女はオオカミなのよ


(!)注意

・完全なる狂騒ネタ。
・アルベド→アインズ。見様によっては掛け算なのかもしれない…
・未遂ですが逆レ的な要素があります。
・もとから美味しい<完全なる狂騒>の効果にさらなる追加効果あり。
・勢いで書いたのでおかしな部分があるかと思われます。
・アルベドの特殊能力に捏造があります。
・布教で支部にも載せてあります。


−−−−−−−


 ナザリック地下大墳墓の主であるアインズ・ウール・ゴウンはナザリック地下大墳墓第九階層にある自室を目指し、足早に移動していた。運が良いことに、誰とも鉢合うことなく自室に着くことができたアインズは、胸に手をあて安堵する。
 再び歩みを再開させ、だだっ広い豪華なつくりのリビング、様々な衣装で彩られたドレスルームを眼中とせず、目を惹くような繊細な模様が彫られた扉に手をかけると、アインズは開いた先にある天蓋付きの巨大なベッドに迷うことなく倒れ込んだ。

「あー…つかれた」

 顔面を覆う肌触りの良い生地に顔を押し付け気だるげな声をもらす。その姿は到底ナザリック地下大墳墓を支えている至高なる存在と呼べるものとは思えないが、今のアインズにはそれを気にしている余裕はなかった。
 普段なら左に右にと転がってベッドの柔らかさを味わうところだが、そんな元気も一切ない。それくらいにアインズは疲労感を感じていた。

(嘘だろ! 〈完全なる狂騒〉の効果が抜けきれてないとか、嘘だろおおお!)

 鈴木悟の残滓が悲痛な叫びを上げる。だむだむ、ばふばふとベッドを叩きながらほんの何時間か前にやらかしてしまった出来事を思い出し、情けない声をもらしてしまう。
 すべての元凶ともいえる〈完全なる狂騒〉とは、アインズが宝物殿を漁った際に見つけたアイテムだ。その見た目はどこからどうみてもパーティーグッズのクラッカー。ふざけた外見をしているがこれは決してルームアイテムなどではなく、消費アイテムとして存在している。付与された能力の内容はアンデッドなどがもつステータス異常無効のスキル、精神攻撃が効かなくなるスキルを無効にするというものだ。

 それを、アンデッドであるアインズは、ついうっかり自分に使用してしまった。引くなとかかれた紙がついた紐を引いた瞬間、気味の良い弾ける音と色とりどりの紙吹雪が舞うなか、握り拳をつくり左腕を天に向かって掲げた、ふざけた顔をした金色に輝く筋肉質な像がひょこりと現れ、やってしまったと理解したときには時すでに遅そく、いつもなら一定のラインに達すると抑圧されるはずの感情がまったく抑え込まれずにアインズは−−鈴木悟は盛大に〈混乱〉というステータス異常を引き起こした。
 そのうえ間髪いれずアルベドがやって来るわプレアデスたちも来るわ、最終的に守護者までやって来るはめになりアインズは〈完全なる狂騒〉のことを隠し通すことで一杯一杯な1日を送ることとなってしまい、気がつけば草木も眠る丑三つ時である。本来の〈完全なる狂騒〉は三〇分もしないうちに効果が消失するはずなのだが、どうやらユグドラシルにあった時とは微妙に違うらしく、効果時間が恐ろしく伸び、六時間近くも経過しているというのにアインズは全く冷静になれないでいた。

(おまけにこれ、精神作用効果無効だけじゃないぞ…)

 肉体的な効果も一部無効化されている気がする。
 なぜならアンデッドに必要のない睡眠、もはや懐かしさをもかんじるほどに忘れかけていた人間時代には存在していた睡魔特有のおだやかさが現在進行形でアインズを誘っているからだ。

「いや、でも、飲食不要が無効化されなかっただけましか」

 飲食必須になったらそれこそ立ち直れない。
 骨だぞ、臓器がないだろ、だだ漏れだぞ、つまり羞恥プレイだろ。勘弁してくれ。

「〈完全なる狂騒〉の効果を打ち消すアイテムなんてあったかなあ。パンドラズ・アクターなら知ってそうだけど…」

 パンドラズ・アクターには宝物殿の守護を任せている。つまりは持ち出すところをばっちりと見られている。わかって持ち出したと思われているところに「このアイテムの効果ってなんだっけ?」なんて聞けるだろうか。恥ずかしくて聞けるわけがない。

「はやく状態異常から回復したい…」

 どうして異常状態を打ち消すアイテムが使用不可なんだ、と嘆きながらアインズはうつ伏せから仰向けに体勢を変え、寝室をぼんやりと照らす〈永続光〉が付与されたランプに向かって「光よー消えろー」とやる気のない声を飛ばす。消灯設定ワードに反応した照明器具は、蝋燭の火が吹き消えるようにして灯していた薄紫の輝きをなくした。

「あーダメだ、眠い。今日も1日お疲れ様でしたー明日もがんばろう…」

 定時帰宅の許されぬ残業にまみれた日々を送っていた時によく口にしていた言葉を紡ぐ。
 どこかで嗅いだことのある良い香りに包まれながら、アインズの意識はずぶずぶと底のない沼に沈んでいくかのように静かに落ちていった。



 モモンガ。そう誰かが呼ぶ声が聞こえた。
 かつては賑わっていたギルドで散々呼ばれていたプレイヤーネーム。今はもう亡き、捨てた名前。だというのに、どこからか聞こえてくる。呼ばれるたびに鈴木悟の残滓が震え、過ぎ去ってしまった過去を思い出し、悲しみ、憤り、懐かしむ。誰だ、誰なんだ、その名前で呼ぶ者は−−

「あら、もう起きてしまわれたのですね」
「あ、アルベドよ、何故お前が此処にいるのだ」
「アインズ様がお疲れの御様子であると聞き、このアルベド、飛んで参りました!」

 若干どころか壮絶なデジャヴを感じる体勢であることに気付き、アインズは瞬時に眠気もクソもないほどに目が冴えた。消したはずの部屋の明かりが何故だか再点灯しているのが気がかりだが、さほど気にすることではない。問題は頬をほんのりと桃色に染めながらとろんと溶けたような瞳でこちらを見つめてくる女の存在だ。
 とろけるように潤んだ金色の瞳の奥に獰猛類のようなギラついたなにかを感じとり、鈴木悟の人間性あふれる残滓が危険を察知し悲鳴をあげ転げ回る。

「ちょ、ば、お前は何をしているのだ!」
「もちろんアインズ様のお疲れを癒やそうと」
「その割に手つきがおかしいのだが!」
「気のせいです」

 癒やしの意味を辞書で引いてみろ、誰かを癒やす為に黒のネグリジェ姿で人様に跨るなんて話、聞いたこともないぞ、と怒鳴りたい気持ちを飲みこんだ自分を誰か褒めて欲しい。

「あー…。アルベドよ、少し落ち着いて話をしよう。な?」
「…。ご自身のお身体をお使いになって異常状態に対する実験を行うのは如何なものかと思われます」
「…? あ、ああ。そうだな、心配を掛けたようだな、すまないなアルベドよ。しかしこれから先、何が起こるかわからないからな。こちらの世界での耐性やアイテムによる無効化の効力がどれほどのものか気になってしまってな」
「さすがアインズ様、そこまで考えていらしたのですね」
「む、そうだ」

(なるほど、ついうっかり使ったとは思われていないんだな)

 急に何を言い出すのかとひやひやしたが案外普通の内容であったことにアインズはない胸をなで下ろす−−ことはできなかった。助骨の一本をひどくゆったりとした動作で撫でられたからだ。
 びしりと固まるアインズを尻目に、アルベドは乱れたローブから覗く白く滑らかでありそれでいて硬さと太さも十分にある骨の一本に指を這わす。白魚のように白く、女性らしい細さをもった指先がアインズの胸骨をなで上げた。
 明らかな欲をもった触れ方に、アインズは下顎骨を半開きにしたまま背筋−−胸椎を冷たい何かが走るのを感じ、このままではいけないと抵抗をする。しかし−−

「もう、アインズ様ったら恥ずかしがることなんて何ひとつありませんわ」
「恥ずかしがるとかそういった問題ではない!」
「くふふふふ! このアルベド、異性経験はありませんがアインズ様を満足させるため、僅かな時間を見つけては異形種のあれそれな書物を読み漁り知識だけは入念に蓄えましたので−−御心配なさらず!」
「いいかアルベド、話をき、けぇ!? 」

(−−え、もしかしてこれは能力値による〈抵抗〉に失敗してるのか!?)

 まさかの出来事にアインズはすっとんきょんな声をあげてしまう。
 アルベドを引き剥がそうとしたアインズの両手は、恐ろしいことにアルベドに片手で抑えられてしまったからだ。

(アルベドがもつ常時発動型特殊技術のなかに、拘束関係のものがあれば…ありえる)

 満面の笑みで馬乗りで夜這いしかけてきた女に、心のなかで表情を引きつらせる。
 鈴木悟は彼女を作ったためしが一度としてない−−所謂童貞というものである。それが、美しく淑やかそうな、しかしその見た目に反した骸骨だろうが関係なしの肉食系女子に一方的に喰われようとしている。妄信的に狂信的に己に付き従っていた女にだ。やれやれ、とんだラッキーボーイだぜ。なんて発想はなく、純粋にわいてくるのは恐怖の二文字である。

「さあ、アインズ様。今宵はご覚悟下さいませ」

 身の毛もよだつ程に、この場には相応しくない不純さを全く含ませない見惚れるほどに美しい、純粋という言葉をかためたような笑みをたたえ、アルベドは形の整った柔らかな唇をアインズに捧げるべく、顔をゆっくりと近づける。
 その背後にアインズは幻を見た。ペロロンチーノとぶくぶく茶釜が親指を突き出し、いやに爽やかな声でグッドラックと言うのを−−




「どどあああああ!?」

 アインズは飛び起き、明かりひとつない部屋の巨大なベッドから飛び起きすさまじい勢いで転がり落ちる。

「アルベド!? い、いない。夢か、夢なのか!? 夢で良かったあああ…」

 肉のない骨の体をぺたぺたと触り、ここが現実であるということにアインズは歓喜する。

「睡眠によって悪夢が引き起こされたのか…? 分からないことがまだまだあるな」

 ぐちゃぐちゃになったローブを直し、ベッドに腰掛ける。
 美人に迫られること自体はそこまで悪い気はしなかった。鈴木悟もアインズも男であるのでアンデッドの体とはいえ、そこそこに嬉しいものだ。性欲は無いに等しいほど落ち込んでいるが。
 しかしあれは駄目だ。怖すぎる。夢のなかだったというのに恐怖に陥るほどに恐ろしかった。

「久しぶりに感じた睡眠欲がこんなことを引き起こすとは…。気分転換に風呂にでも入いるか」

 すっかり眠気の覚めてしまったアインズは目覚めの悪さにうなだれながら寝室から出て行った。自分以外の存在が室内に潜んでいたことも知らずに。




「やっぱり直接手をだすべきだったかしら。既成事実をつくってしまえばよかったのかもしれないわね」

 誰もいなくなったアインズの寝室。広々とした寝具の下から這い出てきたのは純白のドレスに身を包んだ女性−−アルベドだ。アインズが夢から浮上する気配を察知して慌ててベッドの下に潜りこんだのだため、

「ああ、サキュバスとしての自信を無くしそうだわ。まさかあのようなタイミングで抵抗なされるなんて…。それにしてもさすがアインズ様、一筋縄ではいかないわね。逆に燃えます。このアルベド、絶対にアインズ様のことを堕としてみせるわ!」

 くふくふと笑うアルベドの邪念に突っ込みを入れる者がいない為、その黒くドロリとした濃厚な想いはとどまることを知らず、勢いよく走り、止まることなくどこかへと突き抜けていく。
 アルベドはアインズが部屋に戻ってくる気配がないのをいいことに、柔らかなベッドに潜り込むと息を大きく吸い始め、恍惚の表情でシーツや枕に頬ずりをし始めた。

 睡眠状態のアインズに、アルベドが特殊能力を使用して夢に干渉していたこと、朝日を拝む時間帯になってもいっこうにアイテムの効果が切れずひとり苦悩するはめになることも、今のアインズには知る由もなかった。




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