「エミーゼル坊ちゃーん!」
「なんだよ−−ってうわあああ!?」
真っ正面からの暑っくるしい抱囲と明るげな大声を受け、エミーゼルは怪訝な顔を−−する間もなく裏返った声をあげた。
「おおおお前、なな何してんだよ!」
「え、キスですけど」
「キスですけど、じゃねーよ!」
それはあまりにも突拍子もない行動だった。おまけに同性相手にと来たものだからさらにとんでもない。
怒りからなのか羞恥からなのか、エミーゼルはボッと火がつく勢いで顔を紅潮させながらアクターレを指差す。
だが、当のアクターレはにこにこと無害そうな顔をして笑っているだけだ。
しかし今のエミーゼルにはその、やけに爽やかな笑顔とキラリと光る白い歯がなんともいえない憎たらしさを放っているように見えた。むしろ憎たらしさしか見つからなかった。
「わーお、坊ちゃんの顔見事なまでに赤いですよ。あ、嬉しかったからですか? いやだなあオレ様まで照れちまうぜ」
「あんなことされて誰が喜ぶか! これは嬉しいんじゃなくて怒ってるんだよ!」
「またまたそんなあ」
照れ隠ししてもバレバレですよ!
ぱちりとウインクを飛ばすアクターレ。過去にタレント業をしていただけあってなかなか様になっていたがそれをされたところで何かにときめくわけでもなく、それどころかときめきからは随分と遠い位置にある想いがわいて出てきて前の金髪の魂を刈り取りたいと思っただけであった。
「なんなら唇にでもして差し上げましょうか?」
爽やかさから一転、そこには意地悪く笑うダークヒーローがいた。
(ああもう、鼻先にキスするやつがあるか!)