どうやら奴は事に及ぶよりもキスをするのが好きらしい。
何故と聞かれたらどう答えていいのかわからないが僕はそう思った。
見た目からして、というのはかなり失礼な話になるだろうが僕の奴への印象というのは「がつがつしてそうだな」の一言に尽きた。
大方、奴の体つきの良さが原因だろう。まあ、最中のときは貪り喰う気で満ち溢れているので実際のところはそうなのだが。
ところがだ、事に及ぶ前−−つまり前戯というやつだ。こればかりはどこか違うのだ。
気味が悪いくらいに優しい。目の前に居る人間は本当にあの言峰綺礼なのかと疑ってしまうくらいに優しい。その優しさを致している時にも分けろと思いたくなるくらいに優しいのだ。
「切嗣」
首筋に顔をうずめ、唇を寄せていた言峰が僕の名前を不思議そうに呼ぶ。
「ん、なんだい」
「何を考えていた」
目聡い奴め。全く、こんなおっさんにキスして何が楽しいのやら。
僕は瞼を閉じ、ふっと軽く息を吐く。
後ろから抱き締められているせいで今の僕は言峰の体にすっぽりと包まれている。服を着ているとはいえ密着しているので背中が暖かい。
その心地良さに気を抜いたところで耳たぶに唇を寄せられた。ああ、こそばゆいなあ。
「言峰…いや、綺礼」
「なんだ」
「君のことを考えていた、といったら君はどう思うんだい」
そう言ってやると言峰の動きがほんの一瞬だけ止まり、それから僕を抱き締める腕にすこしばかり力が込められた。
「全く、困ることを言ってくれるな」
そんな言葉を紡いだ唇がもう一度首筋に押し付けられた。
(キスをするのが好きなんだ)