ある劇団のはなし


(!)拍手からのリクエスト/劇団カモマイルで中編

返答が無かったのですが勿体無いしせっかくなので、ということで劇団カモマイルでちょっとしたお話。


−−−−−−−−−−


「ねえ、次はチキュウという星に行ってみましょうよ。アスパラセイのひとたちがオススメの場所だっていってたの!」


アスパラ星での公演を終え、ロール・キャロライナ号内の飲食スペースで今回の公演の出来はなかなかのものだったやらこれはもっとこうすれば良かっただの、各自思い思いの感想を言いながらアスパラ星限定の焼き菓子に手をつけていたとき、それを提案してきたのはこの劇団の演劇一座の二大スターの片割れであるエバだった。

金色の髪を揺らし、すらりとした長い手で目が痛くなるようなカラフルな色合いの冊子を劇団員全員にみせつけるように突きつけ、彼女は大きな瞳をキラキラとさせながら話を続ける。


「なんでもチキュウにはたくさんのひとたちで賑わっていて、さらにお祭りや映画サーカスと楽しいものをみるのが好きなんだって。食べ物もおいしいらしいし、それにミステリーサークルをつくるととても喜んでくれるって!」


最後のサークル話はさておき、エバの熱い思いにやられてか−−実際は次の公演開催地を決めていなかった−−座長のピピンはチャームポイントである先がくるりと丸まった長いヒゲをちょいちょいと触りながら頷いた。

聞けばチキュウという星には以前から興味を抱いていたらしい。
しかし何故いまの今まで訪れなかったかというと語数の豊富さだと言う。

アスパラ星はなまりはあれどアスパラ語というもので統一されていたし、記念すべき第一回公演を行ったうっほい星もイントネーションに独特さはあったが統一されていた。が、チキュウにはニホンゴ・フランスゴ・ドイツゴ・ラテンゴ・ネパールゴ−−両手両足で数えてもまったく足りないほど、とんでもなく豊富なのだと。


「それなら開催地をチキュウのどこかしらに絞ればいいのでは? たとえばニホンとかさ」


エバ以上に癖の強い金髪、洒落た赤い蝶ネクタイとあわせてなかなかキザそうな外見をした彼、ニックは人差し指をぴんと伸ばす。

ニホン、と僕が呟けばトゲトゲ頭のリュオが「ニホンはいいところらしいですね」と頷いた。
どうやら雑用係である彼はニホンを知っているらしく、サクーラが、ミソスィールがと言いはじめる。

その横でみんみんがアイリにミソスィールについて訪ねていたが、アイリもミソスィールというものを知らないらしく首を傾げて困っていた。


「ミソスィールは食事にだされるスープで、ちょっとしょっぱいんだけど美味しいんだ。ボクの友達が以前つくってくれてねぇ」

「みんみんもミソスィールたべたい! ポウもきっとたべたいっていうよ! そうだよね、リュオ!」

「え、うん…?」


茶髪の髪を爆発させたように頭のてっぺんが元気一杯にリュオに同意を求めた。
みんみんは劇団最年少らしく気になったものは遊びたいし食べたいし触りたい、そんな女の子だ。
ちなみに彼女のいうポウとは劇団で飼っているペットのことだが、正直今以上に成長されると困る大きさの生き物だ。


「ねえ団長、いいでしょ? 次の公演地はチキュウのニホンにしましょうよ」

「…。ジョルジュ君はどう思う」

「僕ですか? そうですね−−」


なんとなく聞かれると思っていたけど−−ってああエバ、そんな怖い顔でこっちを見ないでほしいな。


「難解な言語が多いとしても、そこで公演を成功させれば今以上にこの劇団カモマイルの知名度と人気は上がるでしょう。それに、チキュウでの公演はきっと我々の為にもなりますし良いと思います」


時には挑戦することも必要でしょう。そう付け加えれば団長は静かに頷き席を立った。
どうやら開催地はチキュウで決まりのようだ。


「みんな、提案に乗ってくれてありがとう!」


花が咲いたように笑うエバに、団員皆もつられて笑う。もちろん僕もだ。


「はやくチキュウに行きたいね」

「みんみんもはやくいきたーい」

「チキュウか、まだ行ったことがないな」

「ニホンはデザートもおいしいんだよねぇ」


早速団員たちはこれから行くこととなるチキュウのニホンについて盛り上がっていた。
話が進んでいくほど焼き菓子の減りも早まっていくものだから、僕は相づちをうちながらも自分が食べるための焼き菓子を確保していく。

焼き菓子をそそくさと菓子皿に載せていたところをエバに見られていたみたいで笑われてしまったけれど、他の団員には気付かれていなかったみたいだから多分、きっと、セーフなはずだ。




うん、でもまさかね、ピピン団長が思いのほかチキュウを気に入ってしばらく滞在することになったり、神様からポップンパーティーに誘われたり、それから新たな星に行こうとしたところでロール・キャロライナ号が壊れてしまいチキュウでの滞在期間が延長されることになるなんて、この時の僕たちはこれっぽっちもしらなかったんだよね。


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