歪んでいる



どれほどの時間が経ったのか私にはわからない。何故なら此処に時間を知らせるものがないからだ。
もしそれが存在したとしよう。短針は一周二周と過ぎていっただけなのか、それとも二十四周と過ぎていったのか。実は長針が半周しただけかもしれない。

ただ、分かることがあるとすれば、それは眼下に映る衛宮切嗣が手で口全体を覆い、頑なに声を洩らそうとしない姿勢を今もなお取り続けているということだ。
こちらがいくら攻め立てようが衛宮切嗣は目を瞑り、声を洩らすことなくただただ快感に打ち震え瞼を震わす。声を押し殺すその行動は羞恥からくるものか、それとも単に意地を張って出さないだけなのか。

それにしてもなんて素晴らしいことか。その表情に、その思考に、その姿に、ぞくりともする甘やかな痺れが体中を駆け巡ぐる。まるで−−そう、一言で表すのならば毒のようだといってもいい。
衛宮切嗣の名に心が揺れ、衛宮切嗣の言葉に脳が痺れるそれを毒と言わずしてなんと呼ぶ。それが今も私のなかにゆっくりと溶け込んで、私をかき乱していくのだ。それは胸をかきむしりたくなる程に気味が悪く恐ろしくもそれ以上に愛おしい。

乾いた笑いと共に熱が彼の中にじわりと広がる。
彼はその熱を感じとったのだろう。目尻に溜まった涙が頬を伝い、半開きの唇から飲み込みきれなかった涎がシーツに染み込んでいった。

汗でしっとりと濡れた肌は触れてくれと言わんばかりに指に吸い付いてくる。脇腹を撫でてやれば衛宮切嗣はびくりと身体を震わせた。
その様子に私は喜びを感じてしまう。綺麗とはいえない、薄汚れた感情だ。その想いを振り払ってやろうだなんて気は一切ない。
貪るように奥を突いてやれば彼は眉をさらに寄せ瞼をきつく閉じ熱い息を洩らした。


「気持ちが良いか、衛宮切嗣」


ゆるく首を横に振られたがそれでも体は正直なようで衛宮切嗣の中で存在を主張する私を締め付ける力が強まった。
私だけを感じている。誰でもない、言峰綺礼という人間ただ一人を衛宮切嗣という人間は感じている。感じて、ただただ飲み込むしかないのだ。


「私を感じろ、衛宮切嗣」


床に転がるガラス片。ねじ曲がった短針と折れた長針。どれほどの時間が経ったのか私にも彼にもわからない。

ただ、分かることがあるとすれば、それは。




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