我慢は身体に悪い


恋人とのセックスが好き。
普通のことだろう、けれど、いくらセックスが好きだと言ったって、時と場合と場所というものがある。
どこでもさかられた日には、それも嫌になるというものだ。
俺の恋人であるリボーンはまさにそんな男だった。
そこでもヤるとなると、構わない。
ファミリー内公認となったとしても、やはりそれは色々と問題があるわけで…。

「君、いい加減にしてくれるかな?」
「……雲雀、さん」

廊下を歩いてたときに背中に声をかけられた。
振り返ると雲雀さんがそこにいた。
しかも、ちょっと機嫌が悪そうだ。
俺はとっさに何かしてしまったかと記憶をたどった。
やましいことがなければこんなこと考えないが、ありすぎてどれなのかわからない。
雲雀さんはため息をついて俺に近づくと襟を掴んだ。

「ここ、ついてる」
「…あ、すみません」
「まったく、浮ついた気持ちでやってると皆の士気が下がるんだから止めてよね」

示されたのは首筋に付けられた赤い痕。
雲雀さんのいうことはもっともで、俺だって気をつけている。
これらすべてを容認しているわけではない。

「気をつけます」
「まぁ、僕は別にいいけどね…気持ちはわからないでもないから。でも、君は君であの赤ん坊をなんとか抑え込みなよ」
「…はい」

暗にボスがそれでどうするんだと言われて苦笑しかない。
いえば止まるだろうが、どうせすぐに元通りになってしまう。
俺は小さくため息をつきながら雲雀さんから離れたのだった。
示しのつかないボスですみません、心から謝りつつも今日こそはリボーンに何とかしてもらおうと思う。

「今日は…抑え込んで見せる」

廊下で一人、意気込みながら歩く足取りはなんだか軽く思えたのだった。





が、

「なんでこうなるっ」

せっかく俺はリボーンに抑えてもらおうと思ったのに、なんでかリボーンにソファに押し倒されていた。
まぁ、仕事が終わった後でここには二人きりしかいないのだけど。
なんつうか、雲雀さんにあんなこと言われてその数時間後にこんなことをできるのかといわれたら…少しばかり自重したいわけで…。

「嫌か?」
「嫌だ」
「……」

嫌かと聞かれて、同じ言葉を返した。
すると、なんだか納得できないような顔をする。
それも当然だろう、俺がセックスを拒むことなんて結構珍しいことだからだ。

「なんだ、どうした…腹でも下したか?」
「セクハラで訴えるぞ。別に、そうじゃないけど…今日雲雀さんに言われたんだよ」

下世話ないい方に軽く睨みつけると、今日のことを話した。
これで、リボーンが手を出すのを止められるかと言ったら無理だろう。
けれど、見えるところにつける痕を自重してくれたらいいな、とか思ったんだ。

「だから、見えるところにつけるの禁止」
「会合がある時は避けてんだろ」
「ここにいても避けろって、それが無理ならセックスしないぞ」
「なんでそうなる」
「だって、自重できないなら接触なくなった方が早いだろ」

納得しないような顔で機嫌を悪くされてしまえば、こうする方が早いと説明する。
大体、コトに及ぶと俺はすぐに訳がわからなくなってしまうから、痕をつけるなという前に付けられていることが大半だ。
ならば、最初から触れなければいい。
極論だが、一番効果がある。

「納得できるわけねぇだろ、ツナ」
「…納得してくれないと困るよ」

こうなることは予想できなかったわけじゃない。
というか、リボーン相手にこうならない方がおかしい。
ここからどうするか、俺は考えたのだ…今日一日かけて。
けれど、答えは出なかった。
出せなかった…こうして、リボーンに押し倒された状況で、逃げるすべなど俺は持っていないのだ。

「納得できなきゃ、どうなるんだ?ヒバリに仕置きだと犯されるか?」
「ばかやろうっ、そんなのお前しかいないだろっ」

変な妄想を繰り広げるリボーンに、そんなことを考えるのはお前だけだと喚いた。
俺はリボーンに何されるか不安なのに、リボーンは違うんだな。
まったく意見の合わない根源をみたようで思わすしみじみとしてしまう。
だが、リボーンは待ってくれない。
俺の服に手をいれてきて、慌てた。

「ちょ、ちょっと…ダメだって言ってるだろっ」
「本気で嫌がってねぇくせに、ダメも何もねぇだろ」

本気なら平気で殴り飛ばすなりなんなりするじゃないかといわれて、言葉に詰まる。
いや、本気で嫌なわけないじゃん…だって、恋人だよ。
恋人がさ、身体求めてきて、それを本気で嫌がるとか…自分の身体に何かない限りはしないことだろう。
俺はいたって健康だし、生理でもないし腹だって下さないし…むしろ、なんでこんなことで制限されなきゃならないのかって思ってるぐらいだよ。

でもさ、でもさぁ…っ。

雲雀さんにあんなこと言われる身にもなってくれよ。
あの呆れた、と言わんばかりの目を向けられてみろよ。
そりゃ、俺だってそんな周りなんて関係なくリボーンのこと欲しいよ。
めちゃくちゃにされたいって、思ってるよ。

「でもさ、俺ボスだよ…みんなのこと大切にしたいのに、お前だけだって言いたいし…けど、それができないんだよ」
「ツナ…」
「お前が痕残したがるの…わかるよ。俺だって、お前のものでいたい…この身体、骨の髄まで全部…リボーンのものだって、思っていたい」

でも、それはこの道を選んでしまった時からできないことだったんだ。
言葉尻は口に出すことができず、唇を噛みしめてしまう。
どんなに願っても、もう俺にはできない。
俺は両手を伸ばすと、リボーンを抱きしめて背中を優しく撫でた。

「ごめんな、リボーン」
「…俺は、そこまで望んでねぇぞ。それに、ここに引き入れたのも俺だからな」

優しく目尻を撫でてくるその指の暖かさが心地いい。
目を閉じると、そっと唇が触れた。

「…いい加減、俺に身体を明け渡す気になったか、ツナ」
「…何で絆されてくれないかなぁ」

せっかくいい雰囲気を作ったのに、それをぶち壊す一言にむっと唇を尖らせる。
なんでこうも流されてくれないのだろうか。
リボーンには心があるのだろうか。

「おい、今失礼なこと考えなかったか?」
「そんなことないよ、心読むな」
「読まなくてもわかる、よし…仕置きされたいならそういえばよかったじゃねぇか、たっぷりしてやるぞ」

にやりと笑って、俺に手をかけてくるリボーンに止めろと手を掴んだ。

「人が口に出さないからって勝手に決めつけやがって」
「ん?言いたいならその口で言え、飾りか?」

いらっとする一言を添えてくるなとリボーンから目を逸らさずにいれば、構わず服のボタンを開けられていく。

「まって、たんまっ…たんまぁっ」
「さっきからずっと待ってただろ」

これ以上は待てない、ぴしゃりというなりボタンが全部外されて胸があらわになる。
男だ、胸なんか見られたところで恥ずかしくもなんともないのだが…そこに、リボーンの痕を見つけてしまえば自然と腕を前にして隠すようになれば、ますます楽しいと口角をあげた。
まるで、草食動物に狙いを定めた肉食獣のようだ。
このままでは食われる、そう思うのにリボーンのいうように本気で抗えるはずがない。
ソファの腕置きのところの隙間に隠しておいたローションを取り出すと目の前でリボーンはそれを垂らしている。
とろりとしたたるそれが、どこに塗られるのか考えただけで下半身が熱くなる。

「ツナ…俺の指が欲しいだろ?」
「卑怯だ…」

ローションの滴る指を見せつけるように動かすリボーン。
それは俺の中に入った後の動きを模しているようでとても卑猥だ。
そして、そうやって誘われるたび俺の頭は思考を停止したようになにも働かなくなる。

「ツナ」
「…ほ、しい…」

促されるようにして引き出された言葉、だがその言葉の効果で意識せざるおえなくなってしまった。
その指がどこを触って、どんな風にして俺を乱していくのか…。

「下、脱げ」

甘い命令に結局従ってしまう。
ベルトを緩めてズボンを下着と一緒に脱ぐ。
ここはまだベッドじゃない。ソファの上だ。
けれど、止まらない…。
足を促されるように開かされて、片方はソファの背もたれにかけろと言われて投げ出した。
リボーンの目の前に丸見えになって、恥ずかしくて目を逸らすのに可愛いなと言われた。

「そんなとこ、可愛いって言われても…」
「じゃあ、どこを可愛いって言ったら喜ぶんだ?」
「かわいい、じゃ喜べないよ」

なんで今日はそんなに可愛いにこだわるのか、聞きたかったのだがリボーンの指が入りこんできてそれもできなくなってしまった。

「アッ…ふぁっ」
「ゆっくり感じてろよ」

リボーンに言われて、目を閉じ感じ入る。
リボーンの指は何かを探るように動いていて、俺はハッとした。
その動きに覚えがある、そしてそのままにするとヤバいことになると気付いた。
けれど、それは一歩遅かったようだ。

「うぁっ…あぁぁっ!?やめっ、やめぇっ…あぁっあーっ」
「気持ちいいところだろ?このままいっぺんいっちまえ」

リボーンはニヤリと笑うとそのまま指を激しく動かしてきた。
先走りが溢れて、俺の頭が一気にメーターを振りきった。
息も絶え絶えに中を締めつける。
これ以上されたら死にそうだと思う時に、突然の放出感。
そこでようやく、自分が果てたのだと気付く。

「はっはぁっ…はぁっ…ごほっ、くるし…」
「まだ、これで終わるわけないだろ?」

すぐさま、熱いものが宛がわれる。
リボーンの自身だと気付くと、秘部が早く食べさせろと口をぱくぱくとさせるのがわかった。
先端が入口に擦りつけられて、今か今かと待っている。

「や、しないで…これいじょう、しないでっ…」
「嫌じゃねぇだろ?これがほしいだろ、ツナ」

ぴったりと合わせて、入るかと思ったところで腰を引く。
その動きに合わせて追いかければクスリと笑みを浮かべて、ぴたっぴたっとつけたり離したりを繰り返している。
いい加減リボーンも限界だと思っていたのに、余裕そうな顔が癪に障る。

「おまえ、何で感じないんだよ」
「感じてるぞ…今からいれてやる」

俺で感じないのかと拗ねた気分で言えば、ぐっと押しつけられた。
熱くてやけどしそうなぐらいのそれが入りこむと俺は途端にリボーンの腕を掴んだ。

「やあっぁっ…しないでぇ、そこ…しちゃやだぁっ…いくっいくっ…」
「早いぞ?」
「だめ、もう…だめぇぇっ」

さっきの指で弄ばれたところを優しく擦られるたびに中を締めつける。
自身はだらだらと白濁を溢しているだけだった。

「イきっぱなしか…もっと苛めてやるぞ」

楽しいな、ツナ、と笑顔で言われてこれが仕置きの一種なのだと気付いた時には遅く、散々喘がされることになった。




「わかった、もう…いくらでもしてください」
「わかればいいんだ、そのかわり痕は自重してやる」

情事が終わったあと、すがすがしいぐらいの顔でリボーンは上機嫌だ。
その反対に、俺はくたくたに疲れて指の一本もまともに動かせない状態。
こんなことなら、雲雀さんにいわれたとかって無理に抑え込むのは止めればよかったと少し後悔したのだった。

「ツナ、もう逃げる気なんて起こらないだろ?」
「ごもっともで…」

結局いうだけ無駄だったということをまざまざと見せつけられただけだったのかと俺は小さくため息をついた。





END







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