑いをこみ上げた。
本当に、バカらしくて…愛しい。

「あっ、ああっ…それ、きもちい…いい、んー…いく、いって、い?」
「ああ、いけよ。俺の耳にたっぷり聞かせろ」

いった途端、ツナが俺の耳元に唇を寄せてダイレクトに吹き込んでくる。
腰にまで響きそうなその喘ぎは、ツナ自身だと俺に思わせ、戻ってこれたのだという安心感にツナが果てた後俺も追うようにして白濁を放った。

「は、はぁっ…はー、はー…リボーン」
「泣くな、とりあえずしまえ」

ぼろぼろと俺の枕半分を濡らしているツナに笑って、自身をしまわせた。
俺も服を整えてタオルを近くのゴミ箱に放り投げた。

「リボーン、ごめん…ごめん」
「もう、いい。泣くな、お前がダメツナなのは元からだぞ」
「俺、だって…みんなに、迷惑…かけた」
「なら、謝ればいい。それで許されるのかはしらねぇが、あいつらだぞ、十年ついてきた奴らだろうが。そんなんで、愛想尽かされてたらもっといいところに乗り換えてるだろ。とくに雲雀はな」
「あ…」
「それなのに、ここまでついてきたのは何でだ…?お前だからだ、自信持って呆れられて殴られてこい」

そしたら、俺が甘やかしてやる。そういえば、ツナは泣きながら頷いて立ち上がった。
それでも不安げな顔をする、ツナにキスをしてやり送り出した。
一人になった病室で、俺はようやく元の生活を実感し、一人知らずに流れた涙の存在を知った。

「…アイツに会えてよかった」

今の俺の首には指輪は下がっていない。
仕事をする時には持ち歩かないからだ。
それなのに、あの時現れたあれは何だったのか…そもそも、アレは夢のなかのものなのだから何でもありなのだろう。
よくわからない世界線に飛ばされていたのかもしれない。
が、見慣れた光景に俺はため息をついてベッドに身体を沈みこませた。

それから、俺が起きたことを知った奴らが病室に乗りこんできてぐちぐち文句を垂れるのはあと半日後のことだ。
悪い毒に犯されたような日々は終わった。
確かに、俺の本当の日常だった。
また、仕事中に逃げ出すツナの監視役をするのかと思うと嬉しくも呆れが勝る。
ただ、それがよかった。
そんな毎日が俺の日々だった。
あいつのいない日々に耐えられないのは…俺だったのだから。




END




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