本当は、大人だってわかっていた。
あのころとは違う、あのころとは、なにもかも…違っている。
中学生じゃないし、リボーンとの関係も変わったし、何より俺は陽のあたるところを元気に歩けるような人間ではなくなってしまったのだ。
それに関しては、怒っているわけでもないし、リボーンと居るためには仕方ないことだと諦めていたところもある。
だから、いい。
俺はリボーンといれるならどこにいても関係ない。



それはのように俺を侵食している



そろり、そろり、と気配を消して歩いていた。
日々の仕事に嫌気がさすのはいつものことで、こうしてトイレに立つといいわけをつけて抜けだすのもいつものことだ。
トントン、と肩を叩かれた。

「隼人?しー、リボーンに見つかったら大変なんだからあっちいってて」

俺は相手も確認することなく言って、自室へと向かう廊下を歩いていた。
いつもここでリボーンに見つかってしまうのだ。
今日こそは、逃亡を成功させたいのにともう一度叩かれた手を振り払う。
が、隼人だったら俺に声をかけるはずだ。
こんな風に肩を叩くとかそういうまどろっこしいことはしない。
だとしたら、この手は…と考えて嫌な予感に行き当たった。
そろそろと振り返るとそこにはリボーンがいて、俺ははじけたように走り出すが、足を引っ掛けられてその場に顔から突っ込んだ。

「痛いっ」
「まぁた逃げやがって、いつになっても懲りねぇな」

リボーンの見下ろす視線に背中をつめたいものが伝い落ちた。
腕を掴まれてしまえばいとも簡単に捕まってしまう。
そして、いつものように執務室へと戻されるのだ。

「獄寺、目離すなって言っただろうが」
「へ?」
「おら、仕事しろ」
「はーい」

隼人に残念そうな顔をされながら俺は仕方なく机についた。
書きかけの書類に再び目を通さなければならなくなる。
リボーンはその間俺の傍に居て、俺のことを見ている。
隼人は自分の仕事をしなければならないからだ。
リボーンは俺の監視役で、時間がある限り俺を傍にいる。
傍にいない時に俺は抜けだすのだ。
リボーンがそうやって俺の近くに居てくれるから安心してしまう。
俺のことを心配して、なんでも教えてくれるから…つい、甘えてしまうのだ。

「ねぇ、リボーン…ご褒美くれるなら、俺がんばれるよ」
「…そうかよ」
「ねぇ」

にやりと笑ってリボーンを見る。
今日の夜を匂わせればリボーンは少し悩む間が生まれる。
悩むだけ無駄だってこと、そろそろ知った方が良いと思う。
だって、それって俺とするかどうか悩んでるってことじゃん。
突っぱねない時点で手遅れだよ、と思うのだ。

「お前の好きなだけ、してやる」
「やたー」

そんなリボーンが俺は好きで、リボーンも俺が好きなんだ。
嬉しさのあまりペンを走らせる手に力がこもる。
今日は、どんなことをしてくれるのだろうか、とか、どういう風にしてくれるのかとか、俺からリボーンがいなくなることなんて考えられない位には、惚れこんでいるのだと思う。




仕事を無事に終え、俺はリボーンの部屋に来ていた。
もちろん、シャワーを浴びてだリボーンは今バスルームを使っていて俺はベッドで適当に待っている。
ローション、ゴム…は必要なし。玩具類も俺達は使わない。
お仕置きとかそういうのでは使われたのだが、あまり好きじゃないため普通にするときは、ローションだけで十分だ。
待っていると、リボーンが出てきた。
腰にタオルを巻いただけの状態で髪はまだ濡れている。

「ちゃんと乾かせよ」
「あ?んなの、お前が待てないだろ」
「うん、待てないけど…風邪ひくよ」

それに、明日からリボーンは暫く居ない。
ちょっと最近動向が怪しいファミリーの潜入調査をしてもらうことにしているのだ。
ファミリーの顔が割れている骸には無理なので、頼めず…どうしようかと思っていたら俺を使えばいいとリボーンがいった。
正直あまり良い予感はしない、骸ならどうにか逃げてこれるだろうが、リボーンはどうだろうか。
中学生のときに見せつけられたリボーンの本気を俺は知っている。
だから、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせて、今回の潜入調査を頼んだのだ。

「リボーンのこと忘れないように、たくさんシて」
「忘れる前に戻ってくるだろうが」
「二日三日いないだけで身体は寂しくなるんだって」

ベッドにあがってきたリボーンに抱きつく。
俺も服を自分で脱ぎ始めてリボーンの暖かい身体に身体をすり寄せた。
リボーンの風呂上がりの匂いを嗅ぐだけで、身体が早く欲しいとざわめき始める。
ドキドキと心臓が反応して、俺はリボーンの首筋へと舌を這わせた。

「誘ってんな」
「いいだろ、ご褒美早く欲しいんだもん」

かわいこぶってんじゃねぇとデコピンをされながらも俺の身体を引き離して押し倒してくる。
見上げればリボーンは俺の身体をじっくりと観察するように眺めている。
さすがに恥ずかしくて身体を隠すようにすると手をベッドに押さえつけられた。

「うごけない」
「動く必要ねぇぞ」
「う…」

ニヤリと笑うリボーン、俺がするのとは格段にいやらしさが増している気がするのは気のせいなんかじゃないはず。
リボーンは俺の肌を撫でて、俺の肌を舐めていく。
暖かい舌にびくっと反応すると突起を口に含まれた。

「あっ…」

ぬるりとした舌が、俺の身体を撫でている。
とんがってくるとジュッと吸われて背をのけぞらせるとますます楽しそうに笑うのだ。
舌が大胆に動いて突起を押しつぶすようにされると勝手に膝を立てて足をリボーンの太股へと擦りつけてしまう。
乳首を刺激されるとあそこが疼く、その方程式を俺の身体に教え込んだのもリボーンだ。
リボーンは俺の身体を勝手にカスタマイズして楽しんでいるのだ。
迷惑だと思うのに、これがリボーンの好みなのかと思うとあまりうまく言えないが、嬉しくて仕方ない。
少しずつそうやって変えられて、そのたびリボーンは好きだって言って俺を宥めてくる。

「ツナ…もっとするか?」
「ん…して、して」

リボーンのその合図にもう片方の乳首がリボーンの指につままれた。
そっちももうすでに感じて尖っていたのだが、そこだけをされ続けて満足することはない。
俺はフルフルと首を振って、自分で腰を押しつけた。

「も、焦らすな…ここ、ちょうだい」
「まだ濡らしてもねぇぞ」

ヒクヒクと勝手に痙攣して欲しがるそこに熱いものをちょうだいといえば、気が早いと怒られた。
まだ慣らしてもないし、広げてもない。
男の身体は面倒だと自分でも思う。
だが、リボーンはそれに関しては文句一つ言ったことはないのだ。
ホント、リボーンはどこまでも俺を甘やかす天才だと思う。
厳しい時は厳しいのだが、甘い方が比率的に多いと思うのだ。
俺の考えを知ってか知らずか、リボーンは俺の身体に出しておいたローションをかけてきた。
自身に絡ませてそこから秘部へと移動する。指をいれて、硬さを確かめるために内壁を押される。
それだけで感じる予兆になってしまってぎゅっとシーツを握りしめた。
引き寄せるとシーツが手繰られて、皺になる。
リボーンがそうやってゆっくりと慣らして、俺はその後に訪れる熱と甘さのために耐えるのだ。
耐えると言ってもそんなに辛くないし、気持ちいいからもっとと思ってしまう。

「あっ、あぁっ…リボーン…」
「まだ指だけだぞ、それなのに勝手に感じるのか」
「そう…?だって、そこ…そこされると…ぁ、あうっ」

長い指は俺の届かないところにも届いてしまい、感じてどうしようもなくて俺は自分で自身を掴んだ。

「なんだ、ひとりでするのか?エロイなツナ」
「ち、ちがっ…あ、やんっ…ちがうのにぃ」

リボーンに言われるなり意識してしまって、俺はせき止めるために握った自身を扱き始める。
違う、ちがう、とうわ言のようにくりかえしながら感じでどうしようもなくなって勝手にイキそうになる。

「あっ、あぅっ…りぼーん、いきそう…ねぇ、いっちゃう」
「いったら、このままいれるのはなしだ」
「やっ…いれる、それ…ほし」

リボーンの意地悪な一言に手を止めないまま首を振って、ぎゅっと目を瞑って耐える。
二本に増えた指は、まだ抜ける気配がない。
リボーンは俺の中に三本指をいれて限界まで開くようになってからゆっくり入れるのだ。
それまで、待てるのかと言えば無理…リボーンを煽ってなんとかいれてもらうか、無理やり自分からいれにいくか…。
その二択に頭の中で絞られてしまうこと自体、俺がすれてきているということにつながるのだが、それはリボーン限定なので大丈夫だ。

「リボーン、ほしい…りぼーん」
「感じてるな、先端から先走りが溢れてるぞ」
「い、うな…ぁっ」

三本の指が入る。
少しの圧迫感に息を吐きだして慣れると、ぐちゅぐちゅと言っている音に耳を澄ます。
先走りを自身に塗り込んで今か今かと中が待ち浴びている。
すると、リボーンの指が俺の感じるところを掠めて思わず締めつけてしまった。

「ここだろ?」
「んっんっ…そこ、だめ…しちゃ、あぁっ…いく、でちゃうっ」

やだ、というのにリボーンの指は容赦なくそこを擦ってくる。
腰が勝手に揺れて、カクカクと突き上げる動きを繰り返した。
恥ずかしいと顔を隠そうとするのにそれは許されず、もうだめだと泣きだしたところでようやく指が抜けていく。
まだ開ききる前だから、リボーンが我慢できなかったのだろう。

「はやく、はやっく…ぁっああっ、あーっ」
「くっ…緩めろ」
「む、りぃ…やっ、奥きて…」

リボーンの苦しげな声も知らないとばかりに首を振って、自分から腰を押しつける。
下生えの感触に奥まで来ているのだと感じて、締めつけた。

「ったく、好き勝手しやがって」
「りぼーんも、だろ」

腰を掴んで高さを調節して、ゆっくりと動き出す。
それがだんだんと激しさを増していって、ぎゅっとリボーンの腕を掴んだ。
早まるピストン運動に俺はもう泣きだしたような喘ぎをあげて、我慢していたそれを一気に吐き出した。

「やっ、もう…イった、イっちゃった、のにぃっ…」
「ここからだろ?褒美はまだまだあるんだから遠慮すんな」
「も、い…ぁぁっ、はぁっ…」

感じてどうしようもなくなって、両足をリボーンの腰に巻きつけながら喘ぎ声をあげた。
そんな何もかも自分のものに染め上げるようなリボーンの求愛が俺は好きで、好きで仕方なかった。
そして、その日は散々やって眠りについたのだ。
早朝、リボーンが俺の隣から抜け出ていく気配を感じた。
俺はまだ眠くて起きはしなかったのだが、衣擦れの音がするのを聞いているとそろそろリボーンは出なければならない時間なのだと気付いた。
暫く聞いていたが、俺は徐に手を伸ばすとリボーンのシャツを掴んだ。

「ツナ…?」

声がして、起きたいのに…起きれなかった。
まだ眠くて瞼があがらないのだ。

「いってくる」

リボーンはそう言って、ちゅっと音を立てて額に唇の感触がし、リボーンは寝室を出ていってしまった。
なんでか胸騒ぎがして、俺はなるべく考えないようにその日、二度寝をして寝坊しかけた。




キュッとカレンダーにバツ印が付けられた。
リボーンが帰ってこなくなって四日目だ。昨日まであった連絡が今日はない。
俺は心配になった、なにかあってはならないことがあったのではないか…と。

「隼人、リボーンが戻ってない」
「連絡は、昨日で途絶えましたね」
「雲雀さんに調べてもらえる?」
「はい、すぐにでも探らせます」

俺は仕事をすることで気を紛らわせたかった。
あの、リボーンがいく前日に感じた胸騒ぎ。
想像したくないのに嫌な予感が俺の中を蝕んできて、なにも頭に入ってこなくなる。
何もなければいい。
リボーンは仕事が遅くても二日は遅れない。
遅れるとなったら連絡ぐらいくるだろうが、それもない。
じっとしていると嫌な予感ばかりが俺の中に湧いて出てくる。
怖い、と自然と手を握りしめていた。
少しして、隼人の代わりに雲雀さんが執務室に入ってきた。
いつもより焦っている様子の雲雀さんに俺はやっぱりなのかと、予想をたてずにはいられない。

「リボーンは…?」
「まだそっちは行方掴めないけど…ちょっと気になったから、これみて」

雲雀さんは持ってきた書類を机の上に開く。
それは、リボーンが調査にいっているファミリーのものだった。
噂と、リボーンが調べたと思わしき写真と説明が書かれていた。

「ここ、薬と人身売買をやってるよ」
「…もしかして」
「彼だって一流のヒットマンだろ」
「でもっ、こんなの初めてですよっ」
「わかってる、だからもう少し時間をくれないか。情報が掴めてからじゃないと動けないし、それにあっちから来てくれないと動くにも動けないだろ」
「…はい」

多分リボーンの素性は捕まったとしても知られないはずだ。
そういう風になっている、たとえ捕まったとしても決して口を割らず、黙秘を貫きとおすのだ。
だからこそ、リボーンが捕まるということは死の確立が高いことを示していた。
泣きそうになるのを耐えて、まだその時ではないしそんなこと考えたくもないと俺は骸や山本に連絡を取った。
明日になれば準備が整うだろう、雲雀さんはどうするつもりかは知らないが、準備ができるとするのなら明日だ。
リボーンの行方を捜してから半日が過ぎようとしていたころ、雲雀さんはどんな情報網を駆使しているのかわからないが、あっという間にリボーンの居場所を突き止めてくれた。
やはりあのファミリーに捕まり牢屋の様な所に閉じ込められているらしい。
雲雀さんが淡々と話すのを聞きつつ、話しが耳から抜けていた。

「リボーン…」
「しっかりしなよ、今から作戦会議するよ。君がしっかりしてくれないと、どうしようもないだろ」
「……」

強い口調で言った雲雀さんは俺をじっと見つめてきていた。

「君がなにを思おうと勝手だけど、僕たちは君について行くしかないんだ。そこは、ちゃんとわかってなよ」

不器用だが、励ましの言葉に鼻の奥がツンとする。
それをなんとか深呼吸をすることでやり過ごして、皆を収集したのち作戦会議を開いた。
雲雀さんはパソコンを持ち込んでいて、ずっとその間何かを弄っていた。
そして、それはその日の夜わかることとなった。

「…なんだろ、これ」
「貸して」
「え?」

雲雀さんは俺の手から手紙をひっつかんでそれを勝手に開いていく。
なにか大事なものだったらどうしようかと思って、けれど雲雀さんは受け渡すことなく中身を開いて、にやりと笑った。

「これで、繋がった」
「…は?」

中学の時の雲雀さんはとてもわからない人だと思ったけれど、今の方がますますわからなくなっているなと感じたことは口に出すことなく雲雀さんの開いた手紙を目の前に突きつけられたことでわかった。
それは、向こうのファミリーからの招待状だった。

「明日いくよ、僕たちを連れていくといい」
「雲雀さん…言われなくても、そうするつもりでした」
「生意気」

雲雀さんはそういいながら、俺の頭をクシャリと撫でて今日はゆっくり寝て、明日に備えろという言葉に従った。
どんな手を使ってくれたのかわからないけれど、明日にでもリボーンの元に行けるのは嬉しくて、俺はとりあえず寝ることにしたのだった。




俺はスーツに身を包み、リボーンを捕えているファミリーの屋敷に来ていた。
骸には幻覚で変装して先に入ってもらった。
ベルを鳴らすとメイドが出てきて、屋敷の中へと案内される。

「これはこれは、ようこそおいでくださいました。ミスターボンゴレ」
「こちらこそ、お招きありがとう」

笑顔で握手を交わす。
後ろで控えるのは隼人と山本と雲雀さんだ。
交渉を持ちかけられるらしいが、俺はそれを耳にいれるつもりもなければ呑むつもりもない。
じっと見つめる相手側の強面の男たちが睨みをきかせている。

「ところで、そちらにヒットマンは一人いませんか」
「…はい?」
「先日から連絡がとれず、困っているんです」

いうなり雰囲気が変わった。
目の前の男も表情が一変して俺を睨みつけている。

「ああ、あのねずみですか。始末しましたよ」

いうなり、俺は手をあげた。
途端、雲雀さんと山本、隼人が飛びかかり俺は目の前の男を背負い投げて床に押しつけると首に手を添えた。
このまま力をいれてしまえば窒息死を招くだろう。

「や、やめてくれっ…もとはといえば、そちらが勝手に送りこんできたものだろう」
「そう、勝手にしたことだ。けど、あいつは俺にとってかけがえなの存在なんですよ」

焦る男の首に添えた手に力を込める。
だんだんと締まっていくのだろう、呼吸が苦しそうになってくる。
その後ろでは振り払ってでもこようとする部下を雲雀さん達は押さえつけていた。

「どこにいる?」
「ち…地下牢だっ。隠せる場所はそこしかない」
「案内しろ」

ボスを立ちあがらせて案内させる。
騒ぎを聞きつけて走ってきた他の部下にボスを盾に取ると手を出せない様子だった。
どんな状態になっているのかは、わからないがこれでリボーンに会える。
そう思っていた。

「この下だ」
「お前もこい」

暗い地下、下を覗き込むと明かりが見える。
ボスを盾に取りながら下へと降りていくと、牢屋の中、リボーンが両手を拘束され上半身裸の姿で、鎖で吊るされていた。

「リボーンッ」
「……」

顔をあげたリボーンは、俺が見えるのかもわからなくて、その腕には無数の注射器の痕が見えた。
チッと舌打ちして、鍵を開けさせる。

「今から殺されるのと、後から殺されるの…選べるぞ?」
「や、やめてくれっ…俺は俺達のルールに従ったまでだ」
「なら、俺たちだって自分のルールを行使させてもらうまでだな」

こちらが悪いことはわかっている、だが許せなかった。
最強だと言っていたヒットマンが、あんなにもわけがわからなくなるほどの傷を負わされていることに。
銃を取り出すと鎖を撃ち抜いた。
リボーンはたつこともできずその場に倒れてしまい、俺の手の中で怯えているボスのこめかみに銃口を突き付けた。

「同じだけの苦しみを味あわせてやる」
「っ…ぐっ」

パンッと一つの銃声が鳴り響き、ただの抜け殻になった身体はその場に倒れた。
俺は急いでリボーンの元に駆け寄り抱き起こす。

「リボーンッ!?リボーン、大丈夫か?…リボーン」
「……つ、な」

声をかけると、小さく俺の名前を呼んだ。
けれど、それ以上は口にすることもできず、だがその目が見開いたかと思うと身体を起こし俺の上に覆いかぶさってきた。
そして、目の前に広がるのは…とても深い赤だった。

「あ、あっ…あぁあっ、リボーン…リボーン!!」

目の前にいたのは、ボスを殺された部下で俺に覆いかぶさってきたリボーンの背中を切りつけていた。
俺は完璧に油断していて、失念していた。
こんなところで、リボーンに守られる何て思っておらず信じられない気持ちで手も動かせなかった。

「何してるんですかっ!!」
「リボーンが」
「君はっ、目の前のことに気を取られすぎです。なんでここにきたんですか」

足手まといだと骸に罵声を浴びせられた。
けれど、俺は自分の手でリボーンの傷を押さえるのに必死でそれどころではない。
いや、俺がするべきはそれじゃないことは頭の片隅でわかっていた。
本当は、リボーンを置いて応戦しなければならない。
すぐに、逃げなければならない。
なのに、リボーンがこんなことになって俺は何も動けなくなってしまったのだ。
俺の手をすりぬけて溢れる血に、だんだんと俺の思考も落ちそうになってそれだけはダメだと自分の上着を脱ぎリボーンに被せた。
銃を握り直す。

「骸、逃げるぞ」
「わかってますよ、なにもわかってないのはきみでしょう」

骸は俺の声にまったくとため息をついて、リボーンの身体を担ぎあげた。
骸を赤く染めていくそれに、早く帰らないとと焦る。
次々とわいてくる敵を骸の幻覚を使って間を縫って逃げる。
雲雀さん達にも声をかけ、早々に屋敷を出た。
息も細くなっていくリボーンを屋敷に連れ帰るなり集中治療室へといれられた。

「は…は…う…」

血を拭きとることも着替えることもせず俺は、勝手にあがっていく息に戸惑っていた。
すると、いきなり俺の肩を掴んで殴られた。
座っていたソファを落ち床に倒れ込む羽目になった。

「綱吉、今回のこれは下手したらみんないなくなっていたよ。それでもよかったならなにも言わないけど、君の勝手な行動で誰かがいなくなるのは目覚めが悪いから止めてくれるかい」
「ひ、ばり…さん」
「なにもわからないなら、殺してあげようか?」
「ふ…もう、いっそ殺して欲しいですよ」

静かに雲雀さんが取り出したのは、トンファーだった。
簡単に殺せる道具だ。
俺は身体を起こして、目を閉じた。

「何してんだっ」
「邪魔しないでくれる?」
「邪魔するに決まってんだろっ、十代目に何しやがるっ」

雲雀さんを見てしまったのだろう隼人がきて、そこで乱闘が始まりかける。
俺は、ぎゅっと手を握りしめてぼろぼろと泣きだした。

「ごめん、なさい…やめてください、もう…やめてくれっ」
「十代目…」
「……」
「俺が、全部悪いから…仲間割れは、止めてください」

もう、どうしていいのかわからなくなった。
大切なものを失う恐怖が、身体を動かなくする。
何もかも無くすかもしれない時に、俺はなにをやっているんだろう。
こんなことなら、こんな感情すらもなくせたらよかったのに。
何度そう思っても、リボーンを大切に思う心は捨てることはできなくて、すみません、と何度も床に手をつき謝り続けた。





続く




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