恋人の心の狭さを計りたい



久々に街の様子でも見てみようと屋敷を抜け出したのだが、いつものごとく厄介ごとに巻き込まれるのが俺だ。

「これすごく気持ちよくなれるよ」
「いらないです、麻薬だろ」
「ちょっと違うかな、法律ぎりぎりの合法ハーブ」
「それでも、俺は要りませんから」
「こんないい尻しといて何言ってんだよ、あんたゲイだろ?隠したって俺には分かるんだぜ」

だから、これで気持ち良くなりな、と半ば強引に麻薬じみたものを売りつけられそうになっている。
もちろん、リボーンにはいつものごとく内緒なのでいない。
俺がここら辺を取り仕切っているボンゴレのボスだといっても、あんたみたいな子供がボスなわけねぇとぴしゃりと叩き落された。
いや、本当のことなんだけど…。
こういう時ばかりは、自分の童顔を恨みたくなる。
といっても、俺の場合週一単位で何かしらの理由で童顔を恨みたくなっている。

「ゲイだろうとなんだろうと俺はいらない」
「んなつれないこと言うなって、あんただけ安くしとくよ」
「だから…」
「なんなら、俺と一発どうだ?」

男の一言にピクリと反応する。
つまり、こいつの目的はこれだ。
目を付けた男を漁って食う。
こんな奴が街にいるなんて、俺の方針…少し甘くしすぎたかな。
島は島で取り仕切って入るが、違法ならすぐにでも捕まえて根元を探らせている。
そのため、こういう人種は少なくなったと思ったが、思わぬところで出くわしてしまったらしい。

「ここって、そんなに売りやすいの?」
「ああ、そこいらじゃ立ってるだけで職質だからな。ここだけでしか、売れねぇよ」
「ふぅん、いいこと聞いた。なら、俺もそれにならってやらせてもらおうかな」
「…へ?何言って」
「何って、あんたが言ったように立ってるだけで職質」

にっこりと笑ってやれば、男の頭に銃口を突きつけている男。
もちろん、リボーンだ。
どうしてここにいるのか、聞いても無駄だろう。
話は一通り聞いていたようで、男の身柄を拘束していた。

「で、どうするんだ?ボス」
「ボス!?あんたが!?」
「残念ながら、俺がボスです」

以後お見知りおきを、と苛立った気分を押し込めて笑うと忌々しいといった顔でみられた。
さっきまでの対応が嘘のようだ。
まぁ、こんな男に嫌われようがどうでもいいが。
その後ろのリボーンの殺気が少し怖いぐらいか。
謝るタイミングも逃してしまって、ホントどうしたらいいのか。

「リボーン…」
「ほら、行くぞ。お前も早く戻れ、いちいち巻き込まれてんじゃねぇぞ」
「好きで巻き込まれてるんじゃないって」

その言い方では、歩けば事件に遭遇するみたいな言い方だ。
どっかの名探偵じゃあるまし、そんなことあるわけないだろ。
男を捕まえて引っ張って歩くリボーンの隣を俺も歩いた。
とくに会話もなく、こうなってしまえば俺はおとなしく屋敷に戻るしかないからだ。

「十代目っ、探しましたよ」
「ごめん」

屋敷につくなり隼人が慌てていて、きっとリボーンが騒いだせいだろう。
謝りながら、捕まえた男はリボーンの手によって牢屋に入れられにつれて行かれた。

「なんすか、あれ」
「街で薬を売りさばいてた。少し治安が良くないみたいだから、街の警備強化してくれる?」
「はい、わかりました。って、やっぱり外に行ってたんスね」
「あー…気分転換のつもりだったんだよ」

捕まってたわけじゃないですよね、という隼人の追及には返す言葉もなくそっと離れようとしたら笑顔で腕を掴まれた。

「十代目、仕事残ってますよ?」
「はやとがやさしくなーいー」
「いつまでも甘やかす俺だと思わないでください」

いつになくやらせる気な隼人に俺はぶつぶつ文句を言いながらも、おとなしく執務室に戻る。
やりかけたままの仕事は、早くさばいてくれとばかりに机にたまっていてその存在を主張していた。

「はぁ…今日も一日長くなりそうだ」

隼人は俺を見張るつもりらしく珈琲を淹れに行った。
俺は仕方なく椅子に座るとその書類に向き合う。
手際よくこなしていきながら、リボーンを想う。
さっきのあの様子では、薬を持たせた裏をとるためにいろいろしているのだろう。

「そういえば、なんであんなタイミングよくこれたんだろ」

途中から気配に気づいて、タイミングを合わせたのだが俺があそこにいるなんて当然リボーンは知らなかったはずだ。
街に出ている、という情報もどうやってそう判断したのか。
長年の勘、とか何とか言いそうだと結局そこに行きついて余分なことを考えるより早くやってしまおうと仕事に集中することにした。




街に繰り出していた時間を考えると、仕方ないぐらいに残業をしてしまった。
休んでしまったのだから、遅れて当然なのだが…眠くて仕方ない。
リボーンは戻ってくるはずもなく、どこにいるのかと屋敷をさらっと探した。

「あ、雲雀さん。リボーン見ませんでした?」

やっぱり牢屋だろうかと向かおうとしていたら雲雀さんがこちらに歩いてきて俺は声をかけていた。
雲雀さんは少し疲れた顔をしながら俺を見ると、ふぁと欠伸をした。

「尋問してるよ、といってももう粗方吐かせたから楽しんでるだけじゃない?」
「そうですか、雲雀さんもお疲れ様です」
「ああ、君…さぼってたみたいだね。罰として、明日僕は休むから」
「えっ!?」
「言い訳は聞かないよ」

じゃあね、と俺の言葉も聞かず歩いて行ってしまった。
なんで罰なのに、雲雀さんが休むことを条件にされなければならないのか…。
休みたいならそう言ってくれればいいのに。
雲雀さんなら、俺だってだめだといわない。
俺より確実に仕事をしてくれているのだから…。

「雲雀さんが気を遣ってくれてるんだよな…うん、そういうことにしておこう」

あまり深くは追及することなく牢屋の方へと向かえば、奥から悲鳴のようななんか断末魔みたいな声が聞こえてきていったいどんなことをしているのかと不安になる。
そろりと、覗くと案の定な光景が広がっていて、リボーンはなんだか機嫌が悪いようだった。

「リボーン…?」
「…お前はこっちにくんな」
「そろそろ終わりにして、ね?」
「なんだ、もうそんな時間か?」
「うん、俺仕事終わったし」

このままリボーンを置いておくわけにはいかない。
そこまでリボーンがすることないのに、と生きてるかどうかも分からない男を横目に牢屋から出てきてもらった。
そして、残りは明日にしようとリボーンを連れ出すことに成功した。

「で、どのルートかわかった?」
「とりあえずな、それとお前にも訊問だ」
「へ?」

いきなりそんなことを言われて、俺は何をしたのかと焦る。
いろんなことをし過ぎてどれについて追及されるのかわからない。
逃げたくなる気持ちがでていたのか、すかさずリボーンが俺の腕を掴んだ。

「え、…とぉ、なんか…しましたっけ?」
「してんのか。まぁいい、そっちはおいておいてやる。ベッドの中での尋問だ、嬉しいだろ」

嬉しくない。
本気で逃げたいのにそれもできない。
むなしくも、俺はリボーンの部屋に連れ込まれてそのまま寝室へ。
ベッドに押し倒されたかと思えば尻を撫でられた。
それも、とびっきりいやらしい手つきだから思わず声も出てしまった。

「ほう、そうやって感じたのか」
「はぁ!?なんのことだよ」
「今日のことも忘れたのか」

そこまで言われて、俺はようやく今日あの男に尻を撫でられていたことを思いだした。
薬を無理やり押し付けられようとしていたのもあるが、会ったとき尻を撫でられて気を引かれたのが最初だった。
そこから、話が発展してああなっていたのだ。

「まって、それ俺不可抗力なんだけど」
「言い訳なんかきくか、触られりゃ声が出るぐらい感じる癖に」
「リボーンだけだって、わかってるだろ」
「わからねぇな、あいつから取り上げたこれ使って楽しもうじゃねぇか」
「おまっ、なんでそれ持ってんだよ」
「没収したついでだ」

ちらりとみせられた薬の瓶に俺は震えあがった。
そんなものを使われた日には明日俺が使い物にならなくなる。
逃げようとベッドを這うが無駄な抵抗に終わって、俺の言葉もむなしくリボーンに薬を無理やり飲まされたのだった。

ちなみに、薬の中身はシャマルに調べさせていたので安全は保障されていたらしい。
けれども、そんな一時の感情に任せて怒りというか嫉妬をぶつけてくるなんて、やっぱりリボーンは心が狭い。

と、腰痛の俺は思うのだった。



END





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