暑くなれば水に焦がれるというもの。
このボンゴレ邸には室内プールというものがある。ただ、今年はまだ手入れをしていなくて温水プールは使えるが普通のプールのほうは空っぽの状態だ。
「骸、お前暇?」
「…暇ならここにいませんが?」
いらっとした不機嫌を丸出しにされて俺は苦笑する。
骸は今俺の手伝いに書類と向き合ってくれている。隼人はというと、珍しく任務に向かってもらった。
理ボーンもそれに同行してもらっている最中だ、そう俺と骸以外はみんな仕事をしている。いや、俺もしているがもう飽きてしまったのだ。
こうして空っぽのプールに水入れて入りたいなと思うぐらいには、この暑さにおさらばしたい。
「そういえば、雲雀さんもいたような…」
「どうしてあの男の名前が挙がるんですか」
「そりゃ、仲間だからだろ」
ますます不機嫌そうに眉間にしわを寄せた骸に笑いながらまだ慣れてないのかとため息を吐く。
たぶん、この屋敷にいる守護者はこの二人だけだ。たまには、親睦を深めてもらうのも悪くないかもしれない。
まぁ、この二人はお互いにそんなのはごめんだというだろうけど。
俺は立ち上がると、骸の腕をつかんだ。
「?なにをするんです」
「うん、とりあえずプールいくぞ」
「は?ちょっと待ってくださいっ」
驚いている間に俺は骸の手を引いて部屋を出る。
地下にある室内プールへと向かいながら、隣接させている雲雀さんの部屋へと入った。
「どうしたの、綱吉…?」
「こんにちは、雲雀さん」
「なにそれ、僕の部屋に入れないでくれる」
「物扱いとは…あいかわらず、口が減りませんね」
「君なんてそれで十分でしょ」
入った途端に二人の間に漂う緊張感。そんなこともなれたもので、浴衣姿の雲雀さんの手をとると骸と同じように有無を言わさず引っ張った。
「えっ…なにするの」
「とりあえず、きてください」
とまどいつづける二人を連れてきた先は、空っぽのままのプールだ。
しばらく使わないまま水を抜いたせいで苔がうっすらとくっついている。
「今から、三人で掃除したいんですけど」
「「…は?」」
「いや、綺麗な方がいいじゃないですか」
「どうして僕たちなんですか」
「そうだよ、部下ならほかにもいるでしょ」
仕事を途中放棄させられてそんなこと言われたら誰だってやりたくない。それはよくわかるが、下っ端の人にやらせるほどじゃないし。
むしろ、俺たちが使うのだから自分たちのものは自分たちできれいにするのは当たり前だ。
なので、俺は全く間違ったことはしていないと思う。
「俺たちが使うところは俺たちでやりましょう」
掃除用具入れからスポンジを取り出してにっこりと笑う。主にプールを使っているのは俺がほぼだったが、みんなも何かしら利用していた時もあるので十分だろう。
二人を見れば、お互いを見つつもしかたないと俺の手からスポンジをとってくれた。
「では、掃除はじめ〜」
「…こんな広いところをどうやってやるんだい?」
「一日で終わるんですか?」
「まぁ、少し水を入れながらなら効率よくいくんじゃないかな」
俺は水を入れるために蛇口をひねってみる。
が、一向に水は出る気配がない。
少し使わない間に水が出なくなっているとは知らず俺は首をかしげた。
けれど、二人が待っているのでとりあえずホースを伸ばしてそこから水を少しずつでも入れることにする。
「これ…」
「水が出ないんです、我慢してください」
「我慢って言ったって、これでは作業になりませんよ」
それでも二人は水をつけて洗剤をつけ苔を落としていく。
薄くついているだけなので、下はブラシを使うことにした。
「綱吉、転ばないよう…」
「うわっ」
「…言ったそばからやるものなの?」
「自他ともに認めるダメツナですよ、やるなといったことはやるんです」
「おい、そこ聞こえてるぞ」
「手は動いてますよ」
骸の言葉はぴったりと的を射すぎてて反論しようがない。
びしょびしょになった尻を気にしつつも俺は端から端までを走ってブラシをかけていた。
これが結構楽しい。
何往復かしたら、雲雀さんに代わって、その次は骸。
なんだかんだ、俺たちは掃除が楽しくなってきていた。
「リボーンはいるか」
「ん?ヴェルデ?」
いきなりプールのドアが開かれて顔をあげれば、そこにはヴェルデがいた。
「ヴェルデ博士、どうかしましたか?」
「私はリボーンに用事があってきたんだ。貴様らには興味ない」
「リボーンはまだいないけど」
「貴様らは何をしているんだ?」
「見てわからない?プール掃除だよ」
興味はないといったくせに、俺たちがしていることには興味があるんだなと苦笑して、俺はあっと思いつくと手を打った。
「ヴェルデ、プールの水が出ないんだ。どうにかしてくれない?」
「何故、私がやらなければならない?」
「ここにいる人じゃどうにもできないから、見ればわかるだろう?」
「まったく、最近の奴らは扱いが荒いっ」
にっこりと笑って言ってやれば、ヴェルデは舌打ちしつつも制御室の方へと向かっていった。
これで、水が出るようになると俺はまたプールの中に戻った。
「なんだかんだ、もう半分終わりましたね」
「そうだね。掃除したら水をいれるんだろう?」
「はい、そのつもりですよ」
「これから暑くなる。有効的に使わせてもらうよ」
意味深な笑みを浮かべて雲雀さんは言って、骸は手を止めて休んでいたから二人してじっとした目で見てみた。
「やりますよ、そちらも手を動かしなさい」
「言われなくてもやってるだろ」
「どうして僕がこんなこと…」
「そんなこといって、結構楽しんでるくせに…うわっ」
不本意丸出しの顔をしている骸ににやにやと笑って近づけば、苔に滑り倒れかけたところを骸に支えられた。
「君は、どうしてそう…おっちょこちょいなんですか。少しは気をつけなさい」
「気を付けてるよ…つい、気を付けるのを忘れるだけで…」
「それをおっちょこちょいっていうんですよ、馬鹿ですか」
「悪かったな、馬鹿で」
「本当にバカツナだな」
「ヒッ!?」
聞こえてきた、どの人とも違う静かな声に俺は昔から植えつけられた条件反射に身体がピシッと固まった。
この声は、俺の知ってる限り…一人しかいない。
しかも、一番ここにいてほしくない人物だ。
ぎぎぎっ、と音がしそうなほどゆっくりと振り返れば、そこには仁王立ちした、リボーンが立っていた。
ひくっと頬が引きつって身体が逃げをうつが、リボーンは中に降りてくると俺の首根っこをつかみあげた。
「ちょっ…」
「プール掃除はしまいだ。仕事に戻れ」
「リボーン、俺が悪いんだ。二人は無理やり連れてきたんだってばっ」
「まぁ、事の発端はそうだけど…仕方ないな」
「そうですね」
俺はリボーンに怒らないでくれというが、雲雀さんと骸はため息を一つつくと次の瞬間には俺の身体が骸によって支えられていた。
「へ?なんだ?」
「おい、なにしやがる」
「仕置きを、というのなら僕たちは綱吉君を返しませんよ」
「少し楽しそうだから、相手しなよ」
チャキッとトンファーを構えてみせる雲雀さんに、能力全開で幻覚をみせていく骸。
こちらに味方してくれるのはうれしいが、確実に二人の目的はリボーンの本気だ。
これではプールが壊れてしまう。
「いい度胸だ」
「待って待って、三人ともすとーっぷ」
リボーンは懐から銃を取り出して、二人は挑む構えだ。
だめだと何度も叫ぶが三人とも取り合ってくれない。
と思ったら、いきなり大きな蛇口から水があふれ出てきた。
そばにいたリボーンは服を濡らして、しかも足元に流れてきたためによろけた。
もちろん、雲雀さんも骸もそれをみて一瞬意識がそれる。
俺は体重を骸の方にかけて足をついて、一気に押し倒した。
もちろん、雲雀さんの手を引いて三人一緒に薄く水が張った汚いところへとダイブしてしまったから三人で頭からびしょ濡れだ。
「腕試しは禁止」
「まったく、つまらない」
「本当ですよ」
二人とも髪から水が滴り、俺も全身が濡れてしまった。
顔をあげると、やる気をなくしたリボーンは俺に上着をかぶせてくる。
「お前は、やること全部がめちゃくちゃなんだ」
「…そんないいかた、ないじゃん」
はぁ、とため息を吐いて。蛇口を直してくれたヴェルデはリボーンに話があるとか何とか言って、いち早くプールを出て行ってしまったのだった。
俺と雲雀さんと骸はこのままでいても仕方ないと立ち上がり、現地解散となった。
続く